第21話「リアルも夢も、私が同行致しますよ!」

この異世界にはない新たな浴場『銭湯』の建築、運営に関して、

第一段階の打合せは終わり、基本的な段取りは大体組んだ。


各自の役割を分担する。


まずは、宰相レイモン様。

各種申請、認可に関して便宜をはかっていただく。

後は、随時相談に乗って貰う。


レイモン様の話を聞くと、非合法な商売をしている現公衆浴場を、法律を整備し、

いずれは業態転換させるか、最悪の場合、強制閉鎖させるつもりらしい。


次に風呂職人テランスさんの仕事。

クラリスの絵を基にして銭湯の平面設計図を起こす。

次に銭湯のミニチュア模型を造り、立体的な仕様見本にする。


また彼のかっての仲間へアプローチし、今回のプロジェクトの参加への是非を問う。

このアプローチに関しては、俺にアイディアがあり、全面的に協力するつもりだ。


その次はキングスレー商会幹部社員マルコさんの仕事。

秘密裏に造れる銭湯建築現場の手配。

これは王都から大工さんを始め、スタッフが通勤可能な場所。

レイモン様も視察したいとおっしゃっているし。


更にその次は王都から現場へ通える大工さん達スタッフの手配。

そして肝心の資金の調達が最重要である。


最後に、俺の仕事。

テランスさん、マルコさんの様々なフォロー。

魔法等を使った実務。

そして雑用処理、各所への連絡及び交渉係を行う。


それぞれが通常の仕事を抱えており、並行してやるのは結構大変である。


ちなみにオベール様ご夫妻はオブザーバー。


最初に公衆浴場を建設するのは、ボヌール村。

なので、領主として情報を共有しておくという趣旨である。

実は打ち合わせに参加したのは、寄り親となって間もないレイモン様と、

コミュニケーションをとるというのが最大の収穫といえるかもしれない。


そんなこんなで……

レイモン様が多忙の中、作ってくれた時間、30分はあっという間であった。


「ご苦労様」と手を振るレイモン様とマルコさんへ「お疲れ様でした」と告げ、

俺、テランスさん、オベール様、イザベルさんは撤収し、隣室へ。


王宮に長居は無用である。


転移魔法でまずはさくっと、エモシオンのオベール様城館の執務室へ。

ちょっちご夫妻と打ち合せをし、お礼を言われ、ボヌール村へ帰還。


一緒に戻って来たテランスさんは、レイモン様やオベール様などお偉いさんと、

やりとりしたせいか、少しだけ疲れを見せていた。

だが、目がキラキラと輝いていており、そして


「ケン様、俺、頑張ります。どんどん命令してください!」


と、やる気をみなぎらせていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺とテランスさんは、じっくりと打ち合せ。


彼が行う作業、設計図、ミニチュア模型の作成もそうだが……

善は急げとばかりに、仲間の情報を収集する。


改めて聞けば、テランスさんの仲間は10人。

その中で、風呂職人として仕事に誇りを持ち、

一緒に運営を行っている商会へ抗議してやめたのが7人だという。


その7人は、王都在住らしい。

だが、抗議事件があってから、すでに半年以上が過ぎていた。

テランスさん曰はく、7人のうち、住所が分かっているのが5人。


では!

ということで、早速、行く事にした。


「え? これから王都へ行くのですか?」


「ええ、転移魔法で。当然、テランスさんも一緒に連れて行きます。お仲間さんが、現在もその住所に居住しているのか、確認しましょう」


「まあ、そうですね。彼らが王都を離れ、旅に出るとかしたら、捜すのも大変ですし」


「ええ、善は急げです。これからすぐ王都へ行き、7人の所在を確認しておきます。まずは住所が判明している5人の自宅へ案内をお願いしますよ」


「な、成る程。すぐ、というなら転移魔法ですね」


「はい、でも王宮へ行くわけには行きませんから、俺の別宅へ行って、そこ経由で王都内を回ります」


「はい、ではお供します。ですが……今日中に全員へ話は出来ませんね。いろいろと、ややこしい話ですし、彼らが考える時間も必要でしょう。何せ、人生のターニングポイントですからね」


「人生のターニングポイントとは、もっともです。なので、今日は所在のみの確認です」


「な、成る程。では何日かに分けて、訪ねて行くのですね」


「はい、必要があれば、行きます」


「え? 必要があれば、ですか?」


「ほら、テランスさんへお見せしたように夢で会って、銭湯の現物もろもろを見せます」


「あ、そうか! ケン様は夢で会える魔法……を使う事が出来ました! それなら、ボヌール村に居ながら、彼らに会えますね」


「はい、論より証拠で、話が早いと思います。当然、テランスさんも一緒に行って、説得にあたって貰います」


「ああ、それは本当に良い方法です。ひと晩で何人も回れますしね。リアルも夢も、私が同行致しますよ!」


きっぱりと言い切ったテランスさん。

出来るだけ多く、説得するぞ! と腕を撫していたのである。

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