決意

 今日も快晴。雲一つ無い灰色の空が眩しい。その眩しさに顔をしかめていると、遠くの方から村人の呼ぶ声が聞こえた。

 それは村の門の方からだった。理由は分かっている。本当はあまり行きたくないけれど後悔はしたくない。仕方なく門へと向かった。


 結局、片角はケンセイの一撃で消滅した。

 片角が消えると、止めどなく現れていた他のイログイ達もいつのまにか消え、ツヨシに色を塗られたイログイも砂となっていた。

 ケンセイへの力の継承が上手くいったことについては、ゲンコツがツヨシに持論をもっともらしく伝えていた。

心絵師こころえし心色しんしょくってのは、そいつらにとって一番なんだよ。だから他に一番があるやつに心筆しんぴつを渡しても上手くいくわけがない。だが、ケンセイは金以外の色を知らなかった。だからすんなり受け入れてくれると確信していた。まあ、実際はお前の色も知っていたから混ざっちまったが……結果オーライだろ」

「結果オーライって……いや俺の色が混ざったって言うが、俺の色はあんなに明るくないぜ?」

「それは……あいつにはそう見えてたんじゃないか? 何せ色を知らないから、小さな違いもより強く見えた、か……もしくは金の輝きを強く感じていたからかもな」

 そんな会話をして、二人ともちゃんとではないが、一応納得していた。

 それからケンセイは何度か祖父と一緒に戦い、実戦の経験を積んでいた。

 これから村を守るために必要になっていくからだったが、その頃からケンセイは別のことを考えていた。

 それは旅に出ること。

 村を出てツヨシ達について行き、色んな所を巡りたいとそう言ってきた。

 ゲンコツは即答した。

「行ってこい! 村には俺がいるから問題ねぇ」

 そう言って深く頷いた。まるで何かを知っているかのように。

 マリアは諦めたようにため息をついた。もうそれが答えだった。

「わたしは当然ついていくけど……」

 そう言ったのはヒメだった。

 そしてそれに驚いたのはケンセイだった。危険なのは分かりきっていることだったから、連れていく気など全く無かった。

 だが、ヒメが決めたことを考え直させることは誰にも出来なかった。それに何より、旅に出た方が記憶を取り戻せるかもしれないからと言われたら、誰も何も言えなくなってしまった。


 そうして出発の日。見送りに来たのはほぼ村人全員。

 少し遅れてマリアもやって来て、ヒメにちょうど良いサイズのハンマーを手渡す。

 みんなに送られながらケンセイは故郷を出た。

「見たんだろ? でも言っちゃダメだぞ、それが三禁の最後の一つなんだから」

 村から離れて最初の休憩の時、ヒメ達と離れた所でツヨシがそう言った。

 ツヨシの言う三禁の最後の一つは“心絵師はその目に映った事実をむやみに広めてはならない”というものだった。

 はたから聞けば意味の分からない言葉。

 でもケンセイには意味が良く分かっていた。

 それは片角が消えるとき、ケンセイは間違いなく見た。様々な色が宙に消えていくのを……

「やっぱり今言うと混乱が起きるとかが理由なの?」

 ケンセイは三禁について言われなくても、これは言ってはならない気がして、今まで黙っていたと言った。

「そうだな、現状ではイログイの殲滅なんて夢物語だ。だからむやみに広めないようにしているんだ。幸い見えるのは俺達心絵師だけだしな」

「どこに行ってるんだろうね?」

「さあな、どこかで色が戻ってるとか、イログイのボスがいてそこに集まってるとか言われているが……確認のしようがないしな」

 そう言われて、ケンセイは少し考えてみる。だがすぐに考えることは止めて、ツヨシにもう一つ気になったことを聞いてみる。

「いつだったか言ってた“心絵師の悲願”って……」

「そりゃ当然そういうことだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ココロCOLORS むっくりっく @mukku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ