エンドレス・ワールド
渦巻 汐風
select:0 柊とシュウ
「被告人の罪状を読み上げる」
背筋に冷たい電気が走る感覚がした。
この場にいる人間は声を発しない状況で、悪を裁く正義の矢が自分を貫く。
「被告人は即刻死刑に処すものとする」
その瞬間、命の終わる音が聞こえた。
何も喋ることはなく、反論の余地もない。
最悪の状況で俺はどうやら目が覚めてしまったらしい。
「刑の実行は今から処刑場で行う、被告人及び傍聴席の人間は速やかに処刑場に向かうように」
何もしていないはずなのに、正義は悪を追い立てる。
例え悪人の中身が全くの善人だったとしても、法という裁きの前では、多数決という正義の前では状況を覆す鍵とはならない。
「ではこれにて、被告人 シュウ・アカトの裁判を閉廷する」
そう、それこそテロリストの乱入というものでもない限りは。
閃光、後に爆風。
突然の事態に手を縛られた自分は備えることも出来ず爆風に吹き飛ばされてしまう。
傍聴席の柵を壊しながら転がると何か硬いものにぶつかってようやく止まった。
いきなりの事態に驚き声も出せずに瞑っていた目を開くと目の前には全身黒ずくめの人間がこちらに向かって手を差し伸べていた。
「こちらに来い、シュウ・アカト私達は君の『力』を必要としている」
ひどく不気味な声で俺に呼びかける。
この人間は俺を助けようとしているのか。
ふとそんな楽観的な思考が浮かぶ。
そんな俺の思考を見透かしたように言葉を続ける黒づくめの男。
「勘違いをするなよ、君を助けに来た訳では無い、私達『結社』はあくまで君の『力』を欲しているだけに過ぎない」
「…ぅ、ぁあ…」
「答えを聞こう、シュウ・アカト」
その男は被っていたフードを脱ぎ去ると俺に向かって選択を迫った。
「この手を取れシュウ・アカト、君にはそれしかない事はわかっているはずだ」
その声に俺は、命惜しさに応えてしまった。
その選択が、世界を壊すかもしれないとも知らずに。
俺は、朱兎(あかと)柊(しゅう)はそんな愚かな選択をクソッタレなこの世界でしてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「……ウ、…ュウ!」
耳をつんざく声が聞こえる。
何か呼び掛けるような、そんな感じの。
「シュウ!!」
「!?」
「おい、どうしたんだよいきなりボーッとしやがって。俺の話はそんなにつまらんか」
心臓がどきりとした。
もう会えないと思っていただけに。
どれ程この瞬間を待ちわびただろうか。
必死に足掻いて、取り戻そうとしてやってはいけない悪事にも平気で手を染めたというのに。
自分の網膜には、懐かしい光景が焼き付いていた。
「も、戻った…?」
「は?何言ってんだよシュウ、この暑さで頭ぶっ飛んだか?」
「ゆ、裕二だよな…?」
恐る恐る確認をとる。
これは夢かもしれない、信じきれないのだ、長い間夢として見てきたが故に。
「もう一回いうが、は?俺は裕二、お前の親友で幼なじみの裕二だぞ?」
「あ、あぁ…本当に裕二だよな」
「な、なんだよ頭バカになったせいで名前まで忘れたのかよ」
こんなやり取りをもう何年もしていなかった。
目の前の親友をよく見れば成程本当に六年の歳月が経っているらしく随分大人びた顔つきにはなっているが昔の面影が残っている。
「本当に…」
あのクソッタレな世界に飛ばされてからかれこれ六年。
俺は、シュウ・アカトは。
「帰って、来れたんだ」
「ほんとにどうしたんだコイツ、救急車呼ぶか」
救急車、この言葉も懐かしい。
もう何年も地球に関することを話したり思い出ししていない。
感慨深くあたりを見渡す。
建ち並ぶ近代住宅、ビル、飲食店。
辺りには自分の他にも現代人らしい格好の人々が思い思いにその場を歩いていた。
ある者はスマホを弄りながら、ある者は友人らしき者とたわいない話をしながら。
あの世界には何もかもが見る事の出来ない光景に、自然と透明な雫がポトリとこぼれ落ちた。
「おわっ!?こんな人が大勢いるところで泣く奴があるか!!」
「ごめん、ごめん裕二」
「謝らなくていいから、どこか落ち着けるところに行こう、な?」
そんな親友の心配する声に頷きふたりは人々の喧騒が聞こえる街へと歩き出した。
この瞬間、愚かな選択をした人間が1人。
そして安寧を傍受した人間も1人。
この2人は同一であるが同一ではない。
その名は 朱兎(シュウ)柊(アカト)。
重ねてきた記憶と、重ねてきた経験と。
生きてきた時間がまるでちがう柊とシュウは。
地獄へ行った無力と呼ばれる柊と。
天国へ戻った悪魔と呼ばれたシュウ。
愚かな選択をした2人は、今はまだ、自分を信じることしか出来ない。
エンドレス・ワールド 渦巻 汐風 @Siokaze
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