エピローグ

 ――数年後――




「今日はいい天気だねえ」

「そうだねえ」


 とある高原の一軒家。

 その家の前の緑地に、幼い男の子と、父親らしき青年の二人が寝そべっていた。


「ところでお父さん」

「何だい、息子よ」

「どうしてボクの尻を揉んでいるんだい?」

「ん? 成長具合を確かめているんだよ」

「成長具合!?」

「うむ。まだまだ修行が足りんな。もっと強度を柔らかく鍛えなさい」

「何言っているのさ……っていうか、それ、妹にはやらないでね」

「ああ、そっちはお母さんが揉んでいるから大丈夫」

「あんたら夫婦はおかしいよ!?」


 男の子のツッコミに、父親は目を細める。


「……びっくりするほど俺の知り合いに似てきたな」

「何だよそれ」


 からかっていると捉えたのであろう、男の子は頬を膨らませる。

 その膨れた頬をつつきながら、父親は笑い声を上げる。


「お前は本当に俺達の息子だなあ」

「話の流れおかしいよね!? あの話の流れからしたらお父さんの知り合いとの子供がボクとかいう重い話が来るかと思ったのに!」

「あっはっは。お父さんが浮気したらお母さんが絶対に許さないだろ?」

「うん……多分凄いことになるね……」


 男の子の顔が青ざめる。母親が相当恐ろしい証だ。


「まあ、お母さん以外の人を愛したことはないけどな」

「惚気に持ってかれた!?」

「お前も女性は一途に愛した方がいいぞ。ふらふら複数人と付き合ったりなんかしたら、魔王が尻子玉を抜いてくるぞ」

「うへえ……魔王から直接奪われたモノを取り戻したらしいお父さんに言われると妙に怖いよ……」

「実際、そのパターンで近所のサブロー君が取られたらしいぞ」

「あ、だから昨日泣きながら走ってたんだ。蒼髪の神様を探しに」

「今、ポンコツ神様もここらへんにいないらしいし、内容的にも相当懺悔の内容はハードだろうなあ」

「神様はそういうのなかなか許さないらしいって聞いたよ」

「まさか本人の恋愛がうまくいかないから浮気する奴には厳しい罰にしているとかは絶対ないんじゃないかな。うん」

「まるで実際に神様がそう思っているような言い方だよね……」


 というかさ、と男の子は父親に反論する。


「そもそもだけど、まだ好きとかそういうの分かんないや。だってボクはまだ七歳なんだよ?」

「じゃあ今、一番好きなのは誰なんだ? お父さんか? お母さんか? そこら辺のアリか?」

「妹だね」

「おいおい。身内で結婚だけはやめてくれよ」

「そういう好きじゃないから本気で心配している顔しないで! っていうか『そこら辺のアリ』っていうボケをスルーしたのにこの返し方は予想外だよ!?」


 そうやって男の子と父親がちょっぴりおかしいコミュニケーションをしている所に、家の中から母親の声が飛んできた。


「御飯よー。戻ってらっしゃーい」

「分かったー。ほれ、行くぞ」

「うん。……で、またさり気なく尻を触っているね」

「今のは自然な流れだぞ」

「何の言い訳にもなってない!?」


 まあいいや、と男の子は首をふるふると振る。


「それよりさっきの、ボクに似ているお父さんの知り合いの話を聞かせてよ」

「お? 聞きたいのか?」

「うん。お父さんはそんなでもないけど、お父さんのする話は好きだよ」

「辛辣な息子だなぁ」


 父親は苦笑すると、彼の手を引きながら歩き始める。


「よし。今からでも語ってやろう。そうだな、どこから話そうか……」


 数秒だけ逡巡した後、父親は告げる。


「そいつの名前は『セイ』っていうんだ」

「え? それってボクの名前と……」

「そう。お前の名前にも影響を及ぼしている。――んじゃ、そいつのことを語るに当たってはこう切り出そう」


 小さくて。

 ツッコミが鋭くて。

 男か女か判らない。


 その人物を頭に思い浮かべながら、幸せに暮らしている父親は語り始めた。



「そのセイは主人公だったんだよ。


 ――『魔王に奪われたモノを取り戻す物語』の、な」

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魔王に奪われたモノを取り戻す物語  狼狽 騒 @urotasawage

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