第11章 俺の扱いがひどすぎないか?
一日明け、朝のホームルーム前の教室はざわついていた。きのうの放課後、担任の浅丘先生が襲われ、襲った犯人がクラス委員の橘みどりだったということが知れ渡っていたからだ。情報発信源はおそらくサルかこずえあたりだろう。そのせいか、名探偵役をやったのがサルだということも、俺が犯人にされかかったことも当然のごとく知れ渡っていた。
サルのまわりに人だかりができている。
「すごいわねえ、愛子ちゃん」
「名探偵ってほんとうにいたんだな」
「すっげええ、ほれなおしちゃったよ、俺」
「美少女探偵誕生ってとこだな」
皆口々にサルを絶賛する。その中でサルはにやけながら大はしゃぎだ。
ついでにいえば俺のまわりにも人だかりができている。
「おまえ、愛子ちゃんに感謝しろよ」
「おまえが娑婆にいられるのもすべて愛子ちゃんのおかげなんだからな」
「ほんとうはおまえが犯人なんじゃねえのか?」
「おまえ、浅丘先生の生乳見たんだって? 死ね」
口々にありがたいお言葉をかけてくれる。
橘みどりは当然のようにいない。五月の話じゃ、俺を保健室に運び、介抱している間に消えたらしい。『神の会』の連中は正体が発覚したとたん、ことごとく姿をくらます。
しかし今回の事件で、『神の会』が実在したことがわかったのは不幸中の幸いかもしれない。
昨晩、ユマにそのことを報告した。帰国も検討しなくてはならないと思った。だがユマはそうは考えなかったようだ。
『危険なことはこっちも変わらないからな。いや、むしろ王国の方が危険なのかもしれない』
久々に真面目な顔でそんなことをいっていた。ユマは王国では危険な動きがないとその前まではいっていたが、日本の動きで逆に危機感を強めたらしい。
なにしろ工作員がなにくわぬ顔で世界中に潜伏しているかもしれないのだから、まさにどこに逃げようが同じこと。
『とにかく早急に対策を検討する』
それが結論だ。助っ人でも送るつもりなのかもしれない。とにかくそれまでは俺にがんばれといいたいらしい。やれやれ、なにはともあれ、俺の任務はよりいっそうハードになっちまった。
俺がそんなことを考えていると、教室の前のドアががらりと開いた。
頭に包帯を巻いた浅丘先生の登場だ。
「うおおおおおおおおお」
教室中から野郎どもの声が鳴り響く。
「え? え? な、なに? えへん、みんな静かに」
浅丘先生は後ろにびくうっとのけぞりながらもいう。
「先生、橘がレズビアンでレズを迫られたって本当ですか?」
「橘が、先生のベッドでのエッチな会話を録音してたっていうのは本当ですか?」
「気を失っている間、影麻呂に生乳見られた上に、揉まれたっていうのは本当ですか?」
口々に勝手なことを叫ぶ。みな先生のことを心配しているというより、エッチな好奇心を満たそうとしているようにしか見えない。
「え? え? え? み、みんななにをいってるのよ」
浅丘先生は両手をぶんぶんまわしながら、トマトのように真っ赤になった。
「えへん、えへん、みんな静かにしなさ~い」
必死で教壇をばんばんたたくが効果はない。教室はお祭り騒ぎだ。
「ねえねえ、ほんとは先生のおっぱい見れて嬉しかったんでしょ? あんたでっかいおっぱいが好きだもんね」
サルが隣から悪戯っぽい笑みを浮かべながら聞く。
馬鹿野郎。そんなことを考えている場合じゃなかった。それくらいわかるだろうが。
そうは思ったが、サルへの嫌がらせの意味でこう答えてやった。
「まあな、おまえのような貧乳と違って見応えがあったぜ」
隣の席のサルと、後ろの席の五月が同時に俺の椅子を蹴った上になじる。
「なに考えてんの、馬鹿」
第三話 終
了
王女様は日本がお好きっ! 南野海 @minaminoumi
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