嫉妬の同窓会
矢和崎 士道
第1話
赤石典彦は、とある町に住む一介の私立探偵である。
私立探偵と言っても、毛利小五郎の様に、殺人事件などの刑事事件ばかりを扱っているわけではない。主に失せ物探しや夫婦の浮気調査などで生計を立てている。
しかし、今日ばかりはいつもとは違う。場所は赤石の友人、青谷武宅。そのリビングには綺麗な模様が細部まで行き届いたカーペット、横たわる青谷、鮮やかな鮮血…。赤石は今まさに、殺人事件の現場に直面していた。
なぜこんな事になっているかというと、今日は赤石の高校時代の友人、青谷武、黄野彩子、緑屋明美の四人で、年に一度の忘年パーティーをする日なのだ。青谷の家は資産家の家庭で、家も屋敷の様に広いので、彼らは毎年、青谷宅の中庭でパーティーを行っていた。今日も昨年同様、四人がここに集まって、昼からくだらない話で盛り上がっていた。いつもと何も変わらない、一つだけ違うことは、青谷と黄野が付き合い始めていた、という事だけだ。途中で青谷が家の中に戻り、それからしばらく帰ってこなかったので、不思議に思って見に行くと、リビングで死んでいた。と言うわけである。
赤石は一応探偵なので、警察が来るまでの間、現場の調査を請け負う事にした。青谷が家の中へ戻ったのが午後の5時半、死んでいるのを確認したのが午後の7時、この間に殺された事は明白である。青谷は仰向けに寝ていて、左胸を一突きにされている。おそらくこれが死因だろう。しかし、肝心の凶器の姿はなかった。
そうこうしているうちに警察がきて捜査が始まる。
「あの、刑事さん、私、こういう者なのですが」
赤石は現場で指揮をとっている刑事に名刺を渡して言った。
「先程調査をしていて、犯人の目星がついたので、私の話を聞いていただけませんか?」
そう言うと、刑事は他の黄野と緑屋をリビングに集めてくれた。
「本当はこんな事いうのは嫌なんだけど、武を殺したのは俺たちの中にしかいない」
二人はあまりのショックに、ただただ赤石の話を聞いているだけだ。
「青谷が家の中へ戻ってから、俺たちは俺、黄野さん、緑屋さんの順番でトイレに行った。だから、この時点では僕たち全員に犯人の可能性がある」
二人は力なくうなづいた。
「その時なんだけど、僕は1分程で戻って、黄野さんは五分ほど、緑屋さんは三分くらいで戻ってきたと思う。僕はもちろん、緑屋さんも、この短時間で他人の家をうろついて青谷を殺して帰ってくる事はできない。という事は…」
「ちょっと待って!私がやったっていうの?」
疑いをかけられている事に気付いた黄野さんは、叫ぶ様に言った。しかし赤石は続ける。
「僕や緑屋さんは別として、黄野さんは青谷と付き合っている。何回もこの家に訪れているはずだよ、そう青谷も言っていた。それにね…、僕は青谷に、『最近黄野さんと喧嘩ばかりしている。もうだめかもしれない』と相談を、受けているんだ…」
「そんな事…!」
「黄野さん、僕も信じたくないんだけどね…、でも、確かにあるはずだよ。君のカバンの中に、青谷を殺した凶器が…」
赤石がそう言うと、刑事たちはすぐさま黄野のカバンの中を調べた。すると、血だらけのナイフがハンカチに包まれて入っていた。
その後赤石は家に帰ると、腕に痛々しく残っている引っかき傷を見た。丁度青谷を刺す寸前、青谷に引っ掻かれたものだ。
その傷をそっと撫でた赤石は、手に持っている青谷と黄野が笑って写っている写真をぐしゃりと潰して、怪しく微笑んだ。
嫉妬の同窓会 矢和崎 士道 @100546
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