終章
終章
「
放課後になってすぐの教室。ロッカーへ教科書やシューズを入れていると、隣で同じことをしている
「うん。優希は部活だっけ?」
「そう。今日はお料理の日だから、早く行かないといけないの」
「そうなの? 何作るの?」
何気なく里彩が問う。優希は家庭部に入っていて、お菓子を作った日の翌日はお裾分けしてくれる。これがまた美味しいんだよね。見た目もいいし。
けど残念ながら、今日はお菓子じゃなくて中華料理のオンパレードらしい。炒飯にかき玉あんかけスープ、デザートに杏仁豆腐まで。……顧問の先生は、学校で生徒と一緒に晩御飯を食べたいのかな。家庭部の顧問の先生って独身だったっけ……?
「せめて杏仁豆腐は……」
「駄目に決まってるじゃない」
里彩のおねだりを、優希は小首を傾げた笑顔で却下する。見た目は顔も仕草も可愛いのに、言葉と反応速度はこれっぽちも可愛くない。まあ里彩も、こう言われるのは予想していただろうけどね。でも残念そうだ。
「じゃあ私行くね、梓、里彩。また明日」
「うん、バイバイ」
「また明日ー」
お母さん譲りの腕前を振るいに行く優希を、私と里彩は手を振って見送る。それから私たちも校門へ向かった。
登校時間に雨を降らせていた雲はどこかへ行ってしまって、廊下の窓から見える空は久しぶりに綺麗な空が覗いていた。
部活のこととか東先輩とのあれこれとかを楽しそうに、時々拗ねたふうに話す里彩に相槌を打っていると、不意に里彩がそういえば、と話題を変えてきた。
「梓、最近『
「『夢硝子』に? 行ったけど」
「じゃあさ、かっこいい店員さん見た?」
「かっこいい?」
矢継ぎ早に尋ねられ、私はひたすら目を瞬かせた。
昨日、
……あれ、これって…………。
もしかして、とこぼす私の心の中なんて知らずに、里彩はそ、と頷いた。
「このあいだ私が行ったとき、芸能人みたいにかっこいい人がレジ打ちしてたんだよ。部活の先輩が言ってたけど、最近この地区に引っ越してきた人なんだって。店主さんと並んだら、ほんっと一枚の絵っていうか別世界って感じでさー」
………………
興奮気味に、そしてうっとりと語る里彩を、私は東先輩のことはどうしたのとからかうことはできなかった。
間違いない。間違いなく親戚さんだ。最近この地区に来た、静さんと並んでもいいレベルの美形なんてあの人しかいないよ。
どうして親戚さんが、よりによって『夢硝子』でレジ打ちをしているのだろう。あの偉そうな人がレジ打ちなんて、似合わない。そもそも、あばらが何本か折れていたよね? 店長も昨日、自分のもう一人の子孫が静さんのところで働くなんて全然言ってなかったよね?
「あ、私こっち行くから。梓もバイト頑張って」
「う、うん。バイバイ里彩」
どうにか浮かべた笑顔で、うきうきした足取りの里彩を私は見送る。また『夢硝子』に行くのかな。あっちって確か、『夢硝子』のほうだよね……。
商店街の大通りを見つめていた私は、一つため息をついてから足早に『茨木書店』へ向かった。
すっかり復調した伊月先輩に会うために。そして、先輩と店長に事情を聞くために。
というわけで結局、私の前世がこき使っていたという山の鬼さんとその末裔との私の縁は、これからも続くわけだけど。
…………これは、
鬼恋硝子の業結び 星 霄華 @seisyouka
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