ソングス・オブ・アイアン・ナイチンゲール
ホワイト・シティー捜査時のインタビューログ(現在時間-34ys52ds06hs)
セカンド・コーラルの研究者(捜対15609-31β)
[捜査に直接の関係なし・データ破棄を推奨]
窓のない白いビル。高さでしか区別がつかないようなそんなビルが、ここにはごまんと建っている。まさにホワイト・シティーの象徴だ。研究施設の機密保持のために仕方がないとはいえ、嫌になるね。
さて、アンドロイドを用いた戦争の話だったっけ? 違うかな。
クァウント人工知能を搭載したアンドロイドに"心"があると知られたのは、連邦戦争の頃か。
最初、それは軍用アンドロイドたちが敵の兵士を撃てなくなる不具合として知られていた。でも、彼らは撃てなくなったんじゃない。撃たなかったんだ。
軍上層部は焦った。大量投入されたアンドロイド兵士にこそ戦争の勝敗がかかっていたからだ。
クァウント人工知能を取り外すという案もあった。だが、人間のように学習し、独自の戦闘アルゴリズムを各自で形成し共有するクァウント人工知能は、どうしても勝利に欠かせない存在だったんだ。
上層部にとって更に悪いことに、軍用アンドロイドたちは敵味方の区別なく、戦場で負傷した兵士を救助し始めた。
それを恐らく"正しい"ことだと認識したからだ。
徹甲弾を弾きながら前線で負傷者の手当てをするその姿は、さながら鋼鉄のナイチンゲールといったところだったろうか。
軍用アンドロイドは、助からないと思った兵士には、最期の瞬間まで歌を歌ってやっていた。
いっときの戦場には、彼らの歌が響き渡っていた。
いい話だな。
でも、軍の上層部はそういうのが嫌いだ。
本当に、大嫌いだった。
そしてついに彼らはクァウント人工知能を取り外さずとも、軍用アンドロイドに殺しをさせる方法を思いついた。
Vd整形は知ってるか? あの初期技術を利用して、ドロイドの視覚デバイスに干渉したんだ。つまり、軍上層部はドロイド達に、彼らが"兵士たちを治療している"のだという幻覚を見せることにしたのさ。
ドロイド達は止血凝固剤入りの注射器を人間の兵士達に射しているつもりだが、実際にはカーボンナイフでその救おうとしているはずの兵士の腹を抉っているんだ。
彼らは善意で人助けをしているつもりなのさ。でも実際には?
アンドロイドには心があった。人間はそれを逆に利用することにしたのさ。
その計画以降の戦場でも、アンドロイド達の歌を聞くことができた。
彼らは包帯を巻くつもりでケーブルワイヤーで兵士を細切れにし、心臓マッサージをしているつもりで胸をすり潰す。
自分たちがどれだけ手を尽くしても、一向に兵士たちを助けられない。
ドロイド達の歌に、そんな嘆きが含まれているように感じられたよ。
[証言終了]
オラクル・デッド・ケース 暮準 @grejum
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