魔王は嘆く
その男は天を突くような雷を生み出した。それがどれだけ人の世に何かを及ぼすかを知りながら。
「魔王、私は天に仇名す愚か者である。けれども何が悪い。悪いといった人間はただの人間でしかない。魔法を使う人間のどこが悪く、それが王になるほど、何が悪いのだ。凡人が何を言うのか」
その嘆きは正しくも悪くもない。魔法は力であり、王になりうるほどの力を男は持った王でしかなかったのだ。
だが、魔の王はその力をうまく扱うことはできても人の心を理解することができなかったのだ。
「王は人の心を理解することができぬ。だからこそ、撃たれるしかないのです」
王が愛した女は自分の妹であり、最愛のものであったのだ。なのに、何故魔王の前に剣を突き出しているのだろうか。そのことが一切できない王は雷を背中に背負いながら、困惑した。
「私は君を愛している。そのためにはこの力を揮うことには何も抵抗がない。なのに、どうして、私の前に立っている? 剣を私ののど元に突き付けているのだ?」
魔王の言葉は心底の疑問であり、嘘偽りなどなかった。だからこそ、妹は悲しそうに兄である魔王を見つめる。
「力は力だ。けれども、その心が純粋であるがゆえに怯えられ、無邪気な災害でしかなかった。きまぐれに殺し、気まぐれに守る。その心は兄上次第でしかないのです」
亜麻色の髪を後ろに縛った少女の髪が魔王の玉座の前で揺れる。
風。それは彼女が持った剣の力であり、魔王の雷を寄せ付けぬ勇気の力。子供のような無邪気であり、無残なことを行う心なき力を諫める力だ。
赤きレッドカーペットと玉座の間に立ち、とび色の瞳を魔王に向ける。意思のある、心のある視線。
「魔王の力は魔王の力だ。そこには善悪はないはずだ」
「だからこそ、抑えるはずだったのです。それをわからない
魔王は力の善悪はない。ただ、できることを行えばよいと思ったことを行ったのだ。
その先には魔王に恨みを持つ人間が増え、恨みを持った人間が魔王への見せしめを行ったのだ。助けることは行った。けれども救えなかった人間も多くいた。
結果、勇者としての妹が生まれ、風の聖剣を持ち、魔王のもとに現れた。
「もう、終わりなのか?」
魔王は血を吐くように勇者に問う。
勇者はゆっくりとうなづき、魔王は息を吐いた。
「なぜ、こうなったのだろうな。私は魔王として、皆を救ったと思ったのに」
勇者も息を吐き、問い返す。
「あなたは強すぎた。独善的過ぎた。だから私が止めるしかなかったのです」
ある意味では幸せであったが、悪人にされた人間たちすれば、それは結果でしかなかったわけで。
だから、勇者が現れ、魔王を倒しに来た。
「この先のの救いは?」
魔王の問いに少女は首を振った。風をまとい、魔王の首に彼女の剣が迫る。
勇者は何もせず、魔王の首に剣を当てて、
勇者が亜麻色の勇者が亜麻色の魔王の首を切る。
勇者の鳴き声は千里に響いたという。
「兄さん!」と。
勇者の嘆きは1週間続いたという。
魔王と勇者の終わり 阿房饅頭 @ahomax
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