空に星、それは地獄か天国か

 空に星が見える。その先には多くの死んでいった部下たちの何かなのか。

 去っていくたましい

 本当に、人は愚かゆえに馬鹿なこと言うものだという。


 星は死んだ魂が空に上がったものだったとか言うことを。

 そこには天国があるんだよ、と。


「戯言だ」


 私はそうやって笑った鮮明に残っている。今も私は笑っている。

 その戯言と一笑した私を、とても皮肉気に、今、とても。

 私は涙をこらえながら、傷だらけの自分を。


 私は魔力を手に込める。多くの力が私の手に溜まっていくのだ。

 背後の玉座をチラとみる。仰ぎ見ると穴の開いた天井から月光と星明りが降り注ぐ。


「まるで舞踏会のようだ」


 目の前の少年は私に告げる。

 私を殺しに来た愚か者だ。

 今も舞踏会なんて、馬鹿げたことを言う。どこまでも狂っている。

 けれども、私の冷たい頭はは狂っていると伝えているのに、感情は別のことを思う。熱い何かは同意してしまうのだ。


「ならば、この舞踏会の灯りである、空の星灯りは死んだ私たちの部下や人間どもの魂で照らされている――ああ、なんて残酷なのだろうか!」


 私はそう言いながら、魔力を闇の球に変える。その力は相手の力を奪い去る虚無の力だ。

 少年は光り輝く剣を強く握りしめて、襲い掛かる球を避ける。

 だが、そいつは相手を追いかける。

 ギュルルルという音をしながら追尾する闇の球に、少年は反応し、剣で叩き斬る。

 その隙を私は逃さない。


 もう一つの闇の球を放つ――を、斬りざまに少年は私の方に走る。


「残酷さ。もうこの舞踏会はどちらかが倒れるまで、星灯りという魂が勇者という自分と、魔王、あなたを見ている」


 戯言、とはもう言わない。そんなことで終わることができないところまで、私たちは来ている。

 灼眼灼髪の魔王としての証しを持った矜持を私は捨てることはできない。死んでいった部下にも。

 女だてらと笑っていた部下も結局は私を認めた。死んでしまった。空に昇ってしまったのだ。だからこそ、この舞踏会はどちらかが倒れるまで終わることなんてできない。できるわけがない。


「地獄の舞踏会だね。終わらせることはできないのか」

「できるわけがないだろ! もうここまで、最後まで来てしまったんだ。すでにこの舞踏会には星灯りという観客がいて、終わりを告げる鐘なんてない!」


 あるわけがないのだ。いつから間違えたか。

 私たちが魔族で人間と対立しているからか。人間が悪いからか。この大地との奪い合いをしているからか。誰が口火を切ったのか。誰が原因か。何が原因か。

 どうして、という言葉を何度も何度もこぼしたか。増えていく星灯り。見えていく星灯り。そんな幻を私は見ている。


 舞踏会は踊る。されど、舞踏会ころしあいは進まず。


 魔王と勇者の地獄の夜の舞踏会は天国ではなく、地獄だ。

 星灯りの観客たちは何を思うのか。


 誰にもわからない。

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