第8話

エピローグ



 その翌週の月曜日。教室では朝からゲームの話題で持ちきりだった。

 俺は真新しい貴族制服を着ていて、普段は俺に話しかけないやつからも話しかけられた。俺を見る視線の量が明らかに増えており、居心地が悪かった。

「よう。城島。この服いいよな。これで俺ももてもてのリア充生活に突入だぜ」

 俺の思いなど知らずにいつもどおりなのは中村だった。

 中村は願いどおり二階級特進をして、貴族制服を着ていた。いつもなら始業ぎりぎりに登校する中村だったが、この日は早い時間から教室に来ていた。

「まあ、せいぜいがんばれや」

「おう。じゃあ、校内一周して、さりげなくこの服を見せびらかしてくるぜ」

 そう言うと中村は足早に去って行った。

 俺の意識は先ほどから教室の入り口に向けられていた。

 いつもならこの時間には教室に来ているあいつがまだ来ていなかった。けがが深刻だったのかということが気になった。

 始業まであと五分というときにようやくあいつが現れた。

 教室にいた生徒の視線がそちらに集まる。新しい貴族制服を身にまとい、短いスカートから細い足がのぞいていた。だが、それゆえに、足にまかれたギブスと、松葉杖をついた姿が痛々しかった。

 教室につくやいなや、すぐにクラスの女子に取り囲まれた。けがを心配する声、ゲームでの勇戦をほめる声、新しい制服をうらやむ声、いろいろだった。そんな中、俺は話をすることができなかった。



 昼休み。いつもならあいつは友達と学食にいくのだが、この日は弁当で、一人席で食べていた。俺は近づいて行った。

「よう。元気か」

 すると、唯香は目だけを動かして俺の方を見た。

「元気なわけないじゃない。このギブスが目に入らないの」

「まあ、そりゃそうだな」

 俺は隣の空いている椅子に座った。

 唯香の視線は俺の服に向けられていた。

「なんで、あなた貴族服なのよ。サンドラに勝ったんだから王の服じゃないの」

 俺はあの後、サンドラと一騎打ちとなった。戦いは長時間に及んだが、何とか俺はサンドラを破った。

「ああ、そのことか。いちおう服を見せられたんだが、とても俺のがらじゃないと断った。とりあえずこれで十分だ」

「ふーん。こんな機会、もう二度とないかもよ」

「そうかもな」

 唯香はそれ以上、追及してこなかった。お前と一緒じゃないと意味がない、なんてこと言えるはずがない。

 王の服。その言葉は、俺の脳裏には子供のころに唯香と見た、広場でのダンスの光景を想起させた。

「なあ、唯香。小学生のころ、二人でこの高校に来たことを覚えているか」

「何、それ。そんなことあったっけ?」

 唯香は視線を上げずに言った。唯香のその言葉が本当なのか嘘なのか、俺にはよくわからなかった。

 俺が少し言葉に詰まっていると、唯香は急に真剣な表情になって俺の方を向いた。

「それよりも直人。あなたまた野球を始めなさい」

「なんだよ。唐突に」

「ゲームをやっていて思ったんだけど、直人はやっぱり、目標を持って一生懸命に何かに取り組んでいる方がいいよ。だから、私は勉強で一番を目指すから、あなたはスポーツで一番を目指しなさい。直人は勉強は今ひとつだけど、運動だけはできるんだから、それで行きましょう」

「唯香。お前、俺が野球をやめた理由を知っているだろう」

「知っているけど、それが何? 中学のころに壁に当たったからって、高校でどうなるかなんてわからないじゃない。それに私思うの。人間、何かを諦めないといけないこともあると思うけど、でも、すぐに諦めて、諦めることに慣れたらいけないって」

「じゃあ、唯香もゲームは諦めないんだな」

「当たり前じゃない。ゲームも一番を目指すし、勉強でも一番。あなたはスポーツで一番。これで決まり」

 そう言うと唯香は俺の顔を覗き込んだ。

 その強気な表情の中には幾分不安の要素も混ざっているように思えた。そして唯香はつぶやくように言った。

「だめ、かな?」

「野球か。それもいいかもな」

 その言葉を聞いた唯香の表情はパッと輝いた。

「うん。その方が絶対いいよ」

 唯香のこの笑顔を見られるのなら、また野球をやるのも悪くないと思った。

 やがて、学食に行っていた唯香の友達たちが教室に戻ってきた。

「それじゃあ、またな」

 俺は立ち上がって、二、三歩、自分の席に戻りかけたとき、背後から小さな声が聞こえた。

「二人で王になったら、一緒に踊ろうね」

「えっ?」

 俺が振り向いたときには、唯香の周りを友達たちが囲んでいたため、その表情を伺うことはできなかった。

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制服王 @rice13

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