第3話真っ赤な夕焼けの空。

 それから小さな勇者と白猫黒猫、そして絵本の宇宙飛行士はそのボロボロな車の中で1晩を過ごしました。

 みんな疲れ切っていて、自己紹介も満足にしないまま、あっというまに眠りこけてしまいました。

 布団になりそうな物は見当たらなかったので、仕方ないという風に猫たちが勇者に乗っかっていましたが、寝相が悪くてジグザグの川の字になっていましたw

 次の日の朝、最初に目を覚ましたのは白猫でした。彼は真面目なしっかり者です。

 黒猫とは、いつの間にか姉弟のような存在になってしまい、気が付かない内に家族のような相棒のような、よく考えたら不思議な関係でした。ある日から、考え付かれてしまうので白は考えるのをやめました。立った一匹で暮らすよりずっとましだったからです。憎まれ口をたたくのも、何かの裏返しのようですね。

 一方黒は、白のことが気に入ってついていった、最初は汚い野良猫でした。

 黒猫というのは不吉だとか不幸だとかで根拠もなく嫌われてしまうものなのです。黒も、もう慣れっこでした。

 でもどこかで、白猫だったらなぁなんて思ったのかもしれませんね。

 猫たちが起きてしばらくしても、勇者は起きませんでした。それどころか大きないびきをかいて爆睡です。黒猫が笑っていいました

「なぁシロ、こいつおもしれぇぞ」

「お前だって、人のこと言えねぇじゃないか。それよりこのうるさいイビキをなんとかしてくれ。ヒゲがおかしくなりそうだ!」

 黒が面白がって、わざと勇者の顔を肉球で踏みつけるように、体の上の歩いて渡りました。

 すると、ふにゃふにゃ、むにゃぶにゃっ!と不思議な声をだしながら、勇者がようやく起きました。

「おはよう子ども。随分遅いじゃないか」

 白が冷静に話しかけると、黒がやはり冷やかすように笑いながら、勇者のイビキを真似します。

「僕、そんな風にイビキかかないよ。」

 少し恥ずかしそうに言う勇者が可愛くて、黒と白は顔を見合わせて笑いました。


 すっかり仲良くなった皆は、自己紹介をして勇者が持っていたクッキーと猫が持っていた缶詰を分けて初めての朝食を食べました。

 

「ところで子ども、お前はなんでまたこんなヘンテコなことしてるんだ?第一、どこにいくつもりなんだ?」

 白ネコが、至極まっとうな疑問を勇者にぶつけます。そういえばと勇者

「うーん。考えてなかったかも」

 白も黒もひっくり返りそうになりました。わたしもひっくり返りたいです。

 もともと、彼はそんなに頭の良い子どもではありませんでしたが、おそらく友達もいなくて守ってくれる大人もいない村から居なくなって広い世界を見てみたい。。というところでしょうか。まぁ、あくまで私の想像ですが。

 あ、勇者が少し間をおいて口を開きました。

「そうだな・・。僕は、星が好きなんだ。星が綺麗な空を飛んでみたいかな。」

 なぁんだ。猫が口をそろえます。

「だったら、さっきの場所で十分じゃないか。あの場所は春になればたんぽぽも桜も咲いて、綺麗なんだぞ。」合理的な白猫。

「馬鹿だなぁシロは。それじゃあろまんがないじゃないか。」黒が返しました。

「ロマンだって?」

「ああ。子供だろうがネコだろうが本だろうが、男はロマンが大事なんだ。」

 黒猫は、恥ずかしがる様子もなく言いました。


 それに流されるかのように、勇者も言いました。

「うん。あそこじゃないんだ。あそこは僕のお家じゃない。」

 その声は少し大きく、心なしか震えてるように聞こえました。

「何だ子ども、うちに帰りたいならそういえばいいのに」

「違うよ。僕にはいる大人がいないんだ。」


 また、白黒ネコが顔を合わせて息をのみます。

「そうか。まぁそんなとこだろうとおもった」

「あ。嘘をついたな」


「キミタチハ、オシャベリナカヨシ」

 ん?

 どこからともなく、誰の声でもない声が聞こえました。

 なんと、絵本の宇宙飛行士が腕をすり抜け立っているではありませんか。

 ネコも勇者もひっくり返ってしまいました。

「君、喋れたの!?」


「ダッタラファイタ、キミハココ」

「え?」

 みんなが、宇宙飛行士につられて絵本をのぞき込みました。もちろん、宇宙飛行士がさっきまでいた絵本です。


 そこには、広い宇宙の写真と、青い星が書かれていました。島のようなものもあります。

「ココ、チキュー。」


「ちきゅう?」


「馬鹿言うなよ。地球はここだろ。重力があって水と空気がある青い星だ。子供、これはここの星の写真だよ。」

 賢い白猫は勇者に教えるように伝えますが、勇者は絵本に夢中で聴いていません。


「ココモ、チキュー。」


 ほら馬鹿だ、と黒まで言い始めます。

「チキューから、チキュー。グルリンパ。」

「地球を、一周する、の?」


 勇者はおそるおそる絵本から出た宇宙飛行士の言葉を解釈しながら確認しました。

「へぇ。いいじゃないか。勇者っぽくて。」

 真っ先に賛成したのは、黒猫でした。

 少し考えてから、勇者も

「うん。そうだね。僕は勇者になるんだ。」と決めたように胸を張りました。

 白ネコだけは心配そうな顔でやれやれといった様子。

 こうして、勇者と愉快な仲間たちの地球の旅は始まったのです。


 まず、目的を決めてから次は近い目的地を探します。それを繰り返して地球を一周するのです。

 話し合った結果、まずは隣町の夕焼けの綺麗な丘を目指すことになりました。

「♪真赤な真赤なお空を見たら 黒いカラスが飛んでったあ」

 勇者は、よほどうれしいのね。不自然に大きな声で歌いながら先頭を歩きだしました。

みんなもあきれながら後につづきます。


「♪黒いカラスはどこへ行く? 大きな羽を落としていった。

 そいつを拾って羽ペンつくろ。

 ノートに書いた大冒険は僕とみんなの宝物」


「子ども、随分楽しそうだな」


白ネコが声をかけると、やはり楽しそうにファイターが言います。

「ぼく、歌を歌うの好きなんだ。オルガンも弾けるよ。」


「へぇ。そいつぁすごいや。」黒猫は感心した様子です。


「聴いてみてよ。驚くよっ」

勇者の声は、元気そのもの。どこにでも行けそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ファイターとライオンと、ねこ。 @motocurum

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る