第10話 巨大な穴
「はしご車を堤防側の坂の上に移動する。そこからはしごを伸ばし、できる限り穴の内部の状況を確認する」隊長の指示ではしご車は一度現場を離れて、大通りから大きく外を廻り堤防側に通じる道路を目指す。この地域では大昔に河川の決壊があったそうで、堤防の周辺は非常に高く土が盛られて作られている。その位置から穴の中を確認できるところまで梯子が伸びるか微妙な距離だが、安全を優先して動く。
「●川の水位すごくない?こんなの見たことないよ」堤防に面した道路の坂道を上がっていくと穴の状況よりも河川の状況のすごさに唖然としてしまう。穴の状況確認も大事だが、河川の堤防決壊の避難誘導のほうが大事ではないだろうか、堤防決壊の対応にシフトしたほうが得策ではないかと思えるのだが、隊長の判断は穴の対応を継続である。「一旦ここに止める、車止め・アウトリガーよろしく」外の雨の状況は朝よりも比較的弱くなっているがまだ雨のやむ気配はない。準備が整い50メーターの梯子が穴を目指して横へ伸びていく。いつもは上を目指して梯子が伸びる光景を見ているため新鮮な印象で見とれていると「周囲の状況確認怠るな」隊長はそう私に注意すると、命綱のペグを梯子横のワイヤーに通し軽快に梯子の先まで立ったまま小走りに進んで行く、やはりうちの隊長は半端ない運動能力を持っている。ちょうど先端が穴にギリギリ届くところまで伸びている感じだ。隊長は先端の梯子に足をかけて、まるでサーカスのブランコをするような体制で穴の中を覗き込みオペラグラスで中を確認している。遠目ですこしわかり辛かったが隊長の表情が一変したように見えた瞬間、隊長が大きな声でこちらに叫んだ「撤退!すぐに梯子を戻せ。撤退しろ!」常に冷静である隊長の表情は尋常ではなかった。隊長は見事な身のこなしで梯子の上を走って戻ると、あっという間にアウトリガーを外す作業に取りかかっている。「どうなっているんですか!」隊長から返答はない。少し間が空いたが「いいから急げ!」とだけ怒鳴ると、隊長自ら運転席に座りエンジンキーを廻す「すぐに移動する、乗り込め!」と言われた次の瞬間足元がガクンと沈んだように感じた、続いて周りがグニャグニャとうねっている、まるでトランポリンの上で小さく跳ねているかのような感覚である。巨大な地震!!!はしご車に懸命にしがみつき揺れがおさまるのを待つ「いいから早く乗れ!」はしご車の真下のアスファルトが大きく裂ける、「・・・・」絶句とはこのことかアスファルトの裂け目から下を覗くとあるはずの地面がない、アスファルトの下が空洞…で深い穴になっている。隊長がアクセルを踏むが、後輪は裂けめに落ち車両の前部が浮き上がる。「落ちる…」
天からの贈り物 麗永遠 @tadao
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