第8話
梅雨の終わり時期は、アパートに居る時間がしんどいことこの上ない。高い湿度と
それでも日常は同じように繰り返される。
朝起きてご飯を食べて仕事に行って帰ってくる。
事件後、警察の方から色々聞かれ続けた。
僕は、この事件においては、当事者でも関係者でもなく、触媒のようなものであったから、ただ、『気になる場所を掘った』という云わば『頭のおかしい人』のこと程度しかしていない。
――それでも、何かは変わったんだと思う。
事件の顛末――、難波さんの死体は、兄の手によって処分されたということのようだ。切ったのは持ち運びやすくするため、そして、紫陽花の元に埋めたのは、やはり変化を望んでいたからということらしい。
人生はそんなことで変化はしない。ただ、あの兄は一度それで変わっているから――。
麻酔薬のナントカペンタールだかは難波さんの娘が、処分したそうだ。寮跡地となっている空き地に埋めれば、別の店舗、家などが建ちそのまま隠せるのではないかと考えただけで紫陽花の元などは全くの偶然であったという話のようだ。
――触媒は、その偶然に関わり。
――おかしな知り合いにその偶然を指摘された。
気分はすぐれなかったものの、仕事もあまり休む訳には行かないので、沈んだ空気の中相変わらずファイルを打ち起こす作業を行っていた。
難波さんのPCの中のデータを別のPCに退避するように言われたため、ファイルの整理をするため、難波さんのPCの電源を立ち上げると、壁紙の左下部分に一枚の写真に取り込まれていた。パソコンを立ち上げると、壁紙としてその写真が見えるように、自分で壁紙画像を作成したのだと思う。難波さんの娘の子供の頃と若い難波さんが笑っていた。
僕はその画像を見て、――大事なことを一つ思い出した。
*
仕事が終えた後、僕は橘音の部屋に居た。
橘音のパソコンの岩ノリの壁紙がそのままだったのを思い出したから来たのだが、例によって遅いだの、人間のクズだの、救いようがないだの、あまつさえサチエさんがお風呂に入っていた時間だったらしく何度もロリコンと上二人の姉妹から罵倒された。
何言われるのも構わない。
だからといって、殴られる訳でも無いし。
僕がなんであれ、頼られる時もあって呼ばれるわけで。
人を信じるとか、受け入れるとか、どういうことだろう。事件後思う。セミナー何かを受けなければ感じないことなのだろうか。赤とか青とか。変化とか。あの
「あの時、あのビルに二人で行った日さ」
僕が壁紙を直しながら話しかけると、橘音は読みかけていたマンガを置いてこっちを見た。
「うん?」
「あの時、前日から橘音は『明日事件解決してやるんだ』って、勢いだけで翌日乗り込んだじゃん」
「うん」
「例えば橘音は風見さんや大塚さんと行くとか、別の人と行こうとは思わなかったの? 僕は結局役に立ってなかったし、立つわけも無かったと思うんだ」
「それは、例の赤青ゲームだっけ? あの様子を見てたら、ピッタリでしょ。受付や実際の話聞きに行くに、サチエや大塚さんじゃ、逆にあやしいと思うじゃん?」
「それさ、問題発言じゃない? まるで僕が自己啓発必要みたいじゃん」と僕は笑った。
橘音は目を閉じて「あなた自身も深層ではそう思っている色じゃん」と笑った。
そういうときに力は使わないで欲しい。
――そうかもしれないね。
二人で笑った――。
(了)
acid -嘘と紫陽花といくつかの色- アスクス @asks_
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