第2話 素麺-塩漬けツユ-
燦々と太陽が照る日曜日のお昼。
何処に行く予定も、彼氏も、お金も無いので、家で窓をフルオープンに扇風機を回しては生温い風に吹かれながら、居間のテーブルに頬を乗せてテレビの情報番組を眺めていた。
「あー熱い……」
つい、うだる声を漏らしてしまう。
エアコンをつければ良いのだが、昼時間帯は料金増しとなっているので、変な節約意識が働き我慢をしているのだった。
情報番組では夏に行きたいスポットが紹介されているが、直射日光に肌を晒したくなく、外に出る気はさらさら沸かない。
ついでに食欲も沸かない。
暑苦しいと食欲は減退する。が――グ~♪
お腹は減る。
「……何か食べよう」
気怠い身体を起こして、渋々と台所に向かう。
「さてさて何があるかな、と」
冷蔵庫や棚を探ってみるも、見事なまでに保存食しかなかった。
「なんでこんなに乏しいのかしらね……」
その疑問に、自分が答える。
それは独り暮らしというのもあり、買い物は最小限に抑えて、自然と日持ちがするのも買っているからだ。
生野菜は極力買った日に食べきるようにしている。
「下手に残すと、そのまま腐らすからね……」
食材を買い出しに行こうにも――窓からの景色を眺める。
強烈な日差しで熱さられて砂漠のように見えたコンクリート・ロードを行く勇気を持てず断念する。
それに、今スーパーに言ってもタイムセールではないので、損するだけだ。
家にあるもので昼飯を調理すると決めたのであった。
「インスタントラーメンって気分じゃないし……おっ、素麺を発見(はけーん)!
この間の特売で買っていたやつだ」
しかし、
「でも、素麺は良いけど、素麺は具材がネックなのよね。素麺だけ食べてもさもしいし……」
素麺の具の定番として薄焼き卵があるが、卵を割って、溶いて、フライパンを出して、油をひいて、焼いて、切ってと、たかが薄焼き卵を作るだけで作業工程が盛りだくさん。
しかも洗い物が増える。←ここ重要!
「まあ、家族とか伴侶がいたら良いんだけど、独り分だと面倒さが際立つのよね。
とは言っても素麺と麺つゆだけが食卓に並ぶのは如何ものなので……」
一人言い訳をしつつ、改めて冷蔵庫の中を探索する。
「おっ! 良いのがありましたよと!」
取り出したのは、野菜の塩漬け(浅漬け)。
数種類の野菜が塩水に漬けられているパックに入っているものだ。
先述の通り生野菜は日持ちはしないが、こういった野菜の塩漬けは長持ちし、野菜も摂れるので意外と一人暮らしで重宝するのだ。
「お酒のつま味にもなるしね。まあ、それは置いといて。素麺の具材には野菜の塩漬けがベストだと思うのよね」
素麺だけだと咀嚼数が少なくなるので満腹中枢を刺激されない。
「だから素麺とか柔らかいものを食べる時は、何か歯ごたえがあるオカズが良いのよね。後はタンパク質的なもの……ハムがあればそのまま食べられるんだけど……無い。イイもん、魚肉ソーセージを食べるもん!」
独り暮らしの三大必需品のソーセージ。当然、完備している。
「素麺、野菜の浅漬け、ソーセージ。準備は整った。さっそく、レッツクッキング!」
といっても、お湯を沸かして、素麺を茹でる。
2分ほど茹であげたら、流水で麺を締めて、よく水を切る。
「これを料理とは言ってはいけない気がする。まあ、そんなことはさておいて。よく素麺を氷水に浸したりするけど、確かに冷たく食べられるけど麺が水を吸って歯ごたえがなくなるし、ツユが水で薄まるから、私の場合は氷だけ入れて混ぜあわすだけ」
水を切った素麺を深皿に載せては、氷を投入してかき混ぜた。
「具のソーセージを食べやすい大きさに切って、お次はツユだけど……ここでひとひねり!」
蕎麦猪口(ツユを入れる器)に、野菜の浅漬けを入れてから、市販品の希釈用ツユを注いだ。
「希釈用ツユはお母さんから絶対に常備しておけって言われる万能調味料の一つなのですよ。野菜の浅漬けにツユが染み渡ったら、野菜を取り出して素麺の脇に添える。最後にツユは冷たい水で薄めて……完成!」
出来上がった素麺をテーブルに並べ、いざ実食!
「素麺チュルチュル、塩漬けパリパリ、魚肉ソーセージをモグモグ……あれ? なんか既視感が……まあ、食事光景なんて毎度大体同じ訳で」
「だけど、素麺の具に野菜の塩漬けは合うわね。歯ごたえがあるし、塩分補給もバッチリ。それに浅漬けの塩味と旨味が溶け出した、このツユが独特の味がまた格別」
それに塩漬けに乳酸菌が存在しているので健康的にも良いのだ。
先ほどまで食欲が無かったのが嘘のように、喉を通っていき、麺の盛りがみるみる減っていく。
「あら、もうなくなっちゃう……。こりゃ、もう一束イケるか? 行っちゃうか?行っちゃおう!」
こうして独り素麺大食いが開催されたのであった。
「うぷっ食べ過ぎた・・・苦しい・・・」
ひとひねり飯 和本明子 @wamoto
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