不死身の怪物

 藤堂晃ぼくは勇者である。

 昨今の流行だかなんだかで、気がついたら異世界ここにいて、いわゆるチート能力も身に備わっていた。


 それで、どういう経緯だったかはもうよく覚えてないのだけれど、ぼくは魔王を討ち滅ぼすべく、彼らと残虐な殺し合いを繰り広げていた。

 世界を征服しようとするだけあって、魔王のもとに集う軍勢は生半可な強さではない。

 転生系勇者のチート能力をもつぼくであっても、戦いはいつもギリギリだ。かなわず逃げたことだって何度もある。


 それでもぼくは自分を信じて、戦い続けてきた。

 数々の修羅場をくぐったぼくは、自然とチート能力に頼るばかりではなくなり、剣術を身につけていた。

 既に戦士として究極の域に達していると思う。

 視力に頼らず気配で戦えるようになった。

 魔法も斬れるようになった。

 生命を奪うのがどういうことなのかも自覚をもって向き合った。

 そうやって戦い続けてきた。

 いつか絶対、魔王を倒すと、心に誓って。



 だけど、もう駄目かもしれない。



 再生能力リジェネレイションというのがある。

 これは本当にすごい厄介なスキルだ。

 一体どういう理屈かわからないが、傷がいとも簡単に治ってしまうのだ。


 他のスキルがそうであるように、この能力にもレベルというものがあった。

 レベル1なら浅い切り傷が、一晩ねむると消える。

 レベル2なら瀕死の重傷を負っても、三日も休めば起き上がれる。

 レベル3ならもう人間じゃない。傷ついた瞬間から、治り始める。

 常識的範疇を超えるチート級のレベル5にもなると、切り落とされた腕がほんの数分でにょきにょき生えて元通り。


 こんな怪物バケモノ、一体どうやったら死ぬのだろうと、ぼくは思った。


 何度も戦ってわかった事がある。

 腕を切り落とすと、腕が生えてくる。切り落とされた腕はただの肉塊であり、そこからは何も生えてこない。

 足も同様である。

 胴を両断し上半身と下半身にわけると、上半身から下半身が生えた。切り落とした下半身は肉塊になった。

 火竜がその吐息ドラゴンブレスで身を焼いても、焼けただれた皮膚の下から新品の肌が現れた。

 心臓を体外に摘出すると、その心臓は肉塊となり、あらたな心臓が生まれた。

 血を抜き続ければあるいは死ぬのではと思ったが、血液がなくなっても生命活動は停止しなかった。

 聖なる槍が頭蓋骨を貫いた時も、結局無事だった。



 ある仮説が生まれた。

 再生能力を持つものはコアを持ち、それが破壊されないかぎり、そこを主体にして再生する。


 この仮説を聞いた時、ぼくは、なるほど、そうなのだろうと思った。

 そして、おそらくそのコアと言うのは、頭部にあるのだと思った。

 誰もがそう思っただろう。


 だから、高濃度の純粋なエネルギー魔法を使用した頭部消滅作戦が決行された。

 そしてその作戦が成功し、頭部がこの世から消え去った今……


 ぼくは完全なる絶望を味わった。



 まだ、動くのだ、残された身体が。そして、意識は途絶えることなく、明確な闘志と思考をもって、戦いは続けられた。

 だからぼくは戦いながら、考えた。

 こんなの、生き物といえるのだろうか……と。

 そして震えながら泣いた。涙をながすことはできなかったけど。


 これまで幾度となく戦い合った「神に背きし聖槍騎士」をついに斬り伏せると、しばらくして消滅した頭が再生を完了した。

 脳に損傷はなく、記憶の欠損もなかった。


 ぼくの意識こころは、どこにあるのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生系短編集(になるといいなあ @youki39000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ