生きる!

最終話 やっぱり落ちるのです

      ・


      ・


      ぁ


      ぁ

      あ

      あ

       あ

        あ

「        ああ!!」


 ドカドカバキンッ!と一軒家の屋根を破壊し、ベキドスン!という音と共に地面へ着地したテルオ。彼の目の前には、穴の開いた屋根から照らす日差しとユラユラと羽のように舞い散る百合の花びらが光を反射させていた。

「……生きてる?いや、生き返った?」

 しばらく放心していたテルオは、ゆっくりと息を整え、仰向けになっていた自分の体を起きあがらせる。どうやら自分は棺桶の中に丁度落っこちて来たようだ。因みに死装束しにしょうぞくまで着ている。

 辺りを見渡すと、とても彼にとって見慣れた光景であることに気づく。

「俺の実家だ」

 そう、さっきまで天国で見ていたテルオの実家であった。

 彼は気付く、なんと天国から落ちたテルオは、実家の……自身の棺桶の中に落ちて来たのであった。

「テルオ……テルオか?」

 彼が徐々に状況の整理がついていくと、聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる。

「か、母さん……ただいま」

「このバカ息子が!」

 喪服を着た母が側に居た。母は持っていた数珠で殴りかかる。

「先に死におってからに!どんだけ失敗させりゃ気が済むと!」

「わ、悪かったから!そんなに叩くなって!」

 彼の母は、泣き崩れる。

「テルオさん……」

 さらにそこには、喪服を着たリョウコが居た。

「や、やあ、鳥城さん!俺の葬式にわざわざ……」

「テルオさん!」

 リョウコは、テルオに抱きつく。

「と、鳥城さん!?」

「良かった……本当に良かった!」

 だらしなく化粧も崩れる泣きっ面を見せるリョウコに戸惑うテルオ。

「そ、そんなに泣かなくても……」

「泣きますよ!」

 彼の言葉は振り払われる。彼女は意を決したように真っ直ぐテルオを見つめる。

「だって!私にとってテルオさんは、特別な人ですから!」

「え!?それって!?」

 そのままリョウコは、彼に抱きつく。どこにも行かせないように言わんばかりに強く抱きしめる。テルオは何も答えず、穴の開いた天井を見上げる。

 穴からは青空と白い大きな雲が見えた。

「……ありがとうな」

 彼は、一日だけだったが、いろいろな事を教えてもらい、気付かせてもらった一人の小さな天使に深く感謝した。


「くぅ~ん……」

 空を見上げていると、申し訳ないといった鳴き声を上げ、柴犬が近寄ってくる。

「キャベツ?」

 柴犬は、リョウコの飼い犬であるキャベツであった。

「何だキャベツ。もしかして、謝りたいのか?」

 人の言葉が通じるかは分からないが、テルオは手を差し伸べる。

「別にお前は悪くないし、俺は怒ってないぞ。あれは不運の事故だったよキャベツ」

「で、でも……テルオの餌を奪い取って、命まで奪ってしまった私なんか――って言っているのです」

「だったら許すよ。てか、元を辿れば俺が悪いんだしな。それじゃあ、生き返った事だし、これからは仲良くしようぜ!」

「テルオ!ありがとう!べ、別にお前の事を認めた訳じゃないぞ――って言ってるのです」

 キャベツは、テルオに近づき顔を舐める。表情も穏やかで尻尾を振っていた。

「ったく、相変わらず素直じゃない奴だな……ところで」

 テルオは、に目を向ける。すると、そこには――

「テルオ!数分ぶりなのです!」

 さっきまで天国に居たはずのサナエルが、ビシッと敬礼していた。

「何でサナエルちゃんが現世ここに居るんだよ!?」

「大天使様に、もっと現世ここでいろいろなことを学んで来なさいと言われたのです!そして、テルオがちゃんと100点満点を取れるようにサポートもするのですよ!」

 リョウコの上から、さらにサナエルは抱きつく。

「これからテルオの家に、また居候いそうろうさせてもらうのです!よろしくお願いしますなのでーす!」

「ははは……」

 テルオから、乾いた笑いしか出て来なかった。


「……とりあえず、新しい仕事を探そ」

 彼は大切な者に囲まれながら、大きく溜め息を吐く。

「頑張るのですよテルオ!神様はちゃんと見ているのですよ!」

「はいはい」



 まだまだ、彼の人生は受難じゅなんの日々が続きそうであった。

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天国つうしんぼ バンブー @bamboo

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