第2話「オムライスへの復讐」
惨敗だった……。砂を噛む思いとは、まさにこのこと。
オムライスを作るまでにある、3つの試練。その最後にして最強の試練。チキンライスの試練。僕はこいつに勝てない。何度オムライスを作ろうとして、チキンライスでお腹を膨らませたかわからない。満たされた空腹とは対照的に、後悔と無念が僕の心で渦巻いている。
私は一生このままなのだろうか……。僕はこれから死ぬまで、オムライスを家で作ることはできないのか。オムライスを食べようとするなら、外で食べるしかない。そう考えていた。
だが、私の中の男。いや漢として、雄としての反骨心が沸々と沸き上がる。
チキンライスなんかに絶対負けない。私は再びオムライスへの挑戦を決意した。
まずは状況分析である。
人間というのは弱い生き物だ。鋭い爪も無ければ、逞しい毛皮もない。土を掘れば指は傷つき、日を浴び続ければ肌は真っ赤に腫れ上がる。弱すぎる、人間という生き物は。
だが我々人間には頭脳がある。
その素晴らしい頭脳を使い我々は、屈強な獣を倒してきた。石を尖らせ槍を作り、自分の何倍もの大きさのマンモスを狩る。そんなことを我々の御先祖はやってきたのだ。その勇敢な血を受け継いだ私にできないはずがない。
まず、どうしてオムライスにたどり着けないのか、チキンライスのせいである。チキンライスを作った時点でもういいかなってなってしまうのだ。
そしてパクー。
うまい。
後悔。
いっつもこのパターンなのだ。
では何故チキンライスを作った段階で諦めてしまうのか。
チキンライスに対する労力が問題なのだ。野菜を刻み、ご飯と一緒に炒める。この工程により洗い物が増える。めんどうくさいことこの上ないのだ。
オムライスのためには上記の問題を克服する必要がある。つまり材料を切らず、火を使わずしてチキンライスを作るのだ。
無理だ。多くの人はそういうだろう。
ふざけているのか、諦めろ。気でも狂ったのか。みんながそう言うだろう。
だが、考えても見てほしい。空を飛ぼうとした人がいた。みんなが無理だと言った。馬鹿だと言った。貶した。
だが、その馬鹿達はやったのだ。空を、飛んだのだ。
そして今では人が空を超え、宇宙に行っている。人は不可能を可能にする生き物だ。
材料を切らず、火を使わずして、チキンライスを作る。
できるはずだ。私ならできる。そう確信した。私はキッチンに向かい、思案する。
永遠にも思えるような数分。所詮は世迷言なのだと、皆が思った瞬間。私はひらめく。まさに圧倒的ひらめき、天啓、悪魔のささやき。
まず取り出したるはボウル。ここにケチャップを入れる。
そう、チキンライスを混ぜご飯にする。だが、ただのケチャップライスをチキンライスと偽るほど私は愚かではない。
冷凍庫からあるものを取り出す。トマトソース味の冷凍ハンバーグ。しかもお弁当用の小さいやつ。
そう、これこそが秘策。オムライスに入れるチキンライスを作るのに、チキンである必要性は無い。ようは動物性の旨みが加わったケチャップベースの味わいが出ればそれでいいのだ。
冷凍ハンバーグ2つを解凍している間、さらにチキンライス(仮)のクオリティを上げる。ケチャップの入ったボウルに塩コショウ、オリーブオイル、少量のマヨネーズを入れる。
このマヨネーズはいわゆるコク出しである。そして香りづけのオリーブオイル。この二つで本格的な味に寄せていく。
味のベースが出来たところに解凍したハンバーグ、ごはんを入れる。この時、ごはんはなるべく熱い方が良い。ケチャップの酸味が飛び、炒めたものに近くなるからだ。そしてハンバーグを潰すように混ぜれば……。
どうだ。できたぞ。火を使わないチキンライス(チキンではない)が……。
喜ぶのはまだ早い。フライパンを温めている間に、ボウルのチキンライス(仮)を器に盛る。温まったフライパンにバターを敷き、玉子を入れ、少し半熟くらいの状態にする。
そしてそれをのっけて……。
完成だ。即席(比較的)オムライス。
問題は味だ。ここまでやって不味かったら悔しさで目も当てられない。
恐る恐るオムライスを口に運ぶ。
美味しい……。
確かに、本格的に作ったオムライスよりは劣るかもしれない。だが、これは言わば70点のオムライス。オムライスとして充分合格出来る味だ。その味をあれだけの労力でできたのだから、かなり上出来である。
勝ったのだ、私は。
確かにチキンライスの試練には勝てなかった。だが、正々堂々挑むだけが勝負じゃない。卑怯者と罵られようと、時には貪欲に勝利を求めることも必要。その精神で火も使わず、チキンも使わず、チキンライスを作り、オムライスが出来た。
この素晴らしい事実だけが、私の胸(胃)のなかにしっかりと残っている。
我食べる、故に我思う ころっけぱんだ @yakisaba6
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