第4話「だからしばらく」

 一個のパンを物質と霊体カーで二人で分けて、平らげながらカルブが尋ねる。

「アアルの野はどうだったんです?」

「家出してきた」

「何で!?」

「父上に怒られた。早死にすんなって。おれだって好きで死んだわけじゃないのに」

「あー。それはどちらもお辛いですね」

「だからしばらく世話になるぞ」

「だから何で!? 王宮に帰ればいいじゃないですか!?」

「おれを感知できるのは、生きてる人間ではお前だけなんだよォ」

「うーん、しょうがないですね……でもオレ、仕事があるんで夜まで遊べませんよ?」

「それより今からアケトアテンに行こうぜ」

「だから仕事があるんですってば!! しかもアケトアテンって、めちゃくちゃ遠いじゃないですか!!」

「スメさんの遺体をミイラにして丁重に葬ってほしいんだ。ちゃんと報酬は出すぞ」

「スメさんって誰? てか、報酬って? 幽霊がどうやって出すんですか?」

「おれの墓から財宝を持ち出せ」

「それはマズイですって!!」

「じゃあ、愛の女神ハトホルにかけ合って嫁探しを手伝ってやる」

「それならばぜひ!! あ、いえ、すぐには駄目です。先約が……」

「ホッマのミイラなら親父さんに頼めよ。帰ってきてるんだろ?」

「何で知ってるんです?」

「さっき工房のほうを覗きに来てた。いろいろ文句があるみたいだったぞ」

「うわあああ」


 カルブの父は、先王の宗教改革の真っただ中を生きてきた人なので、アテン神式の葬儀についてはカルブよりもはるかに詳しい。

 普段は別の町で働いており、カルブに嫁はまだかとせっつくために数日前からテーベに来ている。


「あああ、もう! 父ちゃんにどう説明したらいいんですか~! まさか幽霊が見えるだなんて言えないですよ~!」

 半泣きで旅の支度を始めるカルブの横で、冥界の旅を終えたばかりのファラオは、日差しを浴びた川面のように目をきらきらとさせていた。




第二部〔完〕

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アテン神☆ぷりーず ~ツタンカーメン王の幽霊とミイラ作り職人の少年~ ヤミヲミルメ @yamiwomirume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ