人外無双転生記

菜王

第1話

001 プロローグ



 その日俺は、スマホを買い換える為に、携帯ショップに来ていた。平日なのに溢れかえる人達。多くの人がお目当てなのは、最新の機種が発売になったばかりなので、我先に手に入れようとしているのだろう。スマホのニュースサイトからは徹夜組の動画がこれでもかと届けられていた。


「よくやるよな」


 俺は特に興味がある訳では無い。電話が出来て、ネットサーフィンでも出来れば充分だと考えているから、安いSIMフリー対応機種でも無いかと探しに来たのだ。

 なんでかって? 理由は水没だ。決してスマホをポケットに入れたまま洗濯しただとか、突然雨に降られたとか、そんな事では無い。胸ポケットに入れたまま歩き回っていて、いつの間にか内部に水分の(この場合は俺の汗だ)侵入を許してしまったようだ。画面に染みが出来ている。

 ネットで対処方法を調べたが、電子レンジでチンするのは止めた方がいいらしい(そりゃそうだろうな)。どうやら、一旦そうなると、いつ止まるのかわからないらしいので、転ばぬ先の杖、買い換えようと思い至った次第である。

 希望は一つ、耐水性だ。あと、壊れ難いのがいいな。安くてね。

 俺はごった返す最新機種のコーナーを抜け、さらに奥にあるディープな場所を目指した。そこには海外からの中古や、メーカーでダブついた流れの品や、小さなメーカーの品が並ぶ、普通の人の、あまり立ち入らないフロアだ。かねてから、レトロゲームを集めていた所為で、こういう何処か怪しげな品物も全く気にならない。


「さて、掘り出し物は無いかな?」


 彼女いない歴が人生と同義の俺は、どうせ暇を持て余しているので、まあ、遊びがてら、ふらふらと、見て廻っていた。

 そこで、俺は気になる旗を見つけた。


「スマートウォッチ?」


 その禍々しいフロアの一角に、その旗は立っていた。

 スマートウォッチ、それは並み居るメーカーがこぞって開発して、最近は結構な数が出回っているのだが──


「いまいち流行っては無いよな」


 某リンゴマークの売り出したヤツも、リンゴフリークの奴らが、お布施代わりに(香典代わりという話もあるが)買っているとしか聞いた事が無い、ある意味死に筋商品だと俺は認識していた。


(出落ちで鳴かず飛ばず──まるで俺の人生のようだ)


 何処か同情にも似た気持ちになってしまった。しかも、このメーカーは見た事も無い。これは売れないだろ?

 その予想を裏付けるかの様に、他の怪しげなショップには、それでも結構な人が(当然一癖有りそうな怪しげな輩だ)出入りしているのだが、ここだけはまるで真空ポケットの様に誰も寄り付く気配が無い。当然俺も入るつもりは無かった。

 俺はチラリと一瞥を送り、通り過ぎ様としたその時──あるポップに目が止まる。


【完全防水】

【完全防火】

【完全防御】

【無料モニター募集中】


「完全防水なのか!」


 しかも無料モニターだと? このメーカー、捨て身の販売攻勢に出ているのだろうか? しかも、よく見るとスマホとセットになっていると言う。そして俺を惹きつける【無料モニター中】の文字


「……ちょっと話だけでも聞いて見ようかな」


 こうして、俺はよせばいいのに、そのショップの門をくぐってしまう。

 それは取り返しの付かない決断になった。

 何故気がつかなかったのか


【完全防御】


 この四文字に、全てが表されていることを

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