第4話 エピローグ

 殺人的な暑さがかげりを見せ、夏が終わりを告げようとしていた。

 実梨は白い封筒を手に取る。


 無山恭也からの手紙だった。


*******


  実梨へ


 お元気ですか。


 君も知っているとは思いますが、母が逮捕されました。

 現在は精神病院にいます。

 彼女はやがて発狂してしまうでしょう。僕はすべて受け入れるつもりで、覚悟をしています。

 母のことでは、君にも大変迷惑をかけました。

 申し訳なく思っています。


 出来ればここで、麻弥について少し書きたいと思う。

 僕と麻弥は大人になり、手紙の交換で交際をしていた。

 母はそのことを知り、麻弥をDGリストへ載せ、殺す準備を始めた。母は昔から、僕と関係する人間を激しく嫌う。表向きにはわからないが。


 麻弥はもともと心を病んでいた上に、嫌がらせを受け神経衰弱に陥った。

 彼女は君が思っているよりも、病気が悪化していたんだ。麻弥の息子の命さえ、危ぶまれる精神状態だった。

 僕は幼い頃の自分を思い出した。悲しい愛情の記憶しかない。麻弥はいずれ、息子を手に掛けてしまうだろう。

 僕は見過ごすことが出来ず、手を貸してしまった。


 これからも僕はここで罪を償うつもりだ。

 実梨。

 僕は君が思っている以上に、君のことを知っている。

 ずっと、君を想像し、愛してきた。

 瞳を閉じれば、これからもすぐに逢える。

 ただ、まぶたに浮かぶ君にはずっと影がなかった。きっと、実体がなかったからだね。


 でも、もう違う。僕の精神は、信じられないほど落ち着いている。

 君の優しい心が見える。

 僕は君の影までも、今は見えるんだ。


 ありがとう。

 実梨、愛している。


 そして、さようなら。


       

                         無山恭也


*******


 実梨は手紙を胸に抱き、子供のように泣きじゃくった。

 大粒の涙がこぼれては落ち、実梨の頬を濡らす。


 遠い記憶。

 幸せだった頃の三人。

 もう二度と、触れ合うことさえ出来なくなった。


 でも、瞳を閉じれば、いつかきっと――。

 温かいあの頃の君に、逢うことが出来るだろうか。


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ペット探偵と謎解きカフェ ~君の影は僕のもの~ 片瀬智子 @merci-tiara

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