第3話 初・変・身!

……おいおい、俺はまだ夢でも見てんのかこれ?


まさかの夢から覚めたらそれもまた夢でしたなんていうオチなのか?


そう考えながら目の前の巨体を見上げる。


筋骨隆々の総身は青みを帯び、右手にはサバイバルナイフのような刃物が握られている。


そして「FUu……FUu……」と、夏なのに白色の呼気を撒き散らしながら、こちらを見ている。


あっ、なるほど。最近流行りの3D、もしくはVRバーチャル・リアリティだなこれは。まったく人騒がせなもんだ。これほどまでに現実に違和感なく再現できるなんて最近の世の中凄いなー。マジ尊敬するわ。で、装置はどこだ?これなんかの撮影かなんかで使うんだろ?巻き込まれた側としてはいい気分じゃないがまぁ許してやるさ。それにしても本当に血走ったような目とか本物っぽくて偽物に見えないなぁ……。


「GYEEEEEAAAAAAAAAAAAAAA!!」


現実逃避気味に考えていたら、目の前の怪物が吼え、上から降り下ろす様に刃物で切りかかってきた。


「いぃっ!?」


とっさのことだったので反射的に右に避けると、反対側を刃物が通りすぎ━━━。



地面を大きく穿った。


「ちょっ!?冗談じゃねぇぞ!」


今の回避で体勢を崩した俺は、再び襲いかかってきたナイフを避けることができず。


「ガッ!!?」


脇腹を大きく抉られた。


夥しい量の血が流れ、視界が霞む。



目の前の化け物が嘲けるように笑い。



俺の世界は止まった。






正確に言えば、死んだのではない。


俺を除いた周りの全てが動きを止め、灰色の色彩へと変わった。


化け物さえも身動ぎ一つせず固まったままだ。


「ハロローン♪さっきぶりー♪」


……ついでにウザい声が聞こえた気がする。


顔を少し上げると、夢の中に現れた妖精がまったく同じ姿でそこにいた。


「あっ、ひどい!さっきと同じく無視するなんて!」


「……今の状態だとお前の声がガンガン脳に響いて五月蝿いんだよ」


「やっぱりひどっ!せっかく助けに来たのに……」


「そもそもお前は夢じゃないのかよ。なんで普通に出てきてんだ……」


「あっ、夢だと思ってたの?残念!現実でした!」


「もう帰れ」


「ごめんって!とにかくその傷を先になんとかしなきゃね」


「今更かよ、結構きついんだぞこれ……」


話してる間にも血は抜けていき、意識が朦朧としている。


「それだけ話す元気あるなら大丈夫そうだけどねぇ。とにかく今から言う言葉を唱えなさい、時間を止めるのもそろそろ限界だから」


「……ちっ、聞きたくないが、このまま死ぬよりはマシか……後でちゃんと事情は話してもらうぞ」


俺は頭に響いてきた言葉を反芻し、唱えた。



試験者テスター権限、オン。



そう唱えた瞬間、俺の身体が淡い輝きを放つと、俺の身体は黒を基調にしたヒーロースーツに包まれていた。


先程までの血を流したことによる虚脱感は吹き飛び、身体中から力がみなぎってくる。


「へぇ、まるで仮○ラ○ダーになった気分だな」


俺が驚きながら自分の姿をしげしげと見下ろしていると。


「……来るわよ、構えなさい」


妖精が真剣な声音で呟いた。


途端、風景は灰色のままなのに、化け物の色彩が徐々に元通りの色へと戻っていき━━━。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


化け物が雄叫びをあげ、突進してきた。


「それで、俺はどうすればいい?」


とりあえずどんな風に動けばいいのかを妖精に問うが……。





「あっ、ごめん。説明書読むから待って」


「はぁぁぁぁぁ!!?」


突然懐から出した紙製の説明書読み出した。


てかおい、ふざけんじゃねぇぞ!


「なんでてめぇ自身が理解してねえんだよぉぉぉ!!」


ちなみに俺は現在進行形で叫びながらナイフを避けるのに精一杯である。


だが、先程までは視界に捉えることすら困難だったナイフの軌道をかわせるというのは、このヒーローの力が本物であることを否が応にも思い知らされる。……とはいえ、素直に喜べない。


「もらったばかりで私も把握してないのよ」


「そういうのはちゃんと確認してからにしやがれ!説明してる間に死ぬわ!!」


「えーと、まず最初にぶっとばします」


「説明簡略化しすぎだろ!」


白刃取りで片膝を地面につけた俺は、上からのしかかるように力を加える化け物に向かって叫ぶ。もちろん妖精に対してだ。


「その次に心臓を抉り、殺します」


「猟奇的すぎんだろ!てか神様が『殺す』とか説明書に使ってんじゃねぇよ!」


なんとか白刃取りしたナイフをうまく剃らし、化け物と距離をとろうとするも、化け物は間髪いれずに距離を縮め襲ってくる。


「……あー、とりあえず『ブッ殺おなしゃーす』と書かれているわ。というわけでヤっちゃって♪」


「かみぃぃぃぃぃぃ!!!」


突進してきた化け物に吼えて、俺はナイフに構わず自暴自棄で相手の心臓部分を貫いた。


不快な感触を想像していたが、既存の生物と異なるのか、そういうのは感じなかった。


ぐったりとした化け物が光に溶けるように消えると、俺の手には綺麗な宝玉が握られていた。


「……終わった……のか?」


「いいえ、まだよ。とりあえずお疲れ様♪」




パァ━━━━━ン。


とりあえず俺は妖精を両手で挟み込むように潰した。


「……ま、待ちなさい……っ!待ってください、ちゃんと謝りますから……っ!とにかく、もうすぐ時間が動き出すからあなたの家にでも連れてってください……!あと潰さないで……!!」


そうして訳も分からず巻き込まれた俺は、この妖精姿の神から自宅で話を聞くことにした。……手短に終わらせて、早く学校へ行かなきゃな。


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俺が勉強することと世界を救うことが=(イコール)な話 《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ @aksara

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