俺が勉強することと世界を救うことが=(イコール)な話

《伝説の幽霊作家倶楽部会員》とみふぅ

第1話 不運な少年

「おにぃ、またサボったりしないよね?」


俺の可愛い妹が朝っぱらからそんなことを聞いてくる。


「あぁ、サボったりする気はないさ」


その問いかけに、俺(睦月むつき 遼夜りょうや)は堂々と答える。


「そう言って、未だにどうしてサボったのか教えてくれないし……」


妹がジト目を向けてくる。やめて!そんな目で見ないで!


「兄ちゃんだってなぁ、秘密の一つや二つくらいあるんだよ」


「ふーん……へぇ……そぅ」


視線が冷てぇ……。


「心折れるのでやめてくださいマジで」


そうして、俺達は家を出た。


雲も一切ない晴れ晴れとした青空。


天下泰平、世は事も無し。


だけどあっつい。


7月中旬ともなると、こういう日は湿気がない分、肌を焼くジリジリ感がヤバイ。


「ところでおにぃ、ちゃんと準備はしてあるの?」


「あぁ、もちろんだ。兄ちゃんを舐めるんじゃないぞ静湖せいこ


「そう、じゃあちゃんと汚名返上してね」


「おう、兄ちゃんに任せとけ!」


「どうだか……」


ガッツポーズの兄に、やれやれと呆れ顔の妹。


どこにでもいる、仲の良い兄妹。


不満もなければ、多感な年頃のギクシャク感もない。


周りから見れば何の問題もない平々凡々な日常のワンシーンだろう。




しかし、兄はピクッと肩を震わし、「あっ」と呟いて立ち止まる。


「……どうしたのさ、おにぃ?」


「すまん静湖、忘れ物したから先に行っておいてくれ」


「別にそれくらいなら、そんなにまだ家から離れてないし待つけど……」


「いや、ついでに色々と確認したいから。お願いします、先に行っておいてください!」


両手を合わせて、一生のお願いのように頼み込む。


「……ちゃんと来なよ学校、今日が何の日か分かってるでしょう?」


「あぁ、分かってるさ……」


そう言って俺が背を向けると、静湖は学校の方角へ歩いていく。


俺は静湖が視界に映らない、近くの曲がり角を曲がる。


その先で立ち塞がっていた、目の前の二メートルを優に越える巨体を見上げる。


四肢ははち切れんばかりの筋肉に覆われ、頭からは角が二本生えた、牛を思わせる顔のそれはこちらを見下ろしている。




あぁ、もちろん分かってるさ。


なんて言ったって、今日は……。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


「高校生活初の期末テストだからなコノヤロウ!!」


目の前の明らかに人間ではない化け物が吼え、俺もお返しの様にヤケクソ気味に叫ぶ。


俺は右腕の袖をまくり、そこに装着された物に左手を添える。


そしてその言葉を唱えた。


試験者テスター権限オン!!」


すると、俺を起点にして周りに光の粒子が渦巻き、体にまとわりつく。


形状が形成されると、光は黒々とした質感と赤の紋様を刻んだものへと変化し、輝きが消える。


そして俺は学生服を来た一生徒から、戦隊もののヒーローが着るようなゴツゴツとした質感のバイザーヘルメットと、足の爪先から首まで覆うスーツを装着し、超人へとなった。


「こんな街中じゃあせめぇから、あっち行くぞこらぁぁぁ!!」


怪物を無理矢理羽交い締めにして、空中に跳躍すると、そのまま誰もいない近くの田んぼに怪物共々、真っ逆さまに落っこちる。


衝撃で、田んぼの土が凄い勢いで弾け飛びクレーターのような有り様になるが、お互い目立った外傷はない。


「ちっ、やっぱりこの程度じゃあ駄目か!」


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


「やかましいから黙ってろ!!」


体のバネを利かせた足蹴りが、怪物の鳩尾みぞおちに深々と突き刺さる。


怪物は「GYE……GA……!」と、苦悶をあげている。


怪物が動きを止めた今、勝敗が完全に決まった。


「チャンス到来!沈めや畜生が!!」


音速を越え残像さえ残すほどの両手パンチが、無数の尾を引きながら相手の体全体に叩き込まれ、怪物の体が肉片へと千切れていく。


「とどめだ牛もどきがぁぁぁ!!」


最後に心臓部と思われる左胸のところに、叫びながら渾身の一撃を放ち貫くと、怪物の体は光の粒子となって跡形もなく崩れていった。


そしてその崩れた後には、水色の輝きを放つ球が落ちていた。


「さて、これで第一処理だ。後は……」


そう呟き、俺が球を拾おうとした瞬間。


「こらぁぁぁ!うちの田んぼでなにやっとんじゃ貴様ぁぁぁぁ!!」


顔をタコのように真っ赤にした壮年のお爺さんが凄い勢いで怒鳴り散らしながら走ってきた。


うげっ!?まずい!さっさとずらからねば!!


「おっ、お邪魔いたしましたー!!」


急いで球を拾い、再び空高く跳躍する。


「あっ!?待てこの不審者!!」


お爺さんが下でカンカンに怒って、刃物を振り回している。


うん、降りたら死ぬな。即撤退!




そのまま、跳躍を繰り返し、俺は人気のない、廃墟ビルの屋上にきた。


「ここなら誰にも邪魔されないな。さて……」


俺は先程回収した水色の球を懐から出す。


「はぁ、まさかまた・・俺にとって大切な日に限ってこんなことになるなんて。どうなってんだ俺の人生……」


妹は言った、汚名返上しなさいと。


それに対して俺は誓った、絶対名誉挽回してやると。


しかし、訂正しよう。


「ごめん、静湖…………約束は、果たせそうにない……っ」


まるで、死地に向かう主人公のような言い回しで、泣きそうな表情の遼夜。


うちの学校はテストの途中参加が認められていない。


そしてこれからやる作業がある以上、絶対に間に合わないのである。


つまり、この怪物が現れた地点で俺の期末テストは終了していた。


汚名返上どころか汚名挽回だわこれ……。


「……くそったれぇぇぇぇぇぇ!!」


心の奥底からの叫びをあげ、俺は水色の球を強く握りしめて叫んだ。


試験開始テスト!!」


とたんに球が光を放ち、遼夜ごと辺りを包み込んだ。




・次の式を有理化せよ。


√2

━━━━

√5+√3




真っ白な空間の中で、俺の目の前には問題が提示されていた。



これ以外にも、方程式や確率などの様々な種類と難易度の問題が、目の前の空間をふわふわと漂っている。


俺は目の前の比較的簡単な問題を一瞥する。


「今回のは一学期に習った内容……、期末テストの範囲ばかりか」


本当に、学校のテストが悔やまれる。


だが、もう今さら仕方ない。これも立派な果たさねばならぬ義務だ。


俺が拳に力を込めるように握り混むと、手の甲に数字が刻まれる。


そこに刻まれた数字は、俺が思考した目の前の問題に対する解答だった。


その拳を、恨み辛みをぶつけて目の前の物を壊す勢いで、問題に叩きつけた。


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