第15話 裏切り?後編
エルフの少女は捨てられた。今は新しい主に仕えている。
しかしこの主の下で慣れるにも、エルフには相当な時間が必要だった。心酔していた元主に捨てられ、大きなショックを受けていたのだ。捨てられるにしても、全く理由がわからない。エルフはあの時いた女よりずっと使える存在だ。魔術にしても剣術にしても負けるつもりもない。
なのに何故。
ショックと同時に疑問が浮かんでいた。納得ができないのだ。元主と話し合う事もできず、捨てられたという事実がエルフを傷つけていた。
一ヶ月以上塞ぎこんだ末。ある時、エルフはこう考えた。「優れた存在になれば、きっと元主も見てくれる。そうしたら、きっと買い直してくれるに違いない」と。
それから更にエルフは頑張った。
辛いときは、元主と過ごした日々を思いだし、過去に浸った。エルフの記憶の元主は優しい表情で、エルフの心を優しく包む。時には、その光景は妄想だけでなく夢にも出てくる。活躍すれば、元主に見てくれる。それが何よりの頑張る理由となった。
ある時のこと。いつものようにグループでダンジョン攻略に出立して早々に問題が起きた。チームが分断されたのだ。しかも、空間をわかつトラップだった。気が付けばエルフと数人は危険度の高い、深い層にいた。暫くは頑張ったものの、強い魔物に囲まれ、傷を負い、難儀することになる。
そんなとき。
どこか見覚えのある小柄な少年が助けに入ってきた。その少年は瞬く間に魔物を蹴散らしていく。振り返った少年は、見間違える筈もない、エルフの元主であったのだ。
エルフはあまりにも嬉しくて、今、別の主に仕えているのを忘れ、「御主人!」と駆け寄ろうとしてしまった。しかし、別の少年が「邪魔!」エルフを押し退けてしまうのだ。
「ハサミ! 衣服破ったほうが早い!」「息をしようとしてるのに息をできてないっぽい。気胸かな? 注射針使えない? チアノーゼは別の原因じゃない?」
少年二人は、慌てたように押し退けたかと思うと、怪我人の治療にあたった。みるみる内に、怪我人は死にそうな呼吸から落ち着いたものに変わるのだ。
元主は真剣な表情のまま、別の怪我人の様子を見る。注射をしたり、包帯を巻いたりする。雰囲気に圧され、エルフは元主に声をかけられなくなっていた。
ある程度落ち着くのを見て、元主はようやくエルフの治療をする。エルフはかすり傷程度なのだ。その為、最後の順番となってしまった。
喋る切っ掛けだ、とエルフは思った。何かしら反応をくれるものだと期待する。そこから会話が広がり、自分の評価を改めてくれるのではないか。何故かそう感じた。元主がエルフの肌に触れ、包帯を巻いていく。
エルフはその心地よい緊張の中、期待に胸を膨らませながらチラリと表情を伺ってみる。しかし。どうもうまく目を見ることもできなくなっていた。なんと声を掛けたら良いのかわからなく、取り敢えず感謝の言葉を告げた。
「あの。その。ありがとうございます」
「ああ、まあ、助け合いですから」
元主である少年は、エルフの事などみていなかった。まるで初対面であるかのような対応なのだ。そこには、何一つの感情も無いようにエルフは感じてしまった。
「あの」
エルフは元主に声を今一度掛けた。それに対し。振り向く少年は、不思議そうな顔でエルフと見つめあっている。
「どうしました? 他に怪我でも?」と元主はエルフに言うのだ。
「いえ。なんでもありません」
元主はエルフの事を、どうやら覚えていなかった。
元主を見ていたのだが、それはエルフにとってショックの連続である。と言うのもエルフの知る主とはあまりに違っていた。見ていれば、元主は陽気な雰囲気を纏っており、どこか道化を気取っているようにも見える。
戦い方も、エルフが知るものとは全く違っていた。更には、エルフが思っている以上に元主は強かったのだ。素手で無感情に魔物を殺していく。エルフが前に出れば、「足手まとい。邪魔」と言いたげに横から魔物を一撃で殺していくのだ。
元主と過ごした日々が嘘だと言われているようで、完全に裏切られたように感じた。さらに元主は、ダンジョンをただの遊びと称し、御菓子作りや玩具作りで生活しているのだと言った。
ダンジョンで活躍すれば、元主も買い戻してくれる。そう信じ続けていたエルフの頑張りは、最早無意味な事であったのだ。
しかも、何度も話しかけるが、元主はエルフの事を思い出す様子もなかったのだ。
異世界転移してしまった 18782代目変体マオウ @18782daimehentaimaou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界転移してしまったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます