第2話 マックと霊媒師

ところでカズコの曾祖母は占い師だったといわれる。アジャラカモクレンミナソウリョと呪いを唱えると手元の水晶玉に全てが移されどんな人間の恋路も占えるがそれ以外はからっきしだったという。

カズコは曾祖母の話を唐突に思い出し恋の道筋を唐突に占ってもらいたくなった。むろん物故している。

「ケンゴ、霊媒に興味ある?」

「は?」

木枯らしの様な冷たい風が春の頬に伝うのを感じた。ああ、これはいけないやつです。立て直しを間違えればそれっぽい空気が何もかも水の泡の冗談と消えてしまいこの幸せな時間も何もかも無かったことになり明日また改めて目を合わせる事があれば気まずい顔をして顔を伏せるだけで昼食も共に食べないうちに終わってしまうそのような事があってはならないと二人は同時に悟った。

「マック、いこうか」

「…うん」

ケンゴの気を利かせた一言にそれこそ命を救われた形となったカズコは脳裏に浮かぶあったこともない曾祖母の影を振り払うのだった。


マクドナルドもいつまでも若年層に100円ハンバーガーの恩恵をもたらし続けてくれる存在ではなく、カズコはアイスティーだけを頼みケンゴはハンバーガーを3個頼んだ。明らかに腹が減っている。ここに誘ったのもただ自分が喰いたかっただけなのではと怪訝な気持ちになっている間に既に2個目のバーガーに手を付けていた。

「おいしい?」

「おう」

続かない会話。気まずいようなそこまででもないような微妙な時間。

唐突にカズコも腹が減った。目の前にある3個目のケンゴのハンバーガーに手を付けるとまるごと頬ばる。

「お、おい」

「ん!」

バーガーをくわえたままもう半分食べろと言わんばかりにケンゴに突き出す。戸惑い。気の迷い。勢い。曾祖母の念。よくわからない力に突き動かされたカズコも2秒ほどで我に返りトレイにハンバーガーをそのままおろす。

「ご、ごめん」

「いいよ、やるよ」

「ありがとう」

目を合わせられない。しかし空気は和んだような、そうでもないような。もともと仲が悪いわけではないのだ。周囲に知り合いがいないことにほっとする。そこで見回した店内の鏡に映ったラーメン屋の看板がカズコの目に飛び込んだ。

「お、おなかすいたね」

「え?ああ、一口食べると腹が減ったの思い出すってやつ」

「そうそれ……ねえ、あの店入ったことある?」

二人は視線をラーメン屋に向けた。

「入ったことないな。行くの?」

「記念に」

今日という日の食事の記憶がこのハンバーガーだけになる事は避けたかったし、実際ラーメンを食べたいと思った。幸いにも二人とも。


そして二人はマクドナルドを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

告白から始まる青春 @kohak3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ