憂鬱で、鬱陶しい。自分の身体も、心も。
目に映る何もかもが。
晴れることのない自分自身を抱える、やり切れない気持ち。
主人公にしかわからないその苦しみが、いつまでも胸に残りました。
雨の降りしきる灰色の世界から出られない、主人公の心。
——その世界から出ようとしない、主人公の心。
出口のないその空間は苦しく、窒息しそうな感覚を覚えます。
周囲にいる人間は——淡々とそれぞれの世界に住み、口をつぐんで彼を見ているだけ。
薄暗い空気の中に蹲る主人公を、読者である私たちは言葉もなく見つめるしかありません。
簡単には言い表し難い、ひんやりとした重みのある作品です。