人魚を食べた
椿
人魚を食べた
むかしむかし、あるところに。
貧乏な漁師が幼い娘と共に暮らしていました。
漁師は海で魚を採ってはそれを食べ、残った魚を町で売っておりました。
しかしこの海は沖に行っても行ってもどういうわけか貧弱な魚しか採れず、漁師とその娘の生活は大変苦しいものでした。
その生活がたたって娘は病気になってしまいました。
もちろん、高価な薬など買えるわけがありません。
「ごめんよぅ、ごめんよぅ」
漁師は弱り切った我が子の手を握りますが状態が良くなるわけがありません。
「神様よぅ。おらと娘っ子は、なぁんも悪いことしてねぇんだ。なんでだよぅ」
もう娘は立つこともままならないほどでした。
次の日、娘に食べさせる魚を採るために漁師は沖へ出ました。
「おお、かなりでっかい魚が網にかかったぞ。珍しいなぁ」
もう夕日も沈みかけたころ、漁師が網を引き上げるとなんとそこには上半身が人間の女の魚が一匹だけかかっていたのでした。他に魚はいません。
「なんだぃ、この魚は」
その魚は苦しそうにもがいていました。
「ごめんよぉ、娘のためなんだ」
漁師は魚を殴って気絶させました。
その日の夕飯はとても豪華でした。新鮮でおいしそうな魚料理をたくさん、漁師がつくったのです。
漁師が横たわる娘の口に魚料理を運んだとたん、娘はあっと言う間に元気になりました。
娘は布団を抜け出し元気に走り回ります。
「これは、これは。きっとこの魚は神様が授けてくださったんだ」
ふたりは豪華な夕飯を残さず平らげましたが、魚の切り身はまだまだたくさん残っていました。
「そうだぃ、この魚を不治の病でもなぁんでも治してしまう薬として売ろう。とても儲かるはずだぞぅ」
漁師は残りの切り身をすべて干し、薬として町で売りさばきました。
薬は大変よく売れ、町の人ほぼ全てが買いました。
しかしまだまだ干し切り身は残っていたので漁師はさらに隣の町へ売りに行きました。
漁師はたちまちお金持ちとなりました。
それから何年か経ったとき、漁師はあることに気が付きました。
「まだちっこいなぁ。背が伸びてないしなぁんか言葉が幼いよなぁ」
娘の成長が止まっていることに。
「おらもそろそろ足腰が弱くなってもおかしくはないんだがよぉ、一向に悪くならないんだ。ありがてぇ」
自分が老いていないことに。
町の人々もそうでした。みんなみんな、老いなくなったのです。
そしてみんなみんな、死ぬことがなくなったのです。
老いた人はそのまま、幼い子供もそのまま。
生きたい人も、死にたい人も。
「お父ちゃん、あたしね。大きくなったらね。うんとね」
漁師の娘が言います。
漁師は娘が大きくなれないことを知っています。
次の日、隣町の男が町へやってきて不治の病でもなんでも治る薬と言うものを売り出しました。
その薬とは、海でとれた上半身人間の魚の干し切り身だと男は言っていました。
漁師は迷わずそれを買い、娘と自分で食べました。
町の人ほぼ全てがそれを買って食べました。
それでもまだまだ干し切り身は残っていたので男はさらに隣の町へ売りに行きました。
翌日漁師は娘の身長が少し伸びていることに気が付きます。
そう、止まっていた時が流れ始めていたのでした。
それからさらに何年か経ったとき、薬を漁師たちに売った隣町の男はあることに気が付きました。
「まだ小さいな。背が伸びてないしなんか言葉が幼いんだよな」
娘の成長が止まっていることに。
「おれもそろそろ足腰が弱くなってもおかしくはないんだが、一向に悪くならないんだ。ありがたい」
自分が老いていないことに。
「お父ちゃん、あたしね。大きくなったらね。うんとね」
男の娘が言います。
男はは娘が大きくなれないことを知っています。
次の日、隣のさらに隣町の男が町へやってきて不治の病でもなんでも治る薬と言うものを売り出しました。
その薬とは、海でとれた上半身人間の魚の干し切り身だとその男は言っていました。
男は迷わずそれを買い、娘と自分で食べました。
町の人ほぼ全てがそれを買って食べました。
それでもまだまだ干し切り身は残っていたのでその男はさらに隣の町へ売りに行きました。
人魚を食べた 椿 @lintaro
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