エピローグ

 洞穴の前に転がされて絶命している男と何人かは伸びている男。

 多分これ以上しても無駄だろうと、コタロウは思った。

 あとはギルドで盗賊討伐の依頼でもきていないかを確認するくらいだろうか。確か一つあったような気がするので口先三寸で誤魔化してしつつ、後から受けても何とかなるような気がする。

 思うことは一つ。


「ま、うらまないでくれよ」


 手を合わせてそんなことをコタロウは思う。


「師匠!」

 と、ゴブ美がコタロウに抱きついてくる。

「どうだ、俺に感謝したか」

「ええ。私に最後を任せてくれてこうなったわけですが、感謝しています」

 不満があるらしい。

 どうやらこの様子だとコタロウを首領にして、口上を述べるような悪役っぽいことをしてほしかったような感じがするが、その辺はノーサンキューである。


 自分は勇者として異世界にきたけれども楽に暮らしたい。


 その為にはこんなところでモンスターの首領とか悪役っぽいことはしたくはない。むしろマイナスの履歴が増えている。というか、外道レベルとかもうマイナスだ。

 だからこそ、ここでお別れである。


「この盗賊は俺が突き出す。それで俺の名声が上がる。それでお前のような見ず知らずの見てくれだけはいい、ハーフゴブリンが騒ぎ立てようともギルドは事実無根だと言ってくれるだろう」


 口約束だろうが、外道とはいえ約束は破らないだろう。

 そこまで落ちぶれるようなことは外道女騎士とゴブリンのハーフとはいえ、しないだろう。というか、このゴブ美は少々優しい傾向がある。


「大丈夫です。そこまで私は師匠のように外道ではありませんよ」

「うぐっ、俺は外道じゃないんだ」

「そうですね。外道はモンスターだけで十分です」


 何というか、手玉に取られた感じがするのはコタロウの気のせいだろうか。


「おーい、そこの二人!!」


 と不意に人の声が聞こえた。


 ゴブリン達が気付いて森の草むらに隠れてしまった。

 びっくりしたが、コタロウは振り向くとそこには自分と同じ勇者パーティとおっさんくらい冒険者がいた。

 彼らはここの盗賊のねぐらを討伐しに来たのだろうか。


「大丈夫か。うわっ、これは先を越されたか」


 年長者らしきおっさんが髭をなでながら、そんなことを言う。

 どうやら、当たりらしい。


「すごいね。ええっと、ヤマモリ」

「ヤマムラコタロウだ」


 一人の同じ学校だった勝気そうな女の子が言ってくる。

 どうやら、自分の名前も満足に覚えてくれていないらしい。

 まあいい。それよりもこの盗賊の報酬をどうするかについて話し合わなくてはいけない。


「ところで君はこんなところで、しかもその子ダークエルフか。うん、助けられたのか」

「はい。そうです。この人は私を助けてくれました」

 少しムッとした表情をしていたが、おっさん冒険者に言われるとハキハキと答えた。


「ここは危ないね。ね、君、名前なんていうの?」

 勝気な異世界の女の子の顔を見ると何故かゴブ美は笑顔の仮面をぴったりとつけながら、返す。

「フェリシアと申します。よろしくお願いします」

「よ、よろしく」

 何故そんなに怒っているのだろうか。コタロウの存在感の無さは自分も認めているのだから仕方ないと思っているのに。

「まあ、いいわ。それよりもそのヤマムラ君よりも外に出て、お話をしましょう」

「いやです。この人と一緒にいたいです」

「まあ、しょうがないか。うん、まずは外に出て」

「この人といないと駄目です。何故なら、私は」

 ふっと、ゴブ美こと、フェリシアの顔がコタロウの頬に近づく。

「ちょっと待ってくれ何を」


「だって、あなたは私の師匠ですから」


 その姿はある意味頬にキスしたようにも思える仕草。

 コタロウはドキッとしながら、そこの言葉よりも仕草にフリーズしてしまったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴブ美ちゃんLV1 阿房饅頭 @ahomax

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ