12:『突入準備 III』

「えっと、俺……?」

「そう。いつも観測手ばかりじゃつまんないでしょ。それに、遼介の状況を俯瞰ふかんして的確に報告する力は、才能だと思う。ま、コレも経験ってことで。」


 岸川先輩の声が頭上でぐるぐると回る。遼介は、自分は突入メンバーに選ばれる事はないだろうと完全に油断していた。

「以上四名が、突入メンバーだ。その他は道中の援護、補給経路の確保に回って。代表は小竹、任せた。」

「了解~」


 小竹先輩が返事をした後、岸川先輩が小竹先輩に分厚い資料を渡す。小竹先輩が明らかに嫌そうな顔をしていたが、「今回だけはちゃんと読んで。」という岸川先輩の言葉に渋々頷いた。

「じゃあ殴り込み諸君、集合~!」

 小竹先輩が声を上げる。そして会議は終わったとばかりにそれ以外の部員は部屋を出て行った。


「やー、まさかこんなことになるとは。特に遼介君、ずっとスポッターやってたんでしょ?主力武器メインウェポン何だったっけ。」

「FN社のP90です。」

「田所先輩の動きには付いて行けてる?」

「まあ……大体。」

 小竹先輩は手を組んで「ふむ」とうなる。

「それなら作戦に支障はない。歩美の采配さいはいも的確な物だった……と言うことか。――ああ、田所先輩はスナイパーのくせにミドルレンジ……内村先輩みたいな小銃持ち位動き回るからね。あの人のスポッターなら、無理矢理にでも動きは良くなる。」


 部屋に残った突入メンバー、もとい、殴り込み部隊のほかのメンバーも頷いている。

 確かに田所先輩はアクロバットな動きが多い。建物から建物に飛び移るし、ラペリングも身体を支えるハーネス無しでやってのける。というか、位なら飛び降りる。そして、付いて行けなければ容赦なく置いていく。遼介も、ずっと離れずに付いて行けるようになったのはここ最近のことだった。


「遼介君には今までと同じく通信手ラジオマンも平行してやってもらう。それから、いつ歩美からの通信が途絶えるかわからない。これから説明する事を、すべて頭の中にたたき込んでくれ。」



 同じ頃、アクロバットと距離の化け物スナイパー二人組は、ロッカールームで得物の整備の続きをしていた。

 田所陸は飽和M1500、木瀬沙織はアキュラシーインターナショナルL115A3だ。陸は茶道部に入部してから狙撃手になり、色々なスナイパーライフルを試してこれに決めたが、沙織は入部する前からこれを使っている。

 陸か一年生の時の春休み、新学期が始まる前日に、校長と顧問の森本先生(この人も防衛省の職員だったりする)に連れられてやって来たのが沙織だった。

 その時には既にその銃を持っていて、腕前もかなりの物だった。つまり、『孤島』の外、現実世界で狙撃をしたことがあると言うことになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦う茶道部! 星見 空河 @cougar_hosimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ