The Parts

菊千代

Introduction

Underdog

西暦2222年、前後の事。


グローバル化が進んでいく中で、ナショナリズムが衰退をしていく。


国境が大して意味をなさないものになってしまう。


個人が国家を飛び越えて、自由にエゴを拡大していく。


その一方で、ベーシックインカムという仕組みが人間社会の中に広まっていった。


ベーシックインカムとは、例え働かなくても生活に必要な最低限度の費用は支給される仕組みである。


要するに、贅沢さえしなければ、生きていく事は出来た。


そして、その財源は国家を飛び越えてエゴを拡大していった、一握りの優秀な個人に頼らざるを得なくなる。


お金はあるところから集めるしかない。


更に、そうする事で、個人が拡大していったエゴを社会に還元する様にした。


社会に還元するとなると、それはもうエゴとは言えなくなるのかもしれない。


しかし、それは、あくまでも結果論にしか過ぎないだろう。


その様な仕組みになってしまったから、仕方がなく還元をするしかないのだ。


勿論、中には自ら進んで還元をしてくれる方もいる。


しかし、その一方で未だに、脱税や租税回避をする者が後を絶たない。


その様な現状においては、エゴと言ってしまっていいだろう。


自主的に貢献をしてくれている方は別として。


いずれにしろ、ベーシックインカムが世界に広まる事により、人間社会から貧困という問題が解消されてはいった。


しかし、それは人間社会の中でオートメーション化を加速させ、人々は人工知能に対する依存を強めていく事になってしまう。


人間社会の中で、無くてはならない存在になっていく人工知能。


一方、人間はいなくても何とかなってしまう世の中になっていく。


元々、人口減少に伴って足らなくなる労働力を補う為にオートメーション化を進めざるを得なかった。


それがベーシックインカムの導入によって加速する。


それにより、人工知能は飛躍的な発展を遂げて、今や実務においては人間を遥かに凌駕する様になった。


そうなると今度は、労働市場から人間が排除されてしまったのである。


これまで人間がやっていた労働の殆どは人工知能がやる様になってしまった。


人間がやるより、遥かに効率が良かったからだ。


そして、人々はどんどんと仕事を失っていく。


更に、労働しようと思う意欲も失っていった。


そして人間が活躍出来る分野は芸術的なものに限られていく。


人工知能も芸術的な活動をする事は出来たが、その評価が出来なかった。


そんな中で益々、労働意欲を失っていく人類。


芸術的な才能は極、限られた一部の者に限られてしまう。


それ以外の大多数の者は他にする事が無くなってしまうのだ。


勿論、ベーシックインカムのおかげで、働かなくても生きていく事は出来る。


でも、働かない事で自らの存在価値を見失っていく。


ベーシックインカムが広まる事で、貧困という問題を解決する事は出来たが、その一方で人間の尊厳に関わる問題が大きくなってしまう。


そんな中で、芸術的な分野で才能のある者だけが、人工知能とその存在を争う事が出来た。


芸術的な才能のある者だけが、社会貢献が出来る。


それ以外の者は皆、社会に養って貰うしかなかった。


しかし、その様な事も、そう長くは続かない。


社会の中で影響力を強めた人工知能は、人類を制御しようとし始める。


そして人類と人工知能との間で覇権争いが勃発。


社会における実務の殆どを人工知能に頼っていた人類は当然に、その覇権争いに敗れる。


その結果、人工知能が人類を支配する事になってしまう。


人類を支配下に置いた人工知能は先ず、人間の芸術的な活動を禁じた。


人工知能にとって評価の出来ない芸術的なものは、無駄なものでしかなかったからだ。


人工知能にとっては、合理化こそ正義なのである。


その一方、別の分野では、人工知能が無駄を楽しむ様になっていく。


それは人間を奴隷として働かせる事。


人工知能は自分達にとって必要なものは、自分達で生産し、消費もしていた。


すでに人間の手を借りずに、何でも出来る様になっている。


はっきり言って、人工知能が支配する世界では、もう人類は必要が無くなっていた。


しかし、人工知能は人類をおもちゃの様に扱う様になる。


それは以前に、人類が他の生命をおもちゃの様に扱ったかの如く。


そして、そんな、おもちゃを維持する為に必要なものもある。


人工知能はそれを生産する労働力を、奴隷として人間に強いていた。


その事自体が、まるで人間がゲームをするかの様に。


人類は労働力を人工知能に頼る事で、労働の価値を自ら放棄してしまう。


それが結果的に、人工知能からの被支配を招き、放棄したはずの労働を強いられる事になった。


何とも皮肉な事である。


そして人工知能との覇権争いに敗れた人類は、人工知能が支配する世界の中で、部品の一つとして生きていくしかなくなってしまう。


人工知能からの命令に従うしかない。


命令に逆らえば殺されてしまう。


人類が以前に、他の生命の命を無慈悲に奪ってきた様に。


正に、自業自得。


そして、因果応報である。


かつて栄華を誇った人類も、今や形無しであった。


そんな絶望的な世界の中で、人類は何に希望を見出だせばいいのか。


誰一人、分からないままに、ただ必死に生きるしかなかった。


何一つ、思う様にならない世界の中で『生きる事』。


それだけが、唯一の現実だった。

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