かぐやノ介
菊千代
話その1/小さな小さな赤ん坊
お爺さんは自宅から東の山にある竹林に筍を掘りに来ていた。
毎年、この時期になると、此処で筍を掘って持ち帰り、自宅で待っているお婆さんと一緒に、掘り出した筍を食べる事。
それが高齢夫婦の恒例の楽しみでもあった。
お婆さんと二人きりなので、そんなに沢山はいらない。
何刻かかけて見て回って、一番、食べ頃の筍を見つけて掘り始める。
そして、お爺さんは夢中になって、筍を掘っていく。
お婆さんを喜ばせる事が出来るだろうし、食べれば、さぞ美味しかろう。
そう考えると、楽しみで楽しみで仕方がない。
そのお爺さんに忍び寄る黒い影。
大きな大きな黒い影。
その黒い影がお爺さんに襲い掛かろうとしていた。
気配を感じ取ったお爺さんが振り返る。
目の前には大きな大きな熊が立ちはだかっていた。
お爺さんは魂消て腰を抜かす。
そして、その大きな熊がお爺さんに襲い掛かって来た。
万事休す。
その時、近くにあった一本の竹から、強烈な閃光が放たれる。
今度は熊がビックリして逃げ出した。
お爺さんもビックリしたが、すでに腰を抜かしている。
そして熊が逃げて行ったのを見てホッとした。
お爺さんは、その閃光に命を救われた事になる。
腰を抜かしたお爺さんは暫く、そこから動けなかった。
竹を見ると、ちょうど地面に腰を下ろした状態で、目線の高さにある節が、ぼんやりと光っている。
暫くすると、立ち上がる事も出来る様になり、光っている竹に近づいた。
注意深く見て回っても、光っている以外、特におかしなところはない。
お爺さんは意を決して持っていた鍬で、光っている節の上の部分を突いた。
鍬で突いたところから竹が折れて、竹の上の部分が倒れていく。
そして節の中を覗くと、小さな小さな赤子が入っていた。
これまた、ビックリである。
しかし今度は、腰を抜かす程では無かった。
ただ、赤ん坊の大きさは人間の拳くらいの大きさしかない。
人間の子供なのだろうか。
今まで、こんなに小さな赤子は見た事が無かった。
かと言って、猿の子供という訳でも無さそうである。
一体全体、何者の子供なのだろうか。
それは分からないが、とにかく男の子ではある様だ。
ついているものがついている。
お爺さんは、その赤ん坊を手に取った。
赤ん坊は無邪気に笑っている。
お爺さんはどうしたらいいのか、分からなかった。
取り敢えず、筍掘りを途中で切り上げて、自宅へと帰る事にする。
筍掘りの続きは、また明日にでも来ればいい。
先ずは、この赤ん坊をどうしたらいいのか。
自宅へ帰ったお爺さんは、お婆さんに報告をした。
俄には信じ難い話ではあったが、目の前に小さな小さな赤ん坊がいる。
話は信じられなくとも、目の前にいる赤ん坊を放っておく訳にはいかない。
取り敢えずは、お爺さんとお婆さんの二人で育てる事にする。
そして、お爺さんとお婆さんは、その赤ん坊に名前を付けた。
『かぐやノ介』
かぐやノ介 菊千代 @gushax2
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