落ちたのは

 俺様は魔王。狡猾で残虐な闇の支配者だ。尽きることのない強大な魔力、瞬きする間に屈強なミノタウロスを戦闘不能にできる強靭な身体能力を併せ持つが、なんといっても一番に誇れるのは、この美貌だ。獣には美の価値が分からぬようで残念だが、人型の魔物や人間の女には特に有効で、一度俺様の顔を見ようものなら一瞬で虜となり、どんな言いつけにも従う操り人形と化す。美しいとは罪なものだ。

 この美貌を使い、勇者を罠に嵌めて始末するというのが今回の作戦だ。今度の勇者が女だったのはまさに幸い。今回、3つ目のダンジョンである罠の宝庫たる古代遺跡まで赴いたのはこの為だ。それにしても埃っぽくて汚らしい…。ダンジョンを任せている古代ゴーレムの奴に会ったら掃除を徹底的にするように一喝してやらねば。ダンジョン内を歩き回り、勇者を探しながら他の通路を徘徊する部下の報告を待つ。作戦はこうだ。まず、偶然を装い勇者と合流する。どこかの国の王子で考古学者と共に調査に来た、とでも言っておけば、お人好しであろう勇者ちゃんは信じるだろう。仲間についてだが、ダンジョン周囲の闇の出力を上げたおかげで、遺跡の中には女神の力を持つ勇者しか入れない。仲間を置いて、一人ダンジョンに侵入したというのは外の部下からの連絡で分かっている。そして二人きりでダンジョンを探索していくわけだが、出会った時点で勝負はついている。奴は俺様に一目惚れをし、だらしなく隙を見せ放題。そのまま始末してやってもいいが、それでは興醒めだ。せっかくお誂え向けの罠があちこちに仕掛けられているのだから、それらを上手く活用し、間抜けに果てる勇者の姿を見るほうが面白い。その為に全ての罠の位置を前もって把握し、より勇者が苦しむ罠に誘導するルートも考えた。ふふふ、惚れた相手に裏切られ、絶望しながら朽ち果てていく勇者の姿を想像するだけで…おっと涎が。

 あれこれと手順を頭の中で整理しながら通路を歩いていると、反対側から人影が見えてきた。長い髪に典型的な装備一式…間違いない、勇者だ。ダンジョン内の部下達に勇者と合流した旨をテレパシーで伝え、勇者に歩み寄っていった。ふふふ、さて、どんな顔で俺様を見るのかな?

「こんにちは、お嬢さん!ちょっとお尋ねしたいのだが…」

ああ、なんということだ…。近くで見た勇者の顔は、大層美しかった。今まで俺様が出会った女の中で、間違いなく一番美しい女だった…。黒く輝く長い髪、整った目鼻、艶っぽい唇…サキュバスすら霞んで見えるその美貌に、俺様はしばし思考を停止させられた。

「あの…大丈夫、ですか?」

清く澄んだハープの音色のような聴き心地のよい声に一層我を忘れそうになる。肩を叩かれた事でようやく俺様は天国の入り口から帰ってきた。あれ以上進んでいたら浄化されて死んでいたかもしれないな。

「これは失礼。あなたがあまりにも美しいものだから、思わず見惚れてしまったよ。」

全力で事実だが、一目惚れした程度で決意が揺らぐほど俺様は甘ちゃんではない。

「ふふ、お上手ですね。ところで、この遺跡は闇の力が膨れていて危険です。事情もお聞きしたいので、ひとまず同行してもらえますか?」

これは好都合だ。向こうから合流を望むとは、恐らく向こうも俺様のことを…両思いじゃないか!やったぁ!!…何がやったぁ!!だ…。と、とにかく第一段階はクリアということになるな。台本通り、自分が近くの国の王子で、考古学者と共に調査を行っていたが、いつの間にか彼らとはぐれてしまい、心細かったこと、彼女を勇者と知って同行できて助かったことを告げた。案の定、彼女はボスを倒すまでは俺様を守ると言い出し、完全に信じきっている様子。加えて調査に来た設定が功を奏し、道案内まで任せてもらえるとは、天は敵だが、俺様に味方をしてくれているのだろうか。

 勇者と並んでダンジョン内を歩く。勇者は周囲に警戒しているようだ。ふふふ、部下の演技でばれる事がないように俺様が進む道を逐一連中に伝えて、移動させているのだから遭遇することはないのにな。さて、この先の道で左右に道が分かれるのだが、左の道はなんと底なし流砂が広がっている。一度足を踏み入れれば、たちまちに体が沈んでいき、もがけどももがけども浮き上がることはできず、砂に飲まれてしまう。先に勇者を進ませて後ろから背中を押してやればあっという間だ。沈みゆく勇者の絶望的な顔を拝めるので素晴らしい。ちなみに右の道だが、こちらも罠である。中央まで進むと一本道の通路の両端から無数の毒針が発射され、刺されたものは、徐々に呼吸ができなくなり死に至る。勿論俺様は魔王故、毒耐性は万全。そもそも刺さる前に床に伏すなり天井に張り付くなりでやり過ごすのは容易だ。どちらのルートも一応奥に進むことは可能だが、その先にもしくじった時のために二重三重と罠が用意されている。さて、どちらで勇者を葬るかだが…。

「ここは分かれ道になっていますが、左の道が開けていて安全だったと思います。」

警戒心を持った今の状態で毒針トラップの方へ進めば、間違いなく魔法で対処されかねない。俺様に惚れたとはいえ、惚れた相手を守るために警戒を強めているとすれば、トラップ回避は目に見えている。俺様を庇って…という場合もありそうだが、より確実な方を選択するに越したことはない。

「開けているのであれば、敵の動向も見やすく、対処しやすいですからね。」

完全に信じきった勇者は左の道を進む。一歩遅れるように自然な動作で俺様も続いた。流砂地帯の手前に来たところで勇者が止まる。広々とした空間を見渡す勇者だったが、敵の姿がないことを確認し、警戒心を緩めた。今だ!

「進みましょうか!」

ドンッと、勇者の背中を押すと、勇者はよろけて砂の上に両足をついた。よし!!勇者の体がみるみる砂の中に…。

「いきなり押さないで下さいよ!びっくりしました。」

困ったように笑いながら顔をこちらに向ける勇者。そのまま足を前に出して先に進み始めた。どういうことだ?何故沈まない?勇者が来る前に一つ一つ罠のチェックをさせたが、不備があったというのか?…まぁいいだろう。奥にはここよりも厳しいトラップが仕掛けられている。ここで死ねなかったことをそっちで後悔させてやる!先を歩く勇者の後を追って俺様も砂の上を歩き始め…。

「うおおおおぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!?」

し、沈む!?な、何で俺様だけ!?え、流砂が勇者と魔王を選別したのか!?いやいやないない!あったとしてもここは俺様のテリトリーな訳だから、俺様が嵌るとか有り得ない!!

「王子様!!大丈夫ですか!?」

心配して駆けつけてくれた勇者が俺様の体を懸命に引っ張り上げてくれている。ああ、お前を陥れようとしたというのに、そんなことも知らずに惚れた俺様を助けるなんて…。真実を知る俺様には、お前が女神にしか見えない。ああ、体を抱えてくれるのは嬉しいが、ふくよかな双子の山が俺様の顔を圧迫し、力が抜けて…。

 次に俺様が気が付いた時には、流砂の部屋を抜けた先の通路だった。柔らかい肉の枕が心地よい。夢見心地で目を開くと、勇者が嬉しそうに顔を覗いてきた。

「気が付きましたか?まさか流砂の罠が仕掛けられていたとは、迂闊でした。」

申し訳なさそうにこちらを見つめる勇者。そんな顔をするな。そもそも導いたのは俺様だぞ。

「お気になさらずに。それにしても何故勇者様は流砂に足を奪われなかったのでしょうか?」

全くの謎だ。勇者が知っているならば教えて欲しいものだ。

「ああ、それでしたら、近くの町で沈む床を歩けるブーツを購入して…ほら、これです。」

俺様を膝枕したまま、器用に片足のブーツを脱いで見せてくれた。こんなものが売られていたとは…。人間達の武器防具事情も探っておくべきだった…。不覚。だが、膝枕をして貰えたのだから結果オーライ?

「そろそろ行きますか?」

「あっ、まだ目覚めたばかりで頭がふらついているので、できればもう少しこのままで…。」

それからしばし勇者の膝の感触を堪能し、先に進むことにした。

 通路を進んでいくと、奥に地下に降りる階段が見えた。

「あの階段を降りれば宝物庫と祭壇があります。」

宝物庫には壁が迫ってくる罠、祭壇にはボスである古代ゴーレムが待っている。祭壇部屋の床には石化ガスを噴出する噴出孔が備わっている。一応遠まわしに話しながら装備を確認したが、毒を無効化する装備のみということなので、石化は有効らしい。まぁ、そこまで辿り着く前に、この階段手前の通路と階段の罠で勇者は終わりだが…。まずこの通路だが、一見何もないように見えて…。

「王子様は遺跡がお好きなのですか?」

急に話し掛けられてびっくりした。周囲への警戒を続けながらも勇者が笑顔で聞いてきた。その笑顔はやめろ。眩しすぎて意志が揺らぎそうだ。

「はい。幼少の頃より、古代人の文化に興味がありまして、その一環として遺跡を巡り、当時の儀式や慣習に触れると、文明の進化の謎に迫れるような気がして。」

ここで頭を掻いて照れ笑いを見せる所までが現実味を持たせるためには欠かせない。「そこで得られた知識を国の発展のために活用していくのですね。貴方様は立派な国王になられるでしょう。」

俺様の回答に満足してか、勇者の笑顔はより輝きを増した。愛らしいその表情に顔が熱くなる。いかんいかん、冷静になれ。奴は魔王の宿敵、勇者なのだぞ。首を左右に振り、雑念を払い、誤魔化すように歩調を速める。落ち着け、落ち着くんだ。こういう時は無理数を数えるといいと爺やが…ん?あれ?素数だったかな?まあいい。ひとまず動揺を悟られないように何か話を…。

「勇者様のほうは、旅に出られる前に何か…」

「危ない!!」

右足が宙を踏み込み、倒れるように穴に落ちる。そう、この通路の罠は、灼熱のマグマを底に溜め込んだ落とし穴なのだ。落ちる寸前に勇者に足を掴まれたおかげでマグマの湯に浸からずに済んだ。いや、正直触れても問題ないのだが、なんかかっこ悪いではないか。ゆっくりと勇者に引き上げられ、床の上に寝そべる。それにしても、さっきの流砂といい、可愛い顔して力持ちだな、勇者様は。

「はぁっはぁっ…わ、罠だらけですねこの遺跡…。ちゅ、注意して進みましょう。」

「すみません…。」

一息ついて落とし穴を避けて通り、階段の前まで進む。くっ、今度こそは…。

「下りましょう。私が先頭になります。」

二度の失態で幻滅されただろうか?まぁ先に進んでくれるのであればかえって好都合ではあるが。この階段の罠はずばり、トゲ地獄。特定の床を踏むとトゲが床から伸びて対象の足を貫く。両足を上手いこと負傷させ、俺様が彼女の体を担いで通るふりをして、トゲ床の上に手が滑った~で心臓貫通…完璧だ。勇者はゆっくりと階段を降りていく。よし、次の右足の足場が初めのトゲだ!踏み込め…踏み込め…。

「暗いですから足元に気をつけて…あっ!!」

振り返り、俺様に注意を促す勇者の表情が険しくなる。なんだ!?まさか俺様の正体がばれたか!?

「先に階段を降りて下さい!!急いで!!」

勇者の視線の先は階段の入り口だった。そこにはこちらを覗いていたオークが二体。あの馬鹿共!!

「さあ、早く!!」

勇者に背中を押され、階段を駆け上がる勇者と数段下る俺様。あいつら死んだな。二人がかりとはいえ、勇者のあの腕力にはここのオークも敵うまい。ははは。勇者に言われた通り、ひとます階段を降りようとして気付く。右足が動かない。あれ…?恐る恐る足元を見ると、床から伸びたトゲが足の裏から膝まで貫通していた。ようやく痛覚が脳に信号を伝えたようだ。

「っでえええええええええええええええ!!!!」

誰だって足貫かれたら痛いわ!再生能力で回復できるけれども!魔王補正でそんなにダメージないけども!

「大丈夫ですか!?」

オークを片付けて戻ってきた勇者は、俺様の悲鳴に驚いて、急いで駆け寄ってきた。あ、これもう駄目だ。

「酷い…これでは足が…。とにかく、ゆっくり、足を抜きましょう…。」

痛みに堪えながら、ゆっくりとトゲから足を抜いていき、全て抜き終わると、即座に勇者は回復魔法で足の傷を癒してくれた。

「傷だけは癒しましたが、神経や骨に損傷があると思います。ここに簡易ですが結界を張っておくので、ここで待っていてもらえますか?すぐにここの主を倒して外への道を開放します。」

俺様が楽なように体勢を整えて階段に座らせてくれて、勇者は簡易結界を俺様の周囲に施した。

「では、すぐに戻ってきますね!」

俺様の不安を拭うように笑顔を見せて、罠を紙一重で交わしながら階段を下っていった。ああ、どこまでも優しいお人だ。急に引き返して来られても困るし、後は宝物庫と祭壇部屋の罠に賭けるしかない。ここは元々精霊縁の地の一つで、その加護のせいで地下の祭壇にはテレパシーが届かないようになっている。とんだご都合主義のせいで古代ゴーレムに指示を出せないのが残念だ。あわよくば、石化した勇者をそのまま持ち帰りたいが、乱暴者の古代ゴーレムの事だ、壊してしまうに違いない…。今日はなんという厄日だ。すっかり全快した両足をじたばたさせてその場に寝そべり、しばらく時間を置くことにした。

 あれから大体30分は経過しただろうか。そろそろ勇者も死んだ頃だろう。立ち上がり、結界を壊して様子を見に行くことにした。階段を降りたところで唖然とする。

「王子様…。貴方、足…?それに結界は…?」

勇者は生きていた。戻ってきたということは、古代ゴーレムは敗れたのだろう。宝物庫には行かなかったのだろうか?

「王子様、貴方はやはり魔物だったのですね。」

やはり?勇者は俺様の正体に気付いていたのか?もはや隠す必要はない、か。

「ふん、ばれてしまっては仕方ない。そうだ!俺様は魔族を統べる闇の頂点、魔王様である!」

衣装とかそれっぽく変化させられたらかっこ良かったのだが、こうなるとは思っていなかったので用意はしてなかった。残念。

「…どの辺りで気付いた?」

「最初は出会って少し一緒に歩き始めて、モンスターが一切出なくなった時。それから回復魔法で治療していた時に、女神の加護を拒むように回復が遅かった時。…それでも確信には至りませんでしたが…。」

剣を抜き、構える勇者。やれやれ、やはり勇者殿は一筋縄ではいかぬな。俺様はゆっくりと勇者に近付き、勇者の剣を握った。聖なる力による焼けるような痛みを伴い剣を握る手から蒸気が上がるが、勇む女を落とすためには暴力を拒むところから入らなければならない。

「くっ、離しなさい!」

「では離す代わりに話し合おうではないか。勇者とはいえ、女性との戦闘は気が引ける。」

勿論嘘だ。お前でなければ今頃軽くあしらって城に帰っている。

「…いいでしょう。話し合いで解決できるのであれば、そちらを優先させたい。」

了解を得たため、剣を離すと、勇者は剣を鞘に収めた。チョロイものだ。勇者の肩を抱き寄せ、甘く囁きながら彼女を魅了しようと試みる。

「俺様だって、本当は女神や神々、人間達と仲良くしたいのさ。…勿論君とも。」

そっと彼女の顎を上げ、こちらに顔を向けさせ、潤んだ瞳で彼女を見つめながら顔を近付けていく。必勝パターン入りました。

「どうだろう?まずは君と俺様がより親密になって、そこから魔族と人間の関係を修復していくというのは…?二人で力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられると思わないかい?」

唇の距離を縮めていく。ここまでくれば落ちない女はいない。恐らく彼女の頭の中は俺様でいっぱいだろう。上手いこと連れて帰り、婚礼を挙げて…ふふふ。

「…そうやって。」

「え?」

「そうやって女神様の御心も弄び、約束を無碍にしたのはどなたですか!?」

不意にビンタをされる。あれ?落ちてない。何故!?驚きながら勇者を見ると、彼女は本気で怒っている様だった。

「女神様から聞きました!一度、貴方から話し合いを持ちかけられ、それに応じ、貴方に今のように和解を提案されたと!それに了解して貴方の城についていくと、地下の暗黒牢に閉じ込められそうになったとも!」

女神め、余計なことを吹き込みやがって…。確かに一度女神を陥れようとしたことはあるが、今回はそれとは事情が異なる。俺様は、俺様は…。

「あの時は魔族のために女神討伐に必死だった!責められても仕方ないと思う。しかし、今回は違う!俺様は、君を…。」

「だったら、行動で示して下さい!嘘偽りを捨て、本当に人間と魔族が共存できる世界のために!」

今度は勇者が両手で俺様の顔に触れ、優しく微笑みかけた。咄嗟の事に思わず顔が赤くなり身動きが取れなくなる。

「そうしていただければ、私は貴方の思いに答えられると思います。…友達から、ですけどね。」

恥ずかしそうにはにかむ彼女の様子を見ていたら、魔王とか勇者とか光とか闇とか女神とか…もうどうでもよくなってしまった。色欲、物欲、食欲…魔物は純粋に欲望に従ってなんぼだ。ええい、ままなれよ!俺は勇者を抱きしめ、己の欲望に流されることにした。

「分かった。…2,3年。その間に魔族を説得し、女神とも和解しよう。人間と魔族の共存、面白いじゃないか!」

俺様の答えを聞き、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。こちらも国王様や女神様、人間の民達に呼びかけてみます。共に頑張りましょう!」

勇者が握手を求めてきた。なんだか照れくさかったが、行動で示すと約束したばかりなので、力強くその手を握った。

 その後、遺跡の周囲の闇を払い、勇者を仲間のもとに行かせ、俺様は城に帰った。さぁて、これから忙しくなるぞ。


 勇者との約束から早5年。新しく建てられた城の一室で俺様はワインを飲んでいた。向かい側には勇者…いや、俺様の愛しい妻が我らの子供をあやしている。あの日から人間側、魔族側の双方から行動を起こしたことで、少しずつ共存の思想が広がりを見せ、2年前にようやく目標が達成された。女神との和解も済み、王城は一つに合併され、一国の長たる王は人間と魔族から一人ずつ選ばれるように体制を整えた。残念ながら、今でも共存に反発し、トラブルを起こす人間、魔族は僅かだが残っている。やむなく捕獲または処刑となる場合もあるが、彼らにも共存の素晴らしさが理解できる日が来ると信じたい。そんなわけで、彼女は約束通り、二年前に俺様と友達から関係を始めてくれた。付き合ってみると、思っていた以上に彼女との時間は温かく大切なものに感じられた。付き合って半年後に恋仲になり、その一年後に結婚。子供が産まれ、今、彼女のお腹の中には第二子が出生を待ちわびている。

 彼女の隣に座り、愛おしいわが子の頭を撫でる。彼は気持ち良さそうに瞼を下ろした。その様子に彼女と顔を見合わせて笑った。

「ありがとう、貴方のおかげで私はとても幸せです。魔王様。」

甘えるように俺様の肩にもたれかかる彼女。本当に可愛いやつめ。肩に手を回し、彼女を受け入れ、優しく抱きしめた。

「こちらこそ、ありがとう。君の隣は最高に心地いいよ、勇者様。」

 再び二人、顔を見合わせて、また大きく笑い合った。

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短編集:弱点 夕涼みに麦茶 @gomakonbu32hon

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