ハートウォーム任侠

たて こりき

組織

 糞みたいな街、糞みたいな連中、そして糞みたいな俺の人生。生きている意味などなく、先の事などなぁにんも考えちゃいない。俺には「今」が全てだった。今さえよければそれで良かった。

 俺は街の荒くれ者だった。誰にも媚びず、従わずに生きていた。盗み、喧嘩、生きていく為ならなんでもやった。物心ついたときからそんな生き方をしてきた。おかげで街の奴らの俺を見る目はまるで人を見る感じじゃなかった。そんな時はどんな相手だろうと牙を向いて歯向かった。誰もが俺に手を焼いていたもんだ。

 そんな生活も長くは続くはずもない。同じ様な街の荒くれ者とやりあって大怪我をしてしまった。

 病院に行く金もねぇ、頼る奴らもいねぇ。ましてや帰る家すらねぇ。血濡れで道端にうずくまっていた。周りの奴らは見て見ない振りさ。社会のゴミが1匹減って良かったって所だろ。糞が。糞みたいな俺の人生に相応しい最後と思った。

 そんな時1人の男が俺に近寄ってきた。

 「……怪我してるのか?」

 「……」見りゃわかるだろ。馬鹿かこのオヤジは!俺は無視を決め込んだ。

 「ふむ。返事も出来ないほど衰弱してるか。見たところ怪我も酷そうだし、お前毎日ろくな物食ってないだろ?ガリガリだぞ?そして風呂もはいってないな?はは、酷い匂いだ」

 俺はカッとなり吠えた!

 「五月蠅え!てめえにゃ関係ねぇーだろ!殺すっ……っつ…痛え…」

 「ははは。吠えるな吠えるな。傷に響くぞ。しかしそれだけ元気があれば大丈夫だ。どうだ?家にくるか?手当してやるよ」

 「なっ…なに言ってるんだてめぇ!」

 男はそう言うと俺をそっと抱き抱えて歩き始めた。

 「やめろ!馬鹿野郎!離せ!」

 「おいおい、暴れるなよ。お前重いんだから。それに、人の優しさは素直に受け取っておくものだぞ」

 その男は自分の服が血で汚れるのも構わず俺を抱き抱えて歩き続けた。

 

 それが俺とボスとの最初の出会いだった。傷の手当をしてもらい、温かい食事を施してもらい、更には何時までもここに居て良いと言ってくれた。

 嬉しくて涙が出た。こんな俺にも居場所が出来たんだと。

 しかしこんな世間の弾かれ者の俺を拾ってくれた人だ。間違いなく堅気な訳はねぇ。はっきりは言わないが相当ヤバい事もやってる筈だ。

 しかしだ!そんなのは関係ねぇ。俺は学もねぇし、金もねぇ。ただ俺は恩を仇で返す様な恥知らずじゃぁない。その恩に報いる為に一生ボスに仁義を通すと誓った。

 

 最近わかった事について少し書いておこうと思う。それは俺達の組織には絶対的な掟がある。ボスの命令は絶対だ。どんな事を差し置いてでも最優先で聞かなければならない。そう、それがどんなに理不尽であろうとも。それを聞かなかった時にはボコボコだ。俺も最初はボスに歯向かいこっぴどくやられたもんだ。

 特に身だしなみと躾にはとことん厳しい。骨の髄まで教え込まれたよ。最初は上手くやれずにボスの罵声が飛びまくっていもんだ。今では笑い話だがな。

 そしてもう一つ。ボスの商売上組織の島を荒らされちゃぁいけねぇ。それだけは御法度だ。奴らはなんの前触れもなくやって来る。最近は赤い単車が多いな。カチ込んで来やがる。そんな事があれば命(たま)の取り合いだ。ここは俺の見せ所だな。狂犬と言われた昔を思い出すぜ。ただしやり過ぎはいけねぇとボスに釘を刺される。バランスが大事なんだとさ。本当に根は優しい人だよ。まぁ、そこに俺も惚れ込んだんだからな。


 俺達の組織は大きくはない。構成員はボスを除いて5人だ。大きくないからこその結束力が俺達にはある。まさに家族と言っても差し支えないだろう。血よりも濃い絆だと俺は思っている。

 ここで上から順に紹介してやる。しっかり覚えておけ。


ボス

 俺達のボスだ。腕っ節が強く誰もかなわねぇ。ときには冷酷な命令も平気で出すおっかねぇ人だ。こっちの心を見透かす様に命令をだす。俺が生きるも死ぬも、この人次第だ。そして、相当ヤバいことをやっているみたいだ。ボスが居る部屋からは頻繁に叫び声が聞こえるし、たまに血まみれの服を処理しているのを見たこともある。やべぇやべぇ。あの優しさは狂気の裏返しって訳だな。


姐さん

 ボスの最愛の人だ。組織の誰にでも優しく、面倒見がいい。しかしやっぱりボスが見染めた人だ。怖ぇときはボスより怖ぇ。組織の中で1番怒らせたらヤバイのは姐さんだろう。


若頭

 ボスの右腕的存在だ。この人は喧嘩っ早くていけねぇ。ボスも姐さんも手を焼く事がある様だ。俺もちょっとした事でやられた事がある。髪の毛を何回も何回も引き千切られたんだ。それも笑いながら。やべぇ。ただ、ボスも組織を継ぐのはこの人だと思っている様だ。早く俺もこの人に認められねぇとな。


兄貴

 この人は俺の兄貴的存在だ。入ったばかりで右も左もわからなかった俺を根気よく教えてくれた人だ。俺が1番世話になってる人だろう。ただ、この人も十分やべぇ。何しろ若頭と本気でやりあってる時もあるんだ。ガチンコだよガチンコ。姉さんが止めねぇと何時までも終わらねぇんだ。見てるこっちがヒヤヒヤする。鉄砲玉って言葉はこの人の為にあるようなもんだ。


舎弟

 俺の後に入ってきたガキだ。涙脆く青臭さが抜けねぇ顔をしてやがる。これだから最近の若ぇ奴は…。俺がしっかり掟を教えてやらねぇとな。しかし、ボスも姐さんもこの舎弟には甘い所があっていけねぇ。いくら可愛い顔をしてるからと言ってもだ。周りに示しがつかねぇ。兄貴がまえに頻りに言っていたよ。あいつはズルい奴だと。上手くしねぇと問題の種になりかねない奴だ。







父「ポチ!おすわり!待て!まだだぞ。まだだぞー。食べたいけど我慢だ……よし!」

兄5歳「ポチは本当パパの言う事聞いて偉いねー!賢い犬だねー!」

弟3歳「ポチは賢いけど郵便のバイクは嫌いだよねー!メチャクチャ吠えるもん!あとポチはボクのいうこともきくもんねー!お兄ちゃんだけだよ。ポチがいうこときかないのー!」

兄5歳「なんだとー!お前ポチのブラッシング出来ないくせに!」

パパ「こらこら、お前たちパパ久し振りの休みなんだから喧嘩するなよ。最近パパの動物病院忙しくてそれでなくても疲れてるんだから」

弟3歳「だってお兄ちゃんが最初に叩いてきたんだよー!」

妻「ほらほら、そんな事で喧嘩しないの。あらあら!僕ちゃんポチが餌を食べてる時は尻尾つかんじゃダメよ」

赤ちゃん「だぁだぁー。ばぶぅー」


      終わり

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