第2話 鏡のあなた(旧)


――鏡中、何を探す?



*


「ドッペルさん、見ちゃった」

「は?」


空も夕闇に染まろうかと言う教会。


「ド・ッ・ペ・ル・さ・ん・見・ちゃ・っ・た」

「遅く言わなくても聞こえてるから」

「ならいいじゃなぃ」

「よくない」


相変わらずの不思議レベル。


「“こっくりさん”?」

「“ドッペルさん”」

「……ドッペルゲンガー?」

「そぅそぅ」


そんな可愛らしい呼称は、いつ出来たのか。


「見ると死ぬって言うじゃなぃ?」

「でも死んでないと?」

「ううん、そうじゃなくて。郷ちゃんのドッペルさん見ちゃった」

「……私?」


本人だったのでは、と一瞬思ってしまう。


「教会に来るまでに、見ちゃったの。郷ちゃん教会にいたでしょ?」

「うん、私じゃないね」


まあ世の中に3人は自分にそっくりな人間が居ると言うし。


「郷ちゃんが居なくて良かったなぁって思って」

「……死なれちゃ困る?」

「困る……ううん、悲しい。寂しい」


ちょっと感動。


「私も、椎名が死んだりしたらやだな」

「…………そっか」


沈黙。当然のように訪れた。


「時間だ」

「そっか」


そしてお別れ。

家に帰って、鏡を見た。


「……ドッペルゲンガー、ねぇ」


絶対に会いたくないと思った。

別に噂を真に受けてる訳じゃない。

初対面の相手に殴りかかるようなことはしたくなかった。



*



今日も今日とて教会内。


「郷ちゃん、分からないトコとかあるぅ?」

「……古典。椎名は物理?」

「いつも通りだねぇ」


お互いに教え合う。進度は違うけど、大した差はなかった。


「……椎名、ホントに私が死んだら悲しい?」

「うん」

「そっか」


椎名には珍しく、どきっぱりとした口調。

無理に不安を払拭するような、物言いだった。


「郷ちゃん、鏡って好き?」

「――え?」

「鏡、好き?」


唐突な質問。一瞬戸惑う。

……見透かされているのではないかと。


「好きじゃ、ない」

「なんで?」

「………………」


黙るしかなかった。答えなんて、どうせ一つしかない。

――そこに映る自分が、好きじゃないからだ。


「私は、郷ちゃん好きだよぉ」

「……うん」


救われて、いるのだろうか。

気持ちが軽くなったのは、間違いなかった。


「椎名」

「なぁに? 郷ちゃん」

「私、粗探しは得意なんだ」

「そうなんだぁ」

「うん」


だから、今度は苦手なことに挑戦してみようと思う。

そんな言葉を言外にこめて。




――さぁ、鏡中、何を探す?




……好きになれる、自分を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

椎名と恭子 佐嶋凌 @sashima_ryo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る