ステーショナリー

天色

第1話文具オタクの末路

 皆が「平和」と呼んでいる今の日本の社会は「理不尽」という言葉であふれている。例えばテスト前日の夜中までゲームをしていたにもかかわらず、翌日のテストではいい点を取っちゃう奴がいたり、部活の練習にはちっとも顔を見せないくせにちゃっかりレギュラー入りしてしまう奴がいたりするだろう。しかしある意味そんな才能の塊のような人がいたからこそ、人間はここまで文明を発達させてきたのかもしれないな。

 さて、俺は今その「理不尽」の真っ最中である。放課後の学校の廊下で男女が話している姿は他人から見れば「ただいま絶賛青春なう!」とかネットに書き込んでいる高校生にしか見えんだろう。しかし、実際はそんなことではない。俺の青春は多分今頃アマゾン川ぐらいを泳いでいると思うぞ。

「さあ、例のヤツを渡してちょうだい」

カツアゲの常習犯か麻薬密売人のようなことを言っている目の前の女子高校生は小学校からのお友達、「寺町羅美(てらいらみ)」だ。こいつはバレンタインデーにコンビニのレジの横置いているような100円ぐらいのチョコを俺によこしたぐらいでお返しに万年筆をよこせと言ってきたのだ。随分とモノ好きな人だ。

 羅美がせしめているのは4000円の結構初心者向けの海外製万年筆で大きいクリップや現代風のシャープなデザインが好評のものである。このシリーズは1年ごとに限定色が発売され、今年の限定色はマットな紫に黒いクリップといったカラーリングだった。

「3900円プラス税の差額はどうしてくれるんだ?」

「そこは私からの愛情が3900円ってことにしておいてよ。お金では買えない愛情を打ってあげたんだよ。」

「100円で4000円のものもらうお前に言われたくはねーよ!」

こんな小寒い会話をしつつも俺は羅美に万年筆を手渡していた。これを機に14金以上の高級万年筆にを興味を持って欲しいと心の奥で少しだけ囁いていた自分が情けなく思う。

 とても長い前置きだったが、俺の自己紹介をしようと思う。「天井田筆人(あまいだ ふでひと)」俺の祖父がつけてくれた名前だ。天井田一族は昔から筆記具やら、文房具を集めるのが大好きなようで、その影響から名前に「筆」の文字が入っている。さらに詳しく言うと「城ノ川高校」という別に放課後にいつもお茶をしている軽音部があるわけでも、宇宙人、未来人、超能力者が揃った文芸部があるわけでもない普通のド田舎高校に通っている高校2年生で、シャーペンは合計156本、ボールペンは96本、万年筆は国産が5本、外国産が3本ほど所有しているかなりの文具オタクだ。それだけではないぞ。単刀直入に言うと、俺は異能力者だ。

 学校から5分ぐらい歩いたところに小さな公園がある。少し早いが藤の花が入り口の横に咲いていてとても綺麗だ。奥のベンチには黒いオーラを出した一人の人間がいた。あれが俺の敵「病人(やまいびと)」である。一般社会で呼ばれている幽霊や妖怪なんかにとりつかれた人間のことで、俺に仕事はこの病人に取り付いているモブをたおし、社会の平和を守るという前時代的ヒーロー設定みたいなもんである。

 キャップ上部に鳥の親子が描かれた銀クリップ、黒のストライプ状の柄の入った万年筆を制服のポケットから取り出し、キャップを開けるとインクがまるで命を授かったかのようにペン先から出てきて剣の形へと変形した後固形化した。戦闘開始と言っておこう。

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ステーショナリー 天色 @graph1000

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