【双子坂&チカお泊り編】【本編最新話までのネタバレあり】「スリーピング・ディア・マイ・エンジェル ~眠れる君に口づけを~」

 新年のはじまりに、ハッピーなお話を!

 双子坂が一番好きです、という意見を先日また頂いたので、作者も一番お気に入りの、双子坂のこの話に決めました!


 チカと双子坂のお泊りエピソードです。とてつもなくほのぼの。

 腹黒鬼畜どSな双子坂がチカを甘やかしまくる、癒し系スペシャル番外編です。


 ぜひ、楽しんでいってください! そして、よいお年を!




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「今日、泊めて」

 

「…………」

 

 チカのこのセリフは、今日がはじめてではない。

 

 このはた迷惑なにゃんこ様は、時々こうして僕の自宅に、なんの前触れもなくおしかけてくる。

 


「今が何時だか、わかってる?」

 

「10時。まだ寝る時間じゃねえだろ?」

 


「……そういう問題かな?」

 

 いいから入りなよ、と僕は腕を引く形でチカを玄関へ通した。

 

 重ね重ねいうが、夜の10時である。


 見た目だけは誰もが振り返る美少女が(中身はどうにせよ)、出歩いていい時間ではないし、第一、僕はお風呂あがりで、これから自由時間を満喫(まんきつ)する予定だった。

 

――だいなしだ。

 

 この子がくると、その世話で追われて、とても遊ぶ暇などない。

 


「……腹減った。なんか食わせて」

 

 ほら来た。チカお得意の、ごはんちょうだい! 攻撃だ。

 


「残り物でよければ、冷蔵庫にあるよ」

 

「あっためて」

 


「チンするぐらい君でもできるだろ」

 

「お前にあたためてほしい」

 

 ほら、これだ。

 どうやらチカは、甘えたい気分らしく、自ら、あたためろと要求してくる。

 

 袖(そで)をくいくいとひかれ、しぶしぶレンジに煮物(にもの)をほおりこんだ。

 


「フロも貸して」

 

「シャワーにしなよ。今日はもう遅い。早く食べて、早く寝なよ」

 


 そうでないと、僕がやすらげない。

 


「――わかった」

 

 珍しく素直にうなずくと、チカは脱衣所へと入って行った。

 

 そして、靴下だけぬいだその足で、ぺたぺた、ともどってきて、

 

「お前の服借りるな」

 

 と、勝手に僕のシャツとスラックスを持ち出すと、またぺたぺたと脱衣所に入って行った。

 


 ――シャワーの音がする。

 

 すべての食材をあたため、ついでに、インスタントのスープとココアを用意したころ、僕の服をぶかぶかにして着てきたチカが、またぺたぺた、とはだしのままやってきた。

 


「……うまそう」

 


 言葉すくなに言って、立ったまま、からあげを口にほおりこむ。

 

 おとなしすぎるチカに、これは何かあったな、と思いつつ、それには触れずに「早く座りなよ」とだけ言って、イスを引いてやった。

 


「……ん」


 満腹になったのだろう、チカがうつらうつらしだした。

 


「眠いんでしょ、早く寝なよ」とゆすると、「お前が寝るまで待ってる」ときた。

 

「そういうわけにもいかないんだけどね。僕もまだやることあるし」

 

「明日にすればいいだろ」

 

 いつものワガママにも覇気(はき)がない。これは、たぶん、最悪のケースだな。

 

 僕はつとめて落ち着いて、「じゃあ僕も寝るよ。ベッドは自由に使っていいから」と言った。

 

「――お前は?」

 

「僕はソファーで寝る。いつもそうでしょ」

 

「一緒に寝ようぜ」

 


「…………」

 

 そう来たか。いや、他意(たい)はないのはわかってる。

 だが、この子は、自分がどういう容姿をしているのかを、まるで自覚していない。

 中身はすこぶるアレだが、見た目は完璧な美少女なのだ。

 


 そのうえ、おふろあがりの上気した頬。

 肩までしなだれかかる濡れた髪。

 さらに、僕の服を着ている。きっと、さぞかしいい匂いがすることだろう。

 

……まあ、僕と同じせっけんのにおいだが。

 


「……わかったよ。ただ、僕はすみに寄るから、君は真ん中から寄ってこないでね」

 

 じゃないと、さすがにどうにかなる。

 

「ん」

 

 チカはこくりとうなずくと、広いベッドの真ん中に寝そべった。

 


 このベッドで、何度女の子を抱いたかと思うと、さすがに複雑なものを感じる。

 まさかチカと、一緒に寝ることになろうとは。

 


……まあ、もちろん、何もしないが。

 


 僕は、つとめて雑念を振り払うと、浅く呼吸した。

 寝るのは得意ではないが、とりあえず、チカを安心させるため、寝なければ。

 


「……なあ」

 

 チカが、ねそべったまま話しかけてきた。

 


「――手ぇにぎって」

 

「――ああ」

 

 僕は、チカのほうを向くと、その一回りちいさな掌を包んだ。

 


「これでいい?」

 

「……ん」

 

 チカはまぶしそうに目を細めると、まぶたを閉じた。

 

 長いまつげがおり、やがて、すうすう、と規則正しい寝息が聞こえてきた。

 


 無防備なその姿に、思わず、僕も、うとうと、としだす。


 まもなく、心地よい睡魔がやってきた。

 






 翌朝、僕は、異常な体のしびれとともに目を覚ました。

 

「…………」

 

 案の定、寝ぼけたチカが僕の腹に乗っていた。すうすう、と息が鼻にかかり、なんともくすぐったい。

 やけに重いと思ったら、やっぱりだった。なんとも、予想を裏切らない。

 

 僕は溜め息をついて、とりあえず、どかそうかと身じろぎをした。

 


「ん……やだ……」

 

 何を思ったか、眉をひそめたチカが、僕をホールドしてきた。

 


「――ひとりにするな……」

 

――ああ。やっぱり、そういうことか。

 

 チカは、幼いころ、実の母親に捨てられ、その後、実の父と育ての母を、殺害されている。

 普段は明るく振る舞っているが、時々こうして甘えたり、ふりまわすような言動を繰り返すのは、そのためだ。

 


 チカは、試している。

 

 なにがOKで、どこからがダメなのか。いつか、自分から、離れていったりしないか。

 だから僕は、チカにだけ、いいかげん甘いのである。

 


 僕は、溜息をつき、その力の入っていない腕をどかすと、その額に口づけた。

 


「ひとりになんてしない。ここにいるよ。チカ。僕は君の味方だ。永遠に、君の友人だ」

 

 そう言って、そのすべらかな頬(ほお)を、やわやわと包み込んだ。

 


「んむ……」

 

 チカは、眉根(まゆね)をよせたが、やがて、頬をゆるめ、やすらかな表情で眠りはじめた。

 そのあどけない表情に、得体のしれない、あたたかい感情がこみあげる。

 


――君は。

 


「……僕の天使、かな」

 


 言ってしまってから、気恥ずかしさに頭をかかえた。柄(がら)じゃないにも、ほどがある。

 


「ん……ふたござか……」

 


「――チカ……?」

 

 聞かれてしまったかと、一瞬焦る。

 


「――ずっと、いっしょにいような……」

 


 ――はあ。僕は、溜め息をついた。

 


「君ってやつは……」

 

 だがそれは、甘い溜め息だった。

 

 僕は、みじろぎをすると、あどけない寝顔で、むにゃむにゃと頬を緩ませる、チカのほっぺたをつねった。

 


「おはよう、チカ、ごはんだよ」

 


「ん……メシ……?」

 

 チカは、うっすら目を開け、僕から体をうかせたが、すぐにへにゃりと脱力し、また僕の腹に落ちてきた。

 


「あと、ごふん……」

 


「――あのね……」

 

 すうすう、と規則正しい寝息をたてはじめたチカに、じゃっかんあきれつつ、僕はその、華奢(きゃしゃ)で軽い体をおしのけた。

 

 まだ起きそうもないチカに、朝食を作ってやるためだ。

 


 もともと、僕は朝食をとらない。

 それで不便を感じたことはないし、一杯のコーヒーがあればじゅうぶんだった。

 

 だが、チカのせいで、僕まで食べるようになった。

 チカと囲む朝食は楽しく、憂鬱(ゆううつ)な朝まで吹き飛ばす。


 普段寝覚めのいいチカは、一体どんないい夢をみているんだろうか。

 


『――ふたござか……』

 


 まんざらでもなく、高まる胸をごまかしながら、僕は、目玉焼きとウインナー、味噌汁……、チカの大好物を皿にのせ、寝室へと向かった。

 

 あの愛しきお寝坊さんを、どうやって起こしてやろうかと考えながら。

 



 ―END.―

 


 ちなみに目覚めたチカは、元気全開でおかわりをして、双子坂のおかずまで奪い取りました!

 めでたしめでたし!!(なのか?)

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ミッドナイト・ロストサマー~ The Secret Night's Summer~ Reo. @reohosino22

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