第5話接触

「それじゃあ俺は仕事行くけど……唯は?」


俺は玄関で靴を履きながら見送りに来てる唯にそう尋ねる。


あの空間の中で3時間ほど寝たのだが、特訓での疲労はすっかり取れた。


「私は気配を隠して着いていきますよ。相手にバレないように」


唯はパチンと指を鳴らす。すると唯の服装が白色のチュニックにスキニーデニムと、春らしい服装に変化する。


「似合ってるね。……あれ?唯のエネルギーが一般人並みに下がった……」


唯が服装を変えたとたん、唯の大きなエネルギーが一気に下がった。


「これは相手にエネルギーの大きさでバレないために、エネルギーを下げるんじゃなくて隠す服なんです」


輝さん特製です。と、クルッと回って全身を見せる。


「最初に渡されたのはタイトなキャットスーツ?だったんです。異次元空間に閉じ込めて早急に数着かわいい服を作らせました」


「……はは。未来の俺も唯には勝てないんじゃないか?」


もしあの空間に閉じ込められたらと思うと……恐怖だ。


「ほら、遅れちゃいますよ!急がないと!」


「あっ!そうだな、いってきます!」


時計を見ると結構ヤバい時間だ。バスに間に合わなくなる!


俺は唯に見送られながら急いで家を飛び出した。

鍵は預けたから唯がかけてくれるだろう。


「………本当に奴らは襲ってこないだろうか…」


俺はバス停までの道のりを足早に歩きながら独り言を呟く。


俺は異次元空間をでる前、唯に仕事中などに襲ってこないだろうかと聞いていた。すると唯は……。


『おそらく大丈夫です。この時代の人間ではないのであんまり人目につくことは避けると思います。過去に来たのは私たちが初めてなので、下手なことをしてどんな現象が起こるかわからないからです。過去の人を殺して、もしその人が自分が産まれるきっかけを作っていたら?自分が消え去るかもしれないですからね。来るのなら人目が少ない時、強引に拉致、影からの攻撃が考えられます。どれにしてもエネルギーで気配を感じるので対処出来るはずです』


確かにそうなんだけど……もし人目を気にするのであれば、三國総司だけじゃなく複数人連れてくるのはデメリットに感じるんだ。


それだけの人数が身を隠す所なんてないと思うし……廃ビルとかもセキュリティーがしっかりしてると思う。


一番引っかかる点は、エネルギーを使えない時代の俺を殺すのなんて簡単なはず。だからこそ仲間を引き連れて来ているのが不審に思う。


『ご乗車しますか?』


「おっと!すいません!」


いつの間にかバスが来ていたみたいだ。俺は急いで乗り込む。


俺1人で考えても無駄だ。仕事が終わったら唯と話し合おう。


俺は久しぶりに12日ではない、死ぬことを考えずに見れるバスからの景色を楽しんだ。



ーーーーーーーーーー


「おはようございます主任!」


「おはようございます」


俺がデスクに座ると、向かいのデスクの笹山さんが元気よく挨拶してくる。

いつもの光景なんだが、やはり今日は新鮮な感じだ。


「主任!昨日はありがとうございました!“2人”で ショッピングに食事楽しかったです!」


「いいけど……なんでそんなに声でかいんだ?うるさくてみんなに注目されてるじゃないか……」


笹山さんが大きな声で話すからすごく注目されてる。

しかもわざわざ2人を強調しなくたって……。


「女には色々あるんです!負けられない戦いが!」


「……?」



ーーーーーーーーーー


「楽しかったぁ!主任って服のセンスいいな~。今度デートする機会あったら早速着ちゃおう!」


笹山夏帆は輝とのショッピングなどを終えて会社に戻ってきた。


5時以降に残って仕事をすることを条件に、昼間は時間を貰っていたのだ。


「部長!!鷹山主任は大丈夫だったんですか!?」


「……?なんか騒いでるけどどうしたのかな?」


笹山らの部署の扉を開けようとすると、中からそんな声が聞こえてくる。


「お、落ち着いて!鷹山は大丈夫だから!昼からは笹山もついてるし……」


「そ・こ・が!問題なんです!なんで笹山さんが付き添いをしてるんですか!?」


「そーですよ!私たちだって心配なんですけど!?」


少し扉を開けて覗いてみると、部長が女性社員数名に問いつめられているようだ。


後輩もいれば同僚も……アラサー既婚者の平野さんまで!?


「夏帆!ちょっとちょっと!」


後ろから女性社員に引っ張られる。

笹山夏帆の同僚で友人の木梨麗奈(きなしれいな)だ。


「今は入らない方がいいよ……部長が今帰って来るなりすごい剣幕で詰め寄ってて……全員鷹山主任狙いの人たちみたい」


「そうなの!?平野さん既婚者じゃん!」


「そうなんだけどね。だから今入ったら全員の詰めかけてくるよ?てか今日をしのいでも明日から大丈夫かな……?」


木梨麗奈は心配そうな表情をしている。


「……心配してくれてありがと。でも私は大丈夫だよ?むしろまとめてかかってきてくれた方が手間が一回で済んでいいかな」


「えっ?」


笹山夏帆はそう言うと扉を少し音が響くように強く開ける。


「部長戻りました!主任は最初は元気なかったですけど、“私といるのが”楽しくて気分転換できたと喜んでくれました!時間をいただきありがとうございました!」


部長に詰め寄っていた女性社員が睨んでいたが、意に介することなく部長に報告をする。


「お前こんな時に「ちょっと笹山さん!なぜあなたが鷹山主任の付き添いをしているのよ!」……はぁ…」


部長の言葉を遮り、代表なのかアラサー既婚者の平野さんがまくし立ててくる。

部長はため息を吐いている。


「私のストーカーが原因の事件だからですよ?私が自ら謝りに行くのが当然でしょう?」


「だからってお昼や買い物まで………」


「誘ってくれたのは鷹山主任ですよ?(嘘)君といると辛いことも忘れられるって(嘘)それにストーカー男が勘違いするくらいですからね……やっぱりあの時のあれが恋人にしか見えなかったんでしょうかね……(嘘)」


笹山夏帆の言葉に怒りを抑えたようにわなわなと震えている。


「でもどうして平野さんは怒ってるんですか?仕事内容違うし業務で迷惑かけてないですよね?……え?もしかして鷹山主任が好きとか…?あんなにいい旦那さんがいるのに?てか会社的にNGですよね不倫って……」


「別に狙ってないわよ!変なこと言わないでくれる!?」


「あ!そうなんですか、すみません。でもよかった~勘違いで。平野さん相手だとかなわなそうですし。私にも希望ありますね!私頑張りますね!」


「………うぅ…」


平野は笹山の勢いに圧され何も言えなくなる。

肩を落としながらオフィスを出て行った。


「「「……………」」」


「皆さん勤務時間は終わってますよ?残業ですか?」


笹山の言葉でお疲れさまですと言ってそそくさと出て行く後輩と少し恨めしそうに見る同僚。


「……夏帆、あんたあの中に堂々と向かっていけるなんてすごいね……」


「俺でもビビったぞ……」


木梨と部長は感心半分呆れ半分でそう言う。


「あんなのかわいいもんですよ。今日で競争率高いことを知りましたからね。明日からガンガン攻めて絶対鷹山主任を振り向かせてみせる!!」


「「……はは…」」



ーーーーーーーーーー


「鷹山主任!私は負けませんからね!応援お願いします!」


「あ、ああ……何と戦ってるのかわからないが応援するよ」


「主任の言葉、心強いです!」


そう言って鼻歌を歌いながら自分のデスクへと戻る。なんなんだ一体……。


他の社員の視線が気になるな……。

そして俺は意外にも鈍感じゃないから気づいてしまった。


全員俺と笹山さんがなにかあるんじゃないかと勘違いしている。


やめてくれ。そんな勘違いされたらきっと笹山さんが迷惑だろう。挙げ句には避けられることにもなりかねない。


たまに騒がしい時もあるけど…避けられたら避けられたで寂しい気もする。

勘違いの浅い今、鈍感な笹山さんに皆が勘違いするような言動は止めてもらわないと。


「鷹山主任!ちょっといいか?」


「あ、はい!」


まあ…いずれ言えばいいか。

昨日の仕事も溜まってるし今は業務に集中しよう。



ーーーーーーーーーー


「お昼だ~!お腹すいたー!」


笹山さんが伸びをしながらそう言う。

仕事に集中していたら、いつの間にか正午を過ぎていた。


「夏帆ー!もうお昼行ける?」


笹山さんの友人の木梨さんがそう言って笹山さんの元へ来る。


木梨さんは黒髪のショートヘアーで、スポーティーな感じの女性だ。実際何らかのスポーツで全国優勝したこともあるとか聞いたことがある。


「行けるよ!ちょっと気になる店見つけたんだ!」


昨日買い物してる時話をして知ったんだが、笹山さんは結構グルメだ。休日も気になる店や噂の店をまわったりしてるらしい。


「主任も如何ですか?夏帆の目利きって結構凄いんですよ!」


「えっ?」


急に声をかけられたからビックリした。業務も違うしあまり会話をしたことがない木梨さんに誘われるとは思っていなかった。


「ちょっと麗奈……いいの?麗奈気を使わない?」


「全然…あんなに本気な夏帆を見たの初めてだし、私も応援したくて……」


「れ、麗奈~」


なにかボソボソと2人で喋っている。ホントは邪魔なんじゃないか?


「あ~…せっかく誘ってもらったけど、今日は遠慮しとくよ」


「「えっ!?」」


2人は驚愕の表情でこちらを見る。そんなに驚くことなのか?


「主任行かないんですか?麗しき女性2人から誘われてるんですよ?」


「夏帆!その言い方恥ずかしいから止めて!」


うるうるした目でそう言ってくる笹山さん。

なんだか少し罪悪感……。


「ちょっと遠いところから来てくれてる客がいてね。こっちには知人がいないから、ひとりじゃ不便だからお昼くらいはね」


「そうなんですか。……他の女性社員じゃなくてよかった」


「ん?なんて?」


「な、なんでもないです!それじゃ!」


そう言って木梨さんの手を引いて走っていってしまった。


……まあ、またどこかで埋め合わせをさせてもらおう。

俺も唯を探しに外に出た。


「……どうやって探すかな」


外に出たはいいが……唯のエネルギーを探せない。

エネルギーを制御してなければある程度近くにいたらわかるのにな……。


「……よかったのですか?」


「うわっ!!……唯、ビックリするから後ろから話しかけないでよ」


探す手間が省けた。唯の方から来てくれた。

でも急に声をかけられたからビックリした。


「すいません。……笹山さん達が残念そうに会社から出てきましたよ。私は1人でも大丈夫ですよ?」


「そんなわけにもいかないよ。それに少し唯と話したいこともあるからね」


「そうですか、わかりました。実は少し気になった店を近くで見つけまして!行きたい気持ちもあったんです!」


そう言って唯ははしゃぎだし、腕を引っ張る。

な、なんだか笹山さんに似てるな……。


俺は少しデジャヴを感じながらも、引っ張られながら歩く。


「ここです!遠目から見てもオシャレだなって思って!」


「……ここは…」


唯に連れられて来た店、それは昨日笹山さんに連れてこられた店だった。

名前は『リユニオン』


「どうかしましたか?」


「あ、いや……ここは昨日と、そのひとつ死ぬ前の時笹山さんに連れてきてもらった所なんだ。笹山さんの大のお気に入りらしい」


俺がそう話すと、唯は少しだけ悲しげな表情になる。


「………それで輝さんはここにずっと……」


「えっ?何か言った?」


「いえ!なんでもありません!さっそく中に入りましょう!」


そう言って唯は先に中に入る。俺もその後に続く。


「いらっしゃいませ……あれ、あなたは昨日の……」


「え、ああ。こんにちは。覚えていてくれたんですか?今日も食べにきました」


俺が入るなり、覚えていたのかここの店長が話しかけてきた。見た目は俺と同じくらいの年齢に見える、身長が高く短髪の爽やかな人だ。


「ありがとうございます。覚えていますよ。えっと今日は……」


そう言ってちらちらと唯の方を見る。


「こんにちは。“兄”が以前ここに来たことがあるんですか?私たまたまここを見つけて外観に一目惚れしちゃって!」


「あ、兄…この方はお兄さんでしたか。いや……それはそうと、お褒めいただいてありがとうございます」


唯は俺のことを兄と設定したみたいだ。でもなぜわざわざ兄妹に?


「………この方、私か笹山さんどっちが彼女なのだろうって思ったみたいですよ。彼女の設定の方がよかったですかね?」


「なっ!?何言ってるんだよ!からかわないでくれ!」


そう言うも彼女はクスクスと笑っている。


「お兄ちゃん、早く席について注文しようよ!彼女と来たときは何を食べたの?」


「あっ、やはり昨日の方が彼女さんでしたか。いや~お似合いでしたもんね。同年代ですよね?あんなにかわいい彼女、羨ましいです!」


「笹山さんは彼女じゃありません!唯、からかわないでくれ!」


唯は相変わらずクスクス笑っている。店長の方は違ったんですか!?と言って少しあたふたしている。


俺はため息をひとつつき、諦めたように席に着いた。


「店長、タンシチューセットを……」


「私もそれで」


「かしこまりました」


注文を受け、店長は奥へと入っていった。


「唯、ちょっと三國総司のことで疑問に思ったことがあるんだけど……」


「是非聞かせてください。輝さんは鋭い着眼点をお持ちの方なので」


俺自身そうは思わないが……未来ではそうなってるのか?

俺は朝疑問に思ったことを唯に話した。


「………確かに言われたらそうなんですよね。それは未来の輝さんも一度ボヤいてました。でもそれから何も言わなかったので気にとめませんでしたが…」


唯は、ん~と唸りながら考え出す。


「……三國総司らはもしかして、未来の俺や唯達が知り得ないことを何か知っているんじゃないか?それを知ってるから、もしくは知っているからこそ仲間を連れてこないといけなかった…とか。じゃなきゃわざわざリスクを負ってまでそうする理由がない」


「そうですね……それじゃあ聞いてみましょうか」


「聞いてみる?どうやって?こちらから接触するのか?」


「感じませんか?大きなエネルギーがひとつ…まだ遠いですが向かってきます」


そう言われ俺は周りのエネルギーに集中する。

………確かに。感じにくいが、こちら…唯は隠してるから俺のエネルギーを探りながら近づいているのか、ゆっくり向かっている。


まだかなり遠い気がするが…唯はよくわかるな。俺もいずれそうなれるのだろうか?


「タンシチューセットおまたせしました。……どうかなさいましたか?」


「あ、いえ……」


「おいしそー!店長いただきます!」


俺は近づいてくる敵に不安の色を隠せなかったが、唯は気にした様子も見せず、食べ始めた。


ごゆっくりどうぞ。と軽く一礼して店長は奥へと入っていった。


「輝さん。相手はまだ遠いですし、あまりこちらからエネルギーを探ると気づかれたと感づかれてしまいます。今は自然体でいて相手に油断させときましょう」


「ああ…ちょっと不安だけど……」


俺もタンシチューを食べ始める。


「………相手は三國総司かな?」


「いえ、違います。三國総司であればこちらがエネルギーを探ったのをすでに感づかれているはずです。でも相手にそれは見られない。多分配下の1人でしょう」


そうか……。それは安心、と言っていいかわからないが、唯がこれだけ落ち着いているのだから、多分慌てる相手ではないのかもしれない。


「………ふぅ、おいしかった。……昔から変わらずなんですね」


「ん?なにか言った?」


「いえ、なにも」


さて。と言って唯が立ち上がる。


「街はずれとはいえここら辺は人通りが多いです。まだ距離のあるうちに相手を人気のない所へ誘き出しましょう」


「そんな所この辺りにあるのか?それより俺は仕事が……」


「先ほど人気のない海沿いの空き地を見つけました。仕事は……命とどっちが大事ですか?」


「………取引先に捕まって、しばらく帰れないと電話します」


俺は電話と会計を足早にすませ、店を出て唯の道案内で進んでいく。


店をでる前、店長にまた彼女さんとも是非。と言われたから、彼女の部分だけは否定しておいた。


「……唯、相手の近づくスピード速くなってないか?」


「ん~…どうやら誘き出しているのを気づかれたようですね。もしくは逃げられていると思っているのか。こちらもスピード上げましょう」


そう言って唯はパチッと指を鳴らす。

すると着ていた服が動きやすそうなランニングウェアに変わる。それと同時に唯のエネルギーが再び大きくなる。空間って便利だな。


唯はもう一度パチッと指を鳴らす。すると今度は男物のデニムとシャツが現れる。


「これは普通の服ではなく未来の技術を駆使した伸縮性と耐久性抜群のかなり運動性能の高い服です。さすがにスーツのままじゃ戦えないですよね?」


「あ、ありがとう。全然スーツのことは考えてなかった。」


俺は唯に礼を言って、陰に隠れて出してくれた服に着替える。かなり軽く、動きをまったく邪魔していない。すごい服だ。


「さて、このままのペースだと着く前に追いつかれます。進化して走りますよ」


「わかった」


俺は自身を進化させる。そして今朝練習したように溢れ出るエネルギーを漏らさぬようコントロールする。


「………またエネルギーが大きくなりましたね。私と同等かそれ以上ありますね」


「……寝たら大きくなるのかな?」


エネルギーが大きくなったのはどちらも寝た後だ。


「そんなわけありません!……て、今は考えてる場合ではありませんでした。行きますよ!」


そう言って唯が走り出す。俺も遅れぬよう走る。……が。


「ッッ!?」


ズガアァァアーーーーー


俺は盛大に転んでしまった。転んだと言うより車にぶっ飛ばされたような倒れ方だが。


「だ、大丈夫ですか!?」


「いてて……。自分のスピードがあまりに速くて感覚が……大丈夫だよ。急ごう」


俺はそう言って立ち上がり、再び走り出した唯を追って走り出す。


今度はなんとかうまく走れてる。でも速すぎる……これは世界一の選手が亀どころじゃないぞ。スポーツカーと蟻の競争だ。


距離は10キロ以上はあったはずだが、ものの数十秒で着いてしまった。


「ここなら人はほぼこないはずです」


唯にそう言われ周りを見渡す。


海沿いの工業団地の端っこの空き地。もう使われていない大きな倉庫の陰に隠れていて、確かにここなら誰もこなそうだ。


「相手は……まだ遠いですね」


「……でも今、急にさっきよりも速くなったんじゃないか!?」


「能力を使いましたね。……おそらくですが、相手がわかりました。……きましたよ!」


唯の視線の先に俺も目を向ける。かなり高速で建物の上を飛び移りながら近づいてくる人影が見える。


「ハアアァァァッッ!!!」


その人影は俺たちの真上で叫びながら降りてくる。

俺たちはそれを後ろに飛んで避ける。



ズドオォォオーーーー


相手が地面に降りた瞬間、周囲に地割れが起きる。


「……轟剛(とどろきごう)……」


「やはり追跡者はお前だったかクソ女!!!!」


相手…轟剛は唯を睨みながらそう叫ぶ。

唯が轟剛と呼ぶ男は、かなり体格が良く、筋肉質で身長も2メートル近くあるんさじゃないかと思うくらいデカい。


「これはこれは過去の輝さん、初めまして。会えて光栄です…が、死んでもらいますよ!!!」


「ッ!?腕が!?」


男の腕がどんどん太く黒くなっていく。そしてゴリラの腕のような、それよりも倍は太い腕に変わる。


「うらああぁぁぁッッ!!!」


その腕を振りかぶり、俺に向けて思いっきり振り下ろされる。



パチッーーーーー


ギィィイインーーーー


「私を忘れてもらったら困るな……輝さんに手出しはさせないぞ!!」


寸前まできていた相手の腕は、俺の目の前に現れた白い鎧を纏う唯の2本の剣によって止められる。


白い鎧は、指を鳴らす音が聞こえたから能力で変えたのだろう。


「くあぁぁ!!いっっつもことあるごとに俺の邪魔をしやがって!!」


「お前の目的がいつも私の美学に反するからだ。今回も敵同士だな」


そう言って唯は剣で止めていた腕をはじく。


「お前が一度でも私に勝てた事があったか?かつてはいがみ合いながらも仲間だったが、今は敵だ。私は容赦なくお前を殺すぞ?」


「はっ!?お前が俺を殺す!?すぐに後悔させてやるよ!!」


そして再び2人の拳と剣がぶつかり合う。

それを見ながら、俺の頭の中は唯の言葉がぐるぐるとまわっていた。


………殺す?唯は殺すって言ったか?

いくら敵だからといっても……相手だって人間だ。殺すなんて……未来では普通なのか?


「オラオラオラオラアァァアア!!動きが鈍いんじゃないのか女騎士さんよぉ!!」


「ふん……口だけじゃないらしいな。試合の時とは大違いじゃないか」


状況は轟剛がおしているように見える。でも唯はすべての攻撃をしっかり避けるかいなしている。負けてはいない。


「ハアァァアア!!!」


轟剛は攻撃を止めることなく足にエネルギーを集める。どんどんと太くなっていき色も緑のような色で長い爪が生えてきた。


「ふっ!!……ッッガアァァア!!!」


轟剛は一度後ろに下がり、力を溜め膨張したその脚を横一線に振り抜く。


「ッ!?輝さん飛んで!!」


「えっ?…うわっ!衝撃波!?」


俺は唯の声でとっさに上に飛ぶ。

そして俺たちが飛んだ後、海沿いに立つフェンスが根こそぎなぎ倒される。


「唯、あいつの能力って……」


「お気づきでしょうが、獣人化。でもここまで強くはなかったのですが……実力

を隠すような性格ではありませんし」


「なぁにコソコソ話してるんだあぁぁ!?」


落下中の俺たちを追撃するように再び衝撃波を放ってくる。


「しまった!!空中だと輝さんまで守れない!」


「唯!俺は大丈夫だ!自分の身を守れ!」


俺は全身に纏うエネルギーを足のみに集中する。


「輝さん!…くッ!」


唯は自分の鎧を、今度は鋼色の重厚そうな鎧に変える。

見た目通りかなり重いのか、唯は勢いよく落ちていき衝撃波を避けた。


俺は唯の無事を見届けた後、ほとんどのエネルギーを集中した足に進化の能力を使う。


「ハッッ!!」


進化したその足で、俺は空中を思いっきり蹴る。その反動で俺の体はさらに上空へと上がる。

なんとか上手くいったか。


「何度でも狙ってやらあぁぁ!!」


「させるか!!」


轟剛が再度溜めに入ったのを見て、唯が再び白い鎧に変換し、止めに入る。


「唯!近づくな!!」


轟剛に向かう唯を阻止する。

俺は隙を見て練習の時の倍、2メートル級のエネルギー弾を手に溜めていた。


「何!?なんだそれは!?」


「エネルギー連弾をくらえ!!」


そして俺はそのエネルギー弾から小さなエネルギー弾をいくつも分裂させ、轟剛に放つ。



ズガガガガガガガガーーーー


全てが轟剛にヒットし、その巨大な身体を隠すほどの雨のような量で降り注ぐ。


「……これはもう…」


唯はその光景を呆然と見つめながらそう呟く。 


すでにエネルギー連弾を放ち始めてから数分が経過している。

しかし本体の方は半分弱ほどしか減っていない。


正直唯みたいに素早い相手ならば自分に当たりそうな数発だけを防ぎながら避けることが出来るだろう。


だけど相手はただでさえ巨体なうえに、手足を獣人化していてさらに巨体になっている。ほぼ全てのエネルギー弾が直撃している状態だ。


「そろそろいいかもな…これ以上は死にそうだし」


俺は攻撃を止め、地面に着地する。

なんだか…ホントにアニメの世界にいるみたいだな。こうして戦ってる自分が不思議だ。


相手の様子は砂埃でまだ見えない。が、アクションがないとゆうことは倒れているのかもしれない。


唯が相手の様子を伺いながらこちらに歩いてくる。

その顔には少しばかり怒気が含まれているのは気のせいか…?


「輝さん。……輝さんは優しい方ですが、正直これは生きるか死ぬかの戦いです。相手を生かしつつ、輝さん抹殺の計画を止めさせるのは無理があります。相手を殺せない…そうやって攻撃の手を緩めればその瞬間に輝さんの命は無くなるかもしれませんよ?」


「………確かにそうなんだけど…」


今まで殺人は罪、そんな社会で生きてきたんだ。それで急に人を殺せと言われても……躊躇いが出てしまう。


「輝さんの思いは十分わかります。私だって正式に未来の輝さんの横で働き始めてからも、一時は命の奪い合いには躊躇いがありました」


………いや、ちょっと待て。


「それって未来の俺は人殺しをしてるのか?世界のために力を使っているんじゃなかったのか?」


「ああ、語弊がありましたね。一般人を殺したりはしてませんよ?要はこいつらみたいな奴らをです」


「裏切り者をってことか?」


「もちろん、家族や身体の損傷、限界などの事情で組織から抜ける者はいますよ?その力を悪用しない制約付きで。私たちが制裁をしているのは、その力で罪を犯し、国の法律で組織からの制裁判決を下された者だけです」


そうなんだ…少し安心した。しかし未来にはそんな法律も出来ているんだな。


「こいつらが過去に行ったときは、私たちも人数をかけて生け捕りにして未来に送り返す予定でした。でも…法が下されました。こいつらは過去に行く前に大量虐殺をして行ったようなんです……組織が支援していた孤児院や養護施設、ボランティア団体を半数ほど潰されました……」


「なッ!?なんてヒドいことをッ…!!」


「輝さんは悲しみました………しかしその内側で見たことないほどの怒りを潜めていました。泣いているのに少し笑いながら……そして身体の心(しん)まで響くような低い声で一言、『殺せ』……と」


………いくら未来とはいえ、俺自身だ。その感情、その思い……嫌になるほどわかってしまう。


「………しぶといな」


「えっ?」


唯がだんだんとおさまってきた砂埃に向かい、そう呟く。

俺も砂埃の方に視線を向ける。


「ガッ…ハァハァ…ぅぐ……」


よろよろと、虫の息状態で轟剛は砂埃から出てきた。

全身の至る所に痣が出来ており、頭や口からは血を流している。


「ありえ、ない…ハァ…総司さんは……現代の鷹山輝は脅威ではないと…ハァ…言っていッた…のに……」


「フンっ…輝さんを甘く見過ぎたな。未来ほどではないにしろ現代の輝さんもお前らなど足元にも及ばん!」


それはないと思うんだけど……まだしっかり力の使い方わからないし。


「ぐッ…ク…ソッ……」


そう呟き、轟剛は前のめりに倒れる。


「輝さん。先ほど油断せず殺さなきゃいけないと言いましたが、今回ばかりは生かしててもらってよかったです。私らが知り得ないことについて尋問しましょう」


「じ、尋問………」


唯の迫力からして……すっごく見たくないものを見せられそうだ……。


唯は轟剛に近づきながら指を鳴らす。

すると唯の服装が、上から下まで真っ赤なキャットスーツに変わる。キャットスーツいいんだ……。


そしてその腰には……黒光りする鞭とサバイバルナイフ……。

この場から逃げたい……。


「轟剛。お前らが三國総司と過去の輝さん暗殺に来たのはなんでだ?お前ら下の者にになにか利益があるのか?」


「死ッね…メスブタ……!」


唯は腰の鞭を取り、轟剛に振り下ろす。



バリリリリリリリーーーー


「うぎゃあああぁぁ!!!」


「ええぇぇええ!?」


鞭が身体に振り下ろされた瞬間、目で見てわかるほどの電流が轟剛に流れる。

完全な拷問道具だよこれ……。


「私が質問したこと以外の答えはいらない。もう一度言う。お前ら下の者は何をメリットにここに来た?多勢で来ると行動しにくいこの現代ではデメリットが多い気がするが?」


「ふッぐぅ……はっ、お前らは何も…ッ…知らないからな!無知な奴らめッ…!」


「やはり何か裏があるのか。ではお前らが知っていることを教えてもらおうか?」


唯は轟剛の顔の前で鞭をゆらゆらと揺らしている。


「クッ……鷹山輝ッの…暗殺で来たと…思っているだろうがッ……俺らにとってそれはどうでもいいんだよ!」


「何?どうゆう意味だ?」


「ハッ!言うと思うかッ!?バカなお前らでは一生理解できないことだッ!」


「黙れクズ」


唯はサバイバルナイフを上に投げる。

するとナイフは4つに分裂し、轟剛の両手の甲、そして両足に深く突き刺さる。


「ぐあぁぁッッ!!ガアアァァァ……」


轟剛は抜こうともがくが、そのたびにナイフは深く突き刺さっていく。


「唯……悪い。やっぱりこんな光景は慣れないから見てられない……」


「仕方ないと思います。先に仕事に戻られますか?」


いや…この後も知らないところで拷問を続けられると思うと、仕事に集中できない気がする……。


「うぐッ……ハッ…ハハッ!輝さんはやはり優しいですなぁ!!反吐がでますよぉ!!」


轟剛は血反吐を吐きながら俺をあざ笑うかのような顔でそう言う。


「そんな輝さんがだぁいッキライな私らからのプレゼントは気に入りましたかぁ?過去のあんたはわからねぇか!見せたかったよぉ!あの泣き叫びながら逃げ回り、殺されていく老人や子供のすがビシューーーッッッガアアァァァ!!!」


全てを言い終える前に、轟剛の肩に穴があき、貫通する。


「えっ?……あ、輝さん?今何を…?」


唯も何が起こったのかわからなかったのだろう。俺と轟剛を交互に見ながら戸惑っている。


俺は…耐えられなかった。確かに俺は孤児院や養護施設、ボランティア団体などの事は、未来のことだから知らない。でも…怒りが溢れ出てくる。


俺は轟剛に人差し指を向ける。そしてその指先に圧縮した小さなエネルギー弾を作る。


「なっ…なんだよそれは……!」


「怖いか?お前ほどの強靭な身体を貫通するエネルギーだ。これをレーザーのようにして放つんだ。避けれる速さではないぞ?次はどこを狙ってほしい?」



ビシューーーーー


「ウガアアァァァッッッ!!」


轟剛に答えさせる間も与えず、俺は腰の辺りを打ち抜く。


「……なぜ、なんの罪もない人たちを狙った?今のお前みたいに、苦しみ、恐怖していなかったか?」


俺は再びエネルギーを溜める。


「ぐぅ……ハッ…言った…だろう!てめぇへのプレゼントだよッッ!悲しみに歪む顔を想像しながら殺ったッッ!」



ビシューーーーー


「それは違うな」



ビシュビシュビシュビシュビシュビシュビシュビシューーーーー


「ギャアアアァァァァ!!!!」


「お前らは怖かったんだ。この俺が。だから裏で動いた。そして逃げた。怖い怖い、虫けらのような弱者の僕たちじゃ手の届かない所でブルブル震えてチビってることしかできないよぉ……てな」


「だまれええぇぇぇ!!!俺たちは弱者でも虫けらでもねぇ!!虫けらはあの能力すら使えない無能どもだあぁぁ!!」



ビィィィィィーーーーー


「ウガアアァァァ!!あっ足があぁぁぁぁぁ!!


俺はレーザーを放ちながら横に一線し、両足を切断する。


「理解できてないな?虫けらだよお前らは。いや、虫にも失礼だったかな…。こんなにも簡単に死にそうだ。ちょっと前までは“マザーの子供”だったのになぁ……」


「えっ…?そのセリフ…未来の輝さん…?」


唯が何かを言っていたが、今の俺の耳には届かなかった。


「あ…が…た、助けて……助けてください……罪は償います……またあなたの下で…仲間にしてください……」


「……………」


「お前は何を言っている!?輝さんや私たちを裏切り、多くの人を殺しておいて命乞いか!?」


唯は再び鎧に変換する。そしてその剣の先を轟剛に向けながらそう叫ぶ。


「やは…り…輝さんに、マザーに…逆らっちゃ…いけなかったと気づいたんだ……お願…いします……」


涙を流しながら必死に頭を下げてくる。動けるのは頭しかないのだが。


俺は少し間をおき、溜めていたエネルギーを戻す。


「あ、輝さん!!何を考えているんですか!?」


俺を必死に説得する唯を通り過ぎ、轟剛の前へと立つ。


「あ、あありがとうございます…!ありがッッッガアーーーーーーッッ!!!!!」


俺は…安堵の表情の轟剛の口にレーザーを打った。

喉も貫通したから叫びたくても声が出ないようだ。


「今更仲間になんてなれると思うか?呆れるよ」


俺は轟剛の貫通した口に向け進化の能力を使う。

すると穴は徐々に塞がり、元の状態へと戻った。


「言え。俺の暗殺が目的じゃないのならこの世界に何しにきた?お前らの知る秘密とはなんだ?」


「い、言います!言いますよ!だから助けて!」


「さっさと話せ」


「じ、実は……未来と過去の時間軸は……」


「ッ!?輝さん!危ない!!」



ゴオオオォォォォーーーーー


俺は唯に掴まれ後ろへと引っ張られた。

そして轟剛は…真っ赤な炎により一瞬で灰になった。


「あ、ありがとう唯」


俺は一体……今の今まで軽く記憶が無い部分があるんだが……。


「いえ…。輝さん、黒幕の登場みたいです」


唯の視線は上空へと向けられている。

俺もつられて上空に視線を向けた。


「惜しかったですね……気づかれないうちに事をすませようかと思ったのですが、さすが唯さん」


「………三國総司…!」


そこには、こちらに向かいパチパチと拍手をするスーツ姿の男と、その周りを囲む5人の男女の姿があった。


「初めまして過去の輝さん。私が三國総司です。以後よろしく」


そう言って頭を下げた男。

オールバックの黒髪にメガネをかけている。一見優しそうな顔つきをしている。


「……なぜ仲間を殺した?」


「なぜ?わかりませんか?裏切ったからですよ。簡単に寝返る奴など仲間にいりません。殺されて当然」


そんな言葉を、誰が見ても優しい微笑みにしか見えない表情で口にする。


「俺を殺しに来たのか?簡単には殺されないぞ?」


俺は手に圧縮したエネルギー弾を作る。


「怖い怖い。止めてくださいよ、そんな物騒な物はしまってください。別に殺り合うために来たわけではありません」


「輝さん、信用しないでください。こいつは簡単に人を騙します」


そう言って唯も俺の横に来て構える。


「こいつとは酷い。かつての上司で“恋人”ではないですか」


「えっ!?そうなの!?」


「…………その話を口にするなと…」


唯から大量のエネルギーが溢れ出る。


「言っただろうがッッ!!」


唯は一瞬で相手の目の前まで近づく。

殆ど影でしか見えなかった……すごい。



ギイィィィィィンーーーーー


「……三國様に近づくな女狐」


唯から振り下ろされた剣は、三國総司の隣にいた女性に止められた。

剣2本の唯の斬撃を、女性は太刀1本で止めていた。


「くっ…影村皐月(かげむらさつき)、お前もそちら側だったか……」


「当然……私は組織に入る前も後も、三國様にしか従っていない……」


唯は一旦剣を引き、こちらに戻ってくる。


「予想はしていましたが、厄介な奴が敵についてしまいました…。あと、あいつとは恋人にはなっていませんから」


「あ、ああ。そうなのか、わかった」


唯の気迫がすごい……。よほど触れられたくない話題なのか…?


「殺り合いに来たわけじゃないと言っているじゃないですか。今あなたたちを殺すのは簡単ですが、これからのシナリオにスパイスがないのもつまらないですからね」


「シナリオ?なんだそれは?」


俺がそう言うと、三國総司は声を押し殺すように笑う。


「真実を聞いたときのあなたたちの表情を見たい気もしますが、プロローグすら始まっていません。その後でも遅くはないでしょう。ちなみに轟は勝手に先走っただけですからなんの意図もありませんよ」


「なにがプロローグだ!吐き気がするようなキザなセリフはいらん!今ここで全て話せ!」



ドォンドォンドォンドォンーーーーー


唯は剣だけを変換し、ライフルを2丁出した。

そして三國総司らに向け数発射撃する。


エネルギーをライフルに流し込むことで、エネルギー弾として連続で撃てるみたいだ。


全ての弾は吸い込まれるように、一点集中で三國総司に向かっていく。


「………………」


しかし三國総司の前に、隣にいたハットを被った男が立ちはだかる。



シュウウウウウゥーーーー


その男が手を前にかざす。すると、手の前に真っ白な球体が現れ、エネルギー弾はすべてそれに吸い込まれてしまった。


「しまった!二階堂が連れて行かれたのを忘れていた!輝さん!私の後ろに!」


唯はライフルを、体が全て隠れてしまうような巨大な盾に変える。


「……………」



トゴオオオオォォォーーーー


二階堂とゆう男の白い球体が数回光った瞬間、巨大なエネルギー弾が放たれる。


「なっ!?吸い込んだ量と放出する量が違う!?そんな事は今まで……くっ!防ぎきれるか…!?」


「唯!任せてくれ!」


俺は唯の横に立ち、溜めてあった圧縮したエネルギー弾を再び膨張させる。


その大きさは、相手のエネルギー弾よりも少し上回っている。


「ハアッ!!」


「輝さん!ダメです!!」


唯が止めた時には遅かった。俺はそのエネルギー弾を相手に向かい、放ってしまう。



ズオオォォォォオオオーーーー


俺のエネルギー弾は、相手のエネルギー弾を飲み込み、勢いを保ったまま相手へと向かっていく。


「…………」


再び二階堂は手をかざし白い球体を作る。



シュウウウウウウウウゥゥーーーー


「寸前で止まった!?」


「輝さん!二階堂の能力は“吸収”です!自分の潜在エネルギーよりも大幅に大きくなければ大抵のエネルギーは吸収し、放出することができます!」


「えっ!?それじゃあこのエネルギーも吸収されるのか!?」


確かに吸収されてはいるが、先ほどよりも速度が遅い。


「どうやら楽に吸収しきれないようですね!」


「今が限界ってことか!?それじゃあ……」



ギュオオオォォォーーーー


俺は再び同じサイズのエネルギー弾を作る。


「輝さん、まだそんなエネルギーが!?」


「ちょっと身体が重くなってきてるけど……ここで負けるわけにもいかない!ハアッ!!」



ズオオォォォォオオオーーーー


俺は後押しするように、吸収されているエネルギー弾に向かい放つ。


「予想外ですよ……何故能力を覚えたての輝さんのエネルギーがこんなにも大きく、強力なのか?しかし、こんなこともあるから私どもが導き出した理論は正しいと確信できる……」


「何をごちゃごちゃ言ってるかは知らないけど……くらえ!!」


俺のエネルギー弾は吸収されてるエネルギー弾の目の前まできている。俺は当たると確信した。


「………まだエンディングには早いですよ?」


不適な笑みを浮かべた三國総司。


「俺ですかリーダー!こんなん止めれるかなぁ?」



ズガガガガガガガカーーーーー


「な!?止まった!?」


吸収されてるエネルギー弾にぶつかる直前に、なぜか何もない所で、何かにぶつかっているように止まる。


「……あの横にいる男です」


俺は三國総司の隣にいる人物を見る。

金髪でいかにもチャラ男な雰囲気の男が、確かに手をかざし、能力を使っているみたいだ。


「あばばばばばば!!リーダーヤバいです!俺震えてます!」


「……大丈夫そうですね。さすがです」


なぜかブルブル痙攣するように震えているが……。


「あいつは三神空(みかみそら)。私とはタイプの違う空間使いです。条件はありますが、指定した空間を固定したり、他より時の流れを早くできたりします。シンプルだけどかなり強力な能力です」


「てことは、あいつはあの空間を固定して壁にしているのか?」


「そうですね。まさかあのエネルギー弾を止められるほどの力があるとは思いませんでしたが……」


ヤバいな…このまま止められてると二階堂の吸収が終わってしまう。


「………ごり押しの3発目に賭けるか…?」


「輝さん!これ以上は無茶です!倒れてしまいますよ!」


「でもこのままだとヤバいだろ!?」


唯が苦虫を潰したような表情になる。


「私も唯さんに同感ですよ輝さん。それに……もう遅いですしね」


「なに!?」


「…………」


最悪だ……躊躇ってる時間で吸収が終わってしまったようだ。二階堂が激しく点滅する球体をこちらに向けている。


「本当はあなたたちとの戯れをこれからも楽しみたかったのですが……これも仕方のないこと。残念です」



ドゴオオオオオオオオォォォーーーー


二階堂の球体から巨大なエネルギー弾が放たれた。

今までのエネルギー弾の比じゃない……。


「三神君、もういいですよ」


「あばばば…あ、そうですか」


三神空が能力を解く。止められていたエネルギー弾は向かっていったが……倍以上ある巨大なエネルギー弾に簡単に飲み込まれる。


「………輝さん。ここは一旦引きましょう。全エネルギーを駆使して、身体能力をあげることだけに専念して、ここから逃げましょう」


「逃げるって……この巨大なエネルギー弾はどうするんだ!?」


俺たちのいるここは工業団地だ。こんな物がここで爆発したら……ガスなども誘発して爆発して大変なことになってしまう…。


「………私も辛いです。でも今、あなたが死んでしまったらこの先の未来はさらに絶望的なものになってしまいます。お願いです……」


「唯………」


唯は涙を流しながらそう言う。

唯も……葛藤の末、判断したことなのだろう。


「………わかった」


「輝さん…!ご理解頂きありがとうございま…」


「……なんて言うと思うか?俺は昔から自分のために他人を犠牲にするのが大ッッ嫌いなんだ!我が身がかわいいなんて気色悪い!悪いな唯!」


俺はそう叫びながら、唯が止める間もないくらい、逃げるようにエネルギー弾に向かって飛ぶ。


「はぁ…知ってますよそんなこと。何年あなたのそばにいると思ってるんですか?」


「ゆ、唯!?」


いつの間にか唯は俺の隣を飛んでいた。こうなることは察していたらしい。


「一応お願いしては見ましたが、やっぱり聞いてくれないですよね…わかってます。それで?策はあるんですか?」


「えっ?あ、ああ。いける……とは思うんだけど…」


「……退化、ですね?」


俺は頷く。

俺の能力、退化の方を使えばなんとかならないかと思っているんだが……退化させる前にやられてしまう可能性もある。


「……私が勢いを止めます。その間に全力で退化をお願いします」


「と、止められるのか?」


「正直どれだけもつかはわかりません……数秒、もしくはほとんど一瞬かもしれません。なので……信じてますよ?」


「………任してくれ!」


唯は俺の返事を聞き、軽く微笑んだ後、俺よりも先を行く。



パチッーーーーー


唯が指を鳴らす。

するとさっきも出していた巨大な盾が現れる。


「ハァァッ!」


唯が盾へとエネルギーを流す。すると盾の先からさらにバリアーのようにエネルギーが膜をはる。


「止まれええぇぇ!!」



ズガアアアァァァァアァァーーーー


「と、止まった!」


唯の盾とエネルギー弾がぶつかり合う。

少しずつ圧されてはいるが、なんとかくい止められている。


「輝さん!今です!!」


「ハアアァァァ!!!」


俺は唯の横に立ち、手をかざしエネルギーを溜める。


「消えてくれぇ!!」


手のひらに溜めたエネルギーをエネルギー弾に当て、退化の能力を使う。


「うっ…ぐ、ぐぅ……!!」


張り裂けるような痛みが腕に走る。

退化をしている感覚はある。だが全然追いつかない。


「あ…きら……さん…」


横から苦しそうな、か細い声が聞こえる。

唯も限界が近いのだろう。


「く…そっ!!らあぁぁぁああ!!」


俺は全身のエネルギーを、もう片方の手のひらに集中する。


「あ…きら…さん……全身の…進化を…解いたら……身体に…負担が……」


「こうしないと間に合わない!!お願いだ!消えてくれぇ!!」


俺はすべてのエネルギーを両手に集中し、全力で退化の能力を使う。


「あ…が……身体…が……!」


守るものが無く、生身で受けているため全身が張り裂けそうだ。


しかし、その甲斐あってかどんどんと小さくなっていく。

しかし……。


「も、も…う……だめ…だ……」


俺は限界に近づいていた。全力のエネルギー弾を数発撃ったうえに、身体に負担をかけながら全エネルギーを退化に使っているからだ。


「あ…と……少し…なのに……」


エネルギー弾はだいぶ小さくなっていた。

だが…全身の力が抜けていく。


「………ッ」


もうカスほどもエネルギーが出ない…。

俺のエネルギーは底をつき、重力に任せ体が落下する。


ストンーーーーー


落下していた俺の身体は、唯に抱きしめる形で止められる。


「お疲れ様でした。あとは任せてください」


唯は盾を、身体よりも大きな二股の槍に変える。

見るからにただの槍ではない…生命ではないはずなのに、エネルギーが纏われている。


「……貫け」


唯はそれを、さきほどの半分弱ほどの大きさになったエネルギー弾に向かい、投げる。



ドパアァァァァァァーーーー


槍はエネルギー弾の真ん中を貫く。

そしてエネルギー弾は、風船のように爆発し、砕け散った。


「……はは。すごいなその槍」


「神話クラスの特殊な槍です。でも私からしたら、あんなエネルギー弾を昨日能力を覚えたての輝さんが、あそこまで退化させた方がすごいと思いますけど」


「……最後は不様だけどな」


俺は皮肉のように軽く笑うが、唯は優しく微笑んでくれる。


「なにを言いますか。“全力の人間は汚れていても美しい”と教えてくれたのはあなたですよ」


ほう。未来の俺は中々良いことを言う。

俺のこの状況を見越して言ったんじゃないのかと思ってしまう。


「………奴らは行ったみたいです。今の状況だと、助かったと捉えるべきですね」


確かに、どこを見渡しても三國総司らの姿はない。


「そうだな…。まだまだ勝てそうにもない……。だけど俺は絶対奴らを許さない。もう躊躇しない。絶対に倒してやる」


「……そうですね。でも今は疲れた身体を癒やしましょう」


俺は軽く頷き、地面へと座り込んだ。



ーーーーーーーーーー


「………あっれぇリーダー、爆発しませんね?」


三神空は工業団地の方を見てそう言う。

三國総司らは固定した空間を足場にし、高速で飛行していた。


「…ふむ。どうやらあのエネルギー弾を消し去ったようですね」


「ええっ!?それハンパなくないっすか!?唯さんはまだしも、過去の輝さんってショボいんじゃ…!?」


「そう、おかしいんですよね。いくらなんでも、能力を解放していきなりここまでは……。鷹山輝が何かしたのでしょうか……」


不確定な言い方をする三國総司だが、心の中では確信に近かった。鷹山輝、奴なら未来からでも何かしてくるだろう。……と。


「でも…私たちもだいぶ力を上げた。今日の戦いで、奴らは恐るるに足らないことがわかったのではないですか?」


「影村の言うとおりですよ!リーダーの秘薬のおかげで俺、空まで飛べちゃってますから!空間固定を無意識にできちゃってますし!」


そう言ってはしゃぐ三神空。それを影村皐月はうんざりした目で見ている。


「それもそうですがね。でも油断せずいきましょうか」


三國総司のその言葉に、操られている2人以外は頷く。


「さあ……我らがこの世界の“RULER”になるときです」



ーーーーーーーーーー


「疲れたぁ………」


俺はすっかり暗くなった家路を歩いていた。

あれから少しして会社に帰ったのだが……仕事が溜まっていた。


ただでさえ昨日の分のが溜まっていて、笹山さんらと手分けしても少し残業しないといけないほどだったのだが……戦いで2時間程あけてしまったせいで遅れが生じた。


笹山さんらにも残業してもらい、なんとか7時過ぎには終わることができた。今度お礼をしないといけないな。


疲れた身体に鞭を打ち、やっとの思いで帰り着いた俺は、我が家のドアを開ける。

灯りがついていたので唯はもう帰ってきているのだろう。


「おかえりなさい!今日は疲れましたね…先にお風呂にゆっくり入ってきてください」


俺が玄関に入ると、すぐに唯がそう言って出迎えてくれた。


「疲れたよ…ちょっと長めに入らせてもらおうかな」」


そう言いながら俺は玄関のドアを閉める。


「………まさか…彼女…?」


そんな光景を、通りすがりの木梨麗奈が見ていたとは知らず…。

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