第4話初めての特訓

チュンチュンーーーー


……鳥の声。また“いつもの”朝を迎える。


「………今日はやっぱり4月12日……じゃない!!」


俺は勢いよく起き上がりベッドから降りる。そしてリビングへと行きテレビをつける。


映ったのはいつもの朝の番組なのだが、日付は13日になっている。


「今日はちゃんと13日ですよ。安心してください」


唯が微笑みながらキッチンからリビングへと入ってくる。エプロン姿で、皿をのせたおぼんを持っている。


「おはようございます、輝さん」


「おはよう……。やっぱ夢じゃなかった、生きてるんだな俺」


俺は何度もテレビを見たり携帯を見たりして確かめる。


「もう死ぬことはありませんよ。私が守るし、輝さんも鍛練して相手に負けない力を身につけるんです」


そう言いながら唯は料理をテーブルに置いていく。

目玉焼きにウインナーにサラダにトースト、そしてコーヒー。久しぶりにまともな朝食を見た気がする。


「力を身に付けると言ってもさ、俺仕事あるんだけど……鍛練できなくないか?」


「大丈夫です。私が輝さんの元に送られた理由のひとつがここにあります。それはまた後で話しますので、とりあえず温かいうちに食べましょう」


そう言って唯はいただきますと言って食べだした。

そんなに呑気に構えてて大丈夫なのか?


「…………いただきます」


唯が大丈夫だと言ってるんだから大丈夫なのだろう。

とりあえず今は目の前の温かいご飯を頂くことにしよう。



ーーーーーーーーーー


「……唯、俺そろそろ仕事行かないといけないんだけど……」


俺は洗い物をしている唯にそう言う。なんか自分の家で女性が洗い物してるなんて……少し照れくさいな。


「もうそんな時間ですか。……よし。私も洗い物終わったので、特訓を開始しますよ」


「えっ?だから俺仕事が……」


「でももし仕事中襲われたらどうするのですか?少しは特訓してた方がいいですよ」


いや、それは俺も思ってはいるけど……。


「……ああ、説明忘れていましたね。とりあえずこれからの特訓方法を説明しますね」


そう言って唯は手のひらを前へかざす。

手のひらにエネルギーが集まり出す。


「まずは私の能力の説明を。私の能力は空間を操る力です。操るといっても、他の空間を使う方達と違ってちょっと戦闘向きではないし劣るのですけど……」


物を出したり消したりしてたのはやっぱり能力だったのか。


「でも劣るとゆうのは?」


「他の空間を操る人たちは巧みに空間を操り戦闘ではものすごく強力です。でも私の能力はそこまで巧みに操れないし、物の出し消し、着用物を瞬時に変えるくらいにしか使えません」


「それじゃ唯は戦闘では能力は使わないのか?」


「いえ、私なりの戦闘方法で使いますよ。それは特訓の時にお見せします」


唯の手のひらに集まったエネルギーはかなり大きくなっている。


「はっ!」


唯がそう言葉を発すると、目の前にあからさまに異次元空間を思わせるような穴が開く。


「私は戦闘向きではない代わりに特殊な空間を扱うことができます。とりあえず中で説明します、行きましょう」


そう言って唯はその穴の中に入っていった。


「……なんか異質すぎて入りたくないなぁ……」


だが唯は入っていったし、そうも言ってはいられない。

俺は目をギュッと閉じながら穴の中に入っていった。


「………ぷはぁ!!」


無意識に息を止めていた俺は一気に息を吐き出す。

一瞬の浮遊感がすごかった……。


「遅いですよ、躊躇ってましたね?もう20分もすぎてしまいました」


俺が目を開けると腕を組んで仁王立ちで唯が立っていた。少し怒ってる?


「20分過ぎたとゆうのはどうゆうこと?」


そう言いながら俺は辺りを見回す。

どこまでも続く大草原に澄んだ青空、爽やかな風も吹いている。なんて気持ちのいい世界なんだ。


「この空間と外は時間の流れが違います。こちらの6時間が外の6分です」


それで唯は怒っているのか。外で躊躇した分こちらではそれだけの時間が流れたんだ。


「ごめん、少し怖くて。でも入ってみるとかなり心地よくてびっくりしたよ」


「まあいいです。これは私が作った異次元空間で、先ほども言ったとおり時間の流れが違います。デメリットもありますがこれで外の短い時間で特訓が可能です」


「それはすごいな。特訓し放題じゃないか」


「それがそうでもないんです。私達がこの空間にいれるのは最高で6時間です」


「それはなんで6時間なの?」


「輝さんはここが心地良いといいましたよね。それはこの空間が外の世界と違って汚れることなく澄んでいるからなんです。この空気に慣れすぎてしまうと外の世界に戻った時、血を吐くことになります」


「そ、そうなのか」


すごく気持ちのいい景色のはずが少し怖く見えてきた。


「外の世界に戻った時になんのリスクもないギリギリの時間が6時間なんです。そして一度外に出たら1日は置かないと完全にこの空間の空気が抜けきりません」


「だから特訓し放題でもないのか」


「はい。だから今日は基本を学んでおかないといけないので朝ですが、明日からは夜に特訓しましょう。仕事や戦闘の時疲労で支障がでないように」


俺はわかった。と頷く。


「それではさっそく始めましょう。最初はエネルギーの基本中の基本、エネルギーが大きい者なら誰でも扱える技です」


そう言って唯は横に向かって手のひらをかざす。


エネルギーが野球ボールくらいの大きさで手のひらに集まる。


バシューーーーー


その玉は横一直線に放たれ、遙か彼方に消えていった。


「エネルギー弾です。威力は拳で殴られた程度ぐらいしかないですが、牽制などに使えます。これは恐らく簡単に出来るでしょう。やってみてください」


「えっ?コツとかないの?」


「手にエネルギーをためて放つだけです。絶対できますよ。あ、あと進化してくださいね?エネルギー弾は放ったエネルギーは消費します。徐々に回復はしますが、連続で使用すると通常時のエネルギーの大きさだとかなり体に負担がきます」


俺は自分にエネルギーを送り、進化する。


ゴオオォォォーーーーー


進化させた途端、俺の中からエネルギーが溢れる。


「な、なんで最初よりエネルギー増えてるんですか!?昨日の今日ですよ!?」


「し、知らないよ!」


唯が言うように、エネルギーの大きさが昨日の倍近くに大きくなっている。どうゆうことだ?


「と、とにかく!そのまま垂れ流し続けるとすぐに疲労してしまいます!エネルギーが自分から放れないように、体の周りに最小限に凝縮して集まるように意識してください」


俺は唯に言われたとおりに意識して集中する。

するとエネルギーが溢れることなく自分の中に留めることができた。


「エネルギーが急に大きくなった原因は全くわかりませんが……これはうれしい誤算です。力の使える幅が飛躍的に広がりました」


唯は興奮気味でそう言う。


「でも本当になんでこんなことが……聞いていた限りではそれほどのエネルギーを持つのは恐らく10年は早いはず……」


唯はブツブツと独り言を言いながら1人の世界に入ってしまった。


「……とりあえず練習しとくか」


俺は手のひらにエネルギーが集まるように集中する。


ギュイイィイィーーーー


手のひらにエネルギーが集まった。が、大きさが直径1メートルはある巨大な球になってしまう。


「こ、これはあんまりかな?ちょっと収縮して……」


俺はそれを小さくするよう意識する。


「お!こんな感じかな?」


手のひらのエネルギーは野球ボールほどの大きさになった。……でもこれは……。


ギュオオォオォオォーーーー


なんかものすごく危ない音を放っている……。


「ゆ、唯!これって大丈夫なのか!?」


「……あ、すいません!なんですか…て、なんですかこれ!」


「何って言われても…野球ボールほどの大きさにしようと思ったらこんなん出来ちゃって」


唯が戸惑ってるとゆうことはやはりこれは危ないのか?


「と、とにかく!絶対に放たないでください!自分の中に戻すようイメージしてください!」


俺は言われたとおりイメージしてみる。


「…………」


「…………」


「………戻らない」


「ええっ!?」


今まではイメージしたら出来ていたのに……なんで戻らないんだ!?


「でもこんな威力が未知数のエネルギー弾を放たれたら……あまり破損しすぎると空間内の修復に時間かかってしまって次の特訓がいつできるようになるかわかりません!」


「それは困るな!戻れ!戻れ!!」


俺は何度も戻るようイメージする。が、戻ってこない。


「……恐らく圧縮されたあまりに大きいエネルギーが手のひらとエネルギーの間の空間をねじ曲げてるのでしょうか……だから戻っていかない。それを手のひらに維持できてるのは……さすが輝さんと言うしか……」


「いやいや!これどうするか考えてよ!」


なんでこんな時に感心してるんだ!?

…………そうだ!


「はっ!」


俺は手のひらのエネルギーに集中する。


「あっ!小さくなっていきます!」


エネルギー弾はだんだん小さく弱まっていき、消えていった。


「な、なんとかうまくいったか……」


「よかった……。でもどうやって?エネルギーを戻せたのですか?」


「いや、戻すのは無理だったからエネルギーを“退化”させたんだ」


俺は能力の進化とは逆の退化を使った。人ではないが、エネルギーを進化、退化させる力だからできるかもと思って挑んだ。成功してよかった。


「そうか!うっかりしてました……確かに未来の輝さんは人だけではなく、能力からできた炎や雷などを退化で消滅させてました!さすが輝さん、ナイス発想です!」


そう言って唯はずっと拍手をしている。褒められるのはうれしいけどあんまりされると照れるな……。


「でもホントに不思議です……爆発的にエネルギーの量が大きくなってたり、エネルギーの質が変わってたり……質に関しては未来の輝さんより上です。何かをきっかけに歴史が変わってますね……」


そう言って唯はまたひとりの世界に入る。

……エネルギー弾がダメなら俺は一体なんの特訓をしたらいいのだろう。


俺はもう一度エネルギー弾を作ってみる。

やはりそれは先ほどと同じでかなり大きくできてしまう。


「………これってこっから“あれ”できないかな?」


俺はつい最近漫画で見た技を思い出した。あれができたらカッコいいし強力だろうな。

俺はそのイメージをエネルギー弾に送ってみる。


ヴウウゥゥーーーー


すると、エネルギー弾のいたる所から複数の小さなエネルギー弾が現れる。

見た感じ唯のエネルギー弾と威力も変わらなそうだから放ってみよう。


「はっ!」


俺は複数の小さなエネルギー弾を一斉に放つ。

するとエネルギー弾は連続して次から次に放たれ、彼方へと消えていく。


しかも大きいエネルギー弾から再び複数の小さなエネルギー弾が現れそれらも止まることなく放たれる。


「こ、これは…!?なぜこの技を今の輝さんが!?」


唯はこちらに気づいたらしい。俺の連続して放たれるエネルギー弾を見てかなり驚いた様子だ。


連続して放たれていたエネルギー弾も、だんだん本体が小さくなっていくにつれて少なくなっていく。

そして最後は本体も小さなエネルギー弾となり彼方へと消えていった。


「結構イメージ通り動くんだな、エネルギーって。どうだった?今の技」


俺は呆然としている唯に話しかける。


「どうもこうもありませんよ!その技は未来の輝さんがたった数年前……50も過ぎた頃にやっとできた技ですよ!?それまで輝さんはもちろん、誰もエネルギーからさらに分裂してエネルギーを出す事なんて出来てないんですよ!?」


「そうなんだ。でも俺出来たよ?結構イメージしやすかったし」


「だからおかしいんです!出来るはずないんです!……わからない、未来の輝さんよりエネルギー自体はかなり少ないとはいえ、質とコントロールが上をいってるなんて……」


唯は頭を抱えて首を振っている。


「でも悪い方じゃないからいいんじゃないか?もしかしたらそのおかげでかなり善戦できるんじゃないか?」


「まあ……そうですね!あとは今の輝さんのエネルギー量で使える力の使い方を覚えればいけそうです!頑張りましょう!」


唯の言葉に俺は力強く頷く。


「でも今日は仕事の前とゆうこともありますし、あまり力を使いすぎると慣れてないのでバテてしまいます。あと1時間ほどエネルギーの基本的な使い方、簡単な能力の技を練習して残りは体を休めることに使いましょう」


「俺はまだエネルギーが減った気はしないけど、唯が言うならそうなのかもな。わかった」


それから俺はエネルギーの基本、能力でできる技を唯から教わり特訓した。


どれも予想以上の飲み込みの早さ、効果を出したらしく唯が終始興奮していた。


唯の言うとおり、特訓を終えた頃は数キロマラソンを終えた後のように体のだるさを感じた。唯は慣れると言っていたが。


残りの時間は眠りにつき、エネルギー、体力の回復にあてた。

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