第3話未来人の陰謀

「…何も起こらなかったな」


そう呟きながら、俺は家路を歩いている。


あれから笹山さんとご飯を食べ、挙げ句は買い物まで付き合わされた。

今はもう夕方だ。


あの子は仕事はよかったのだろうか……。


連れて行かれたお店は前回と同じところだった。それだけでも前回のこともあり何か起きないかとハラハラしていた。


でも何も起こらなかった。やはり女性が守ってくれていたのだろうか?


「もしかして……このまま死なないで生きていけるのか?」


そんな希望を……ほんの少し持った。

でもそれだけで俺の心は興奮していた。


女性と合って運命が変わってくれたのだろうか。……変わっていてほしい。


そういえば女性はまた落ち着いた頃現れると言っていたが、未だに現れない。


色々聞きたいこともある。でも一向に現れないしこのままだと家についてしまう。


明日現れるのだろうか?


「……明日。明日……か」


久しぶりに俺は喜び、期待……そんな感情が沸き上がっている。


命がある……明日に繋がる。

普通に生きていたのであれば、ここまで“生”に執着することもなかっただろう。


今日は久しぶりにお酒を買ってきた。やけで飲むんじゃない。この希望を肴に飲みたくなったんだ。


俺は自分でもわかるくらい頬を緩ませながら、家の鍵を回し玄関を開けた。


「………あれ?」


俺……朝鍵閉めたっけ?


記憶が定かであれば、鍵もせずに家を出たはず……しかし鍵を回すと閉まるはずが逆に開いた……。


「おかえりなさい。今日は楽しめましたか?」


玄関で頭を混乱させていると、リビングの方からそんな声が聞こえる。


「うわっ!?なんでここに!?てか風呂上がり!?」


振り返った俺が見た光景。そこにいたのはあの時守ってくれた女性。しかもなぜか頭と体にバスタオルを巻いた風呂上がりな状態。


「落ち着いた頃現れると言いましたよ?あ。先にお風呂借りました」


「いやいやいや!いやもうなんでもいいから服着てください!」


全然理解できる答えを貰っていないが……とにかく目のやり場に困るこの状況を打破したい。


「わかりました。輝さんは昔からシャイなんですね。……えい」


女性はパチッと指を鳴らすと、バスタオル姿から一瞬でパジャマ姿へと変わる。


「……不思議なことだらけでついていけません……」


「それも含めて全て説明しますよ。早く入ってください。ご飯もできてますよ」


いい匂いがすると思ったらご飯まで……。

俺は少し心に呆れも含め、女性の後を追いリビングへと向かった。


「うお……すごい料理」


リビングに入って見えた光景。

長方形の小さなテーブルの上に色々な料理。しかも全て俺の好物だ。


「輝さんが好きなものばかりを作りました。今の輝さんの頃から好きかどうかはわかりませんが」


そう言って少し照れた表情で微笑む。


「その意味深な発言やらも含めて全部話して貰えるんですよね?」


「はい、もちろんです。まずは温かいうちに食べてください。食べながらでも話しましょう」


そう言って俺の向かいに女性が座ったので、俺も座った。


「では……「「いただきます」」


「どうぞ召し上がってください」


俺は女性に促されるがまま料理を小皿に取り口へと運ぶ。


しかしなぜ俺はよく知りもしない女性の料理を食べているのだろう……普通に考えておかしいよな。


「………おいしい」


「よかったです!料理の腕には多少自信がありますからね。話は後にして、どんどん食べてください!」


そう言ってニコニコしながら女性も料理を口に運んでいる。


俺は早く色々と聞きたかったが、空腹と絶品な料理には勝てずしばらくの間箸を進めた。



ーーーーーーーーーー


「……すごい、全部食べましたね。ありがとうございます」


「全部おいしかったです。こちらこそありがとうございます」


こんな美味い手作り料理は久しぶりだ。残すわけにもいかない。


「……急かして申し訳ないけど…」


「はい。お話します」


女性は今までの微笑みを一変し、真剣な表情になる。


「そういえばまだ名乗ってませんでしたね。私の名前は、た……唯(ゆい)といいます。そしていきなりですけど、30年後の未来から来ました」


「未来………」


信じられなかったが……なんとなくそうなんじゃないかと思い始めていた。今までの言動や、起こり得るはずのない事が実際に起こっている事などで。


「未来では色々と発展を遂げています。このように過去に行くことも可能になりました。それは1人の人物の新たな発見、功績で急激に、飛躍的に。その人物とは……鷹山輝さん、あなたなんです」


「お、俺!?」


唯さんの言葉に驚く。

俺は特に頭もいいわけでもないし、何かを開発したりできる知能を持ち合わせてはいない。


「輝さんは新たな人間の可能性、力を見つけました。一部ではありますが……人にはなくてはならない、自然すら必要としなくなる可能性のあるものも」


「力……ですか」


力……もしかして…。


「……やはり、薄々気づいてはいるみたいですね?今、できる限りでお見せできますか?」


そう言って唯さんはパチッと指を鳴らす。すると、机の上に一輪の枯れかけた花が現れる。


「……やっぱり唯さんは未来から来たからわかっているんですね、俺の変わった力」


俺は花を手に取る。


「もちろんです。今のあなたが知らないことまで……全て」


そう言ってニコッと笑い、視線を花に向ける。


「………ふっ」


俺は花を手で撫で、心臓あたりからこみ上げる温かい何かを心臓から手、手から花にいくように意識する。


「……さすがです」


そう言って唯さんはパチパチと拍手をする。


枯れかけていた一輪の花は、まるで咲いたばかりの花をたった今摘んだんじゃないかと思うくらいキレイに咲いている状態になった。


「子供の頃……家の近くのおばあちゃんが枯れたからと言って土手にプランターから捨ててる花を見て、可哀想だと思って。でもなぜかわからないけどまだ生きてるように感じて……生き返ってと撫でてみたのが気づいたきっかけです。その花は見事に蘇りました」


「知ってます。未来の輝さんもそう言ってましたから」


未来の俺か……。


「唯さんは未来の俺から言われてここにきたんですか?例の死んで生き返っての繰り返しに関係が?」


「それもすべて順を追って説明します。あと、私は輝さんより年下なので、さんも敬語もいりませんよ。いくら過去とはいえ輝さんから敬語で話されるのはすごく違和感があります」


少し困ったような顔でそう言う。

てか年下だったのか……年上かと……。


「……なにか?疑問に思う点がありました?」


笑ってる……けど目が怒ってる……。


「わかった。女性をあまり名前で呼ぶのは得意じゃないけどね」


「ありがとうございます。」


そう言って唯はニコッと笑う。よかった、元の顔だ。


「話を戻します」


唯は机に置いた花を取る。


「こういった力を持つ者は過去も今も、もちろん未来も一定数います。でも恐れられたり嫌われたり、悪魔扱いされる国もあるので本人達が公にしていなく認知度が低いんです」


「でもメディアに露出する人で言えば、驚くべき知能、頭の回転の早さを持つ者。動物の声が聞けたり、マジックだと言ってるが本当に物を消したり出したりできる者。もちろんメディアに出る全ての人がそうではありませんが」


「そうなのか……ずっとヤラセか何かだと思っていたが、中には本物がいたのか。すごいな」


「すごいとは言いますけど、全ては輝さんの力に対して劣る力ですよ」


「えっ?この力が?花を生き返らせるくらいしか使ったことないけど……」


俺がそう言うと、唯は首を横に振る。


「違いますよ。輝さんの力は花を生き返らせるだけではありません。今はまだ根本に気づいてないし弱いですが……全ての力のマザーでもあるんです」


「えっ?そんなすごいの?」


全然実感がないからにわかには信じられない。


「唯は知ってるんだよね、俺の力のこと。教えてもらえるのかな?」


「もちろん教えますけど……輝さんは頭と勘がいいので使っているうちにすぐ気づくと思いますけど。まあ今の状況ではそんな時間かけられませんからね」


「今の状況?」


それも順を追って説明を……と言い、また指を鳴らす。すると花が消える。


これは唯の力なのだろうか。それとも未来のテクノロジー?後で聞いてみよう。


「輝さんはこの力の事を考えたことはありますか?」


「ん~……なんでこんなことが出来るんだろうとか、使う前に心臓あたりが温かくなるのはなんでだろうとか……かな?」


「本当に?深くは考えたことないんですか?」


「……なんか答えを知ってる人に話すのは間違ってた時に恥ずかしくて……」


俺がそう言うと、唯は少し声を出して笑う。


「輝さんは学生の頃先生に質問されたらそう返してたのですか?考察で完璧な答えを言える人なんていませんよ。……現代には、ね」


現代にはってことは未来にはいるのか。

でもよく考えたらそうだな。


「……俺の考えでは、人はもちろん全ての生き物みんなエネルギーを秘めていて、そのエネルギーが特殊、もしくは大きい人が俺みたいな能力を持っているんじゃないかって考えてる」


俺が一旦区切るとうんうん、と首を縦に振るだけで何も言わない。続けろとゆうことかな。


「この力を使うときいつも心臓あたりが温かくなる。それがエネルギーで、それを手から花に与える事でこの奇跡を起こせてるんじゃないかって思ってる。これはもちろん花も生きていてエネルギーを持っているから出来るのかなと思ってる。実際生命以外に試してもなにも起こらなかったし」


「何に試したんですか?」


「子供の頃両親が買ってくれたぬいぐるみ。なにか起こらないかなとか思ってしてみたけど、なんか跳ね返ってまた返ってくる感じだった」


「そうだと思います。輝さんの力はエネルギーを持つ生命以外には意味がありません。ひとつ聞きたいのですが、なぜ生き物全てにそのエネルギーが秘められていると考えたのですか?」


「考えたとゆうか……見えないけどあるって感じるとゆうか……なんて表現したらいいか……」


やっぱりか……と、唯はひとりで何かを納得している。


「最初に輝さんの考えの答えから。結果からすると細かいことを言わなければほぼ正解です。エネルギーが通常より大きいとまれに力を持つことがあります。そして全ての生命にエネルギーがあることも正解です。その話を聞いたときもしやと思ったんですが……まだ見えるまではないみたいですね」


「これって見えるようになるのか?」


俺の言葉に唯はコクっと頷く。


「本当の歴史は輝さん自身が力を理解した時、自然とその行動を取るんですけど……さっきも言ったとおり状況が状況なので、少しの歴史くらいは犠牲にしましょう」


唯は自分の胸に手をあてる。


「輝さんもこうして自分のエネルギーを感じる部分に手を当ててください」


「こうか……」


俺は心臓の辺りに手を当てる。


「その状態で自分の力を自分に使ってみてください」


「えっ?……そうか、自分に使ったことはなかったな。でもこれってただエネルギーが循環するだけじゃ……」


唯は首を横に振る。


「輝さんは自分のエネルギーを他の生命に分け与えているように考えていますよね?だから循環すると思っている……でもその考えは間違いです。輝さんのエネルギーからできる力はそんな物じゃありません」


やってみてくださいと言わんばかりに、手のひらを向けてくる。


「……じゃあ、いきます」


ヴウウゥゥーーーーーー


俺はエネルギーを心臓から手、手から俺の体に流れるようにコントロールする。


「んッッ!?」


一瞬浮遊感を感じる。そして体の中から温かいエネルギーが熱くなっていくのを感じる。


そして、今まで感覚でしかなかったエネルギーが……はっきりと輝く光のように見えるようになる。


「なんか……すごく体が軽いし、なによりエネルギーが見えるようになった。……唯のエネルギーは俺と比べるととてつもないな」


俺がそう述べると、唯はニコッと笑う。そして自分のエネルギーを小さくしていく。


「うまくいきましたね。完全にエネルギーが見えるようになりました。どうですか?自分で自分の力を受けて……輝さんは頭がいいですから、感覚でもう気づいたんじゃないですか?自分が本当はどんな力か」


俺は自分の全身から溢れ出るエネルギーを感じながら、コクっと頷く。


「……生命の進化と退化。違うかな?」


俺の言葉を聞き、唯はパチパチと拍手をする。


「正解です。輝さんの力はその名の通りです。エネルギーを持つものを進化……例えば限界が5だった者のエネルギーを10近くまで進化させる事ができます。そしてその逆もしかり……0には出来ないけど、限り無く0に近くできます」


俺はもう一度力を使う。今度はエネルギーを吸い取るような感覚で。


「………元に戻った。けどエネルギーはしっかり見える。でもなんか……体がずっしり重い感覚……」


「それはそうですよ。進化後だと飛躍的に身体能力がアップします。世界一のトップアスリートは亀のように遅く感じ、世界一の格闘家など指一本で倒せるほど」


「そんなに……。だから普通に戻って重く感じるのか」


はい。っと、唯は頷く。


「輝さんはその力で、力を持つ者を進化させていきました。優れた知能を持つ者はさらに優れた知能を得て、現代では考えられないテクノロジーを生み出ししました。火の熱さを感じない者は火を操り、物を消せる者は空間を操れるようになりました」


驚いた。俺の力でそんなことが出来るとは……。


「先ほどマザーと言ったのはそうゆうことです。実際では火が熱くない程度の能力が、進化を遂げ火を操れるようにまでなる。輝さんの力が、埋もれるはずだった力を産み出したんです」


「俺にそんな事が………」


「出来るんですよ。そして輝さんの存在は全世界に知れ渡り、注目を浴びました。そして輝さんが認め、集めた人たちの能力を最大にまで引き出し、新しい人種の誕生を世界に知らしめました。その様々な能力で世界を良い方向に変えるために」


良い方向に……俺はこれを悪用しようとはしなかったのか。安心した。


「そして世界は輝さんと……集められた優れた能力者達によってかなりの発展を遂げました」


「でも……俺が悪用しなくても、この力を悪用しようとする者はいなかったのか?」


俺がそう問いかけると、少し怒りを交えた表情へと変わる。


「それが今回、私がこの時代に来た理由に繋がります」


「……やっぱりいたのか。そしてこの時代で何かを企んでいるのか?」


唯は首を横に振る。


「この時代……とゆうか、この時代の輝さんに、です」


「俺……?」


………まさか、最近の死んで生き返っての繰り返しは……。


「想像している通りだと思います。力を悪用しようとする者は、この時代の輝さんを抹殺しようと企み、この時代に来ています。最近の死の原因はそいつらにあります」


「そうだったのか……。でもなぜ俺を殺しに?この時代にまで来て殺さないといけない理由は?」


「簡単なことです。未来の輝さんには誰も勝てないからです。56歳と若いとは言えない、本来なら若者が負けるはずない状況でも。それほど輝さんの力は巨大かつ次元が違うんです。だからこの時代……私が教えなければ力のちも知らない輝さんを殺して未来では存在しないようにしようと企んでいるんです」


………今までの現実と違い過ぎてついていけない……。スケールが大きすぎる。


「エネルギーは経験の積み重ねで大きくなります。私のエネルギーは比べものにならないといいましたが……未来の輝さんは私“ごとき”じゃ比べものになりません。しかも通常時で、です」


「そんなに……。でも通常時とは?」


「輝さんは普段は進化させてない状態……いわば5の状態で過ごしています。理由は単純に普通の人みたいに普通の感覚で過ごしたいから、だそうです。それでも普通とは呼べない位置にいるのですけど……」


「そして私たちみたいに輝さんに進化させてもらった存在が10……進化後ですね。10と言ってもエネルギーを大きくするだけなら経験や努力でいくらでも出来るので限界ではないのですが」


未来の俺はそんなに凄い立ち位置にいるのか……信じられないな。


「でも待ってくれ……もし、今の俺が死んだらその能力者達も存在しないことになるんじゃ……」


「そうですね。でも相手もそこは用意周到に計画していたみたいです」


「計画?」


「私たちがこの計画を知ったのは、1人の開発員からの密告です。この開発員は脅されて色々と作らされたみたいです。ひとつは過去に来るためのマシンを。もうひとつは、指定した人と時代、時間にその者の前に物を届けられる機械を」


「物を届けられる?」


「力の全容、力の能力。どうやってエネルギーを大きくするか……それを事細かに記した物を送るために」


そうか……俺に出会わなくとも力のことを把握するためにか。それだと俺を殺してもその存在を知ることが出来るな。


「でも力は俺が進化させないとダメなんじゃなかったのか?理解したところで進化後のように使えるようになるのか?」


「それは私も思いました。でも未来の輝さんは、能力を理解しそれに近づけるように鍛錬したなら出来る、といいました。但し、進化した時ほどのエネルギーにはならないらしいですが。それでも輝さんのいない未来だと十分世界を支配できるほどには能力も扱え、エネルギーも大きくできるらしいです」


「それは……かなり一大事じゃないか?」


コクっと唯は頷く。


「相手の名は、三國総司(みくにそうじ)。能力はエネルギーを持つ者を操る力です」


「三國総司……。能力も支配を考えている奴にはうってつけだな」


「そうですね。色々と制限はあるのですが、かなり強力な能力です。この能力でこの時代の人間を操りあなたを殺しにきました」


じゃあ偶然にみえた事故死とかも全て三國総司が関係ない人を操って……。


「私が不甲斐ないせいで相手に先手を取られ輝さんを何度か殺されてしまいました……その件は申し訳ありませんでした」


「いや、いいんだ。結果今日助けてもらったんだから。でも……そのことで質問いいかな?」


「…………どうぞ」


俺の言葉に表情が曇る。多分予想はついていて、質問されたくない所なのかもな。


「俺が死ぬ度に時間を戻してくれたのは唯だよね?」


唯は少し時間をおいてから頷く。


「………助けられなかった時、唯だけ今日の朝……“過去に戻る”んじゃなく、俺と一緒に“時間を戻す”理由は?」


「……やっぱり気づきましたか」


唯ははぁ…と、ため息をひとつし、俺の方を向く。


「まずひとつ言い訳をさせてもらうと……私も相手も同じ物で過去に来ています。ちなみにこれは過去と未来、それぞれ一回ずつしか使えないんです。だからあとは未来に帰ることしかできない」


「再び過去に行くことができなかったのはそのせいなのか……」


「……実は私はその開発員に念の為過去に何度も行けるように作り直せないかと言ったんです。開発員の答えはYESでした。三國総司には一回限りだと嘘をついて、隙を見て私たちのは別に開発していたらしいです」


「だったらそれで過去に来て……そしたら俺は死の恐怖を何度も味わわなくても……」


「それにNOと唱える人がいました。……それは輝さん本人なんです」


「えっ……?」


俺はその言葉に呆気にとられる。まさか俺自身からの要望だったとは……。


「本当は最初から死なすことなく助けに行けたんです。私もそうしたかったし目の前で死んでしまう輝さんを何度も見ないといけないのは苦痛でした。嫌だと訴えたのですが……意味があるから、と聞き入れてくれませんでした」


そうだったのか。そしたら唯は最初の死からずっと……唯も苦痛だっただろうな。


「死んだ人間の時間を戻す物など禁忌に近いし、それに時間を戻す物など開発されてもいないし間に合わないとも言ったのですが……このことを想定していたかのように、輝さんは開発していました。輝さんのエネルギーを込めたそれは20回ほどは戻せる、だからその回数は頑張ってくれ……そう言われました」


「そうする理由ってのは……」


唯は首を横に振る。

いったい未来の俺はなにを考えているのだろうか……。

自分自身とはいえ次元の違う所にいるから理解しようとしても無理なのだが。


「……誰にも未来の俺の考えはわからない。これは考えても時間の無駄そうだから止めよう。唯にも辛い思いさせたな」


「いえ!私は大丈夫です!……この件は黙っていてすみませんでした。でもこれからは全力で守ります!」


それは心強い。けど……女性から言われるとちょっと情けない気もする。


「大まかな話は以上です。質問はありますか?」


「相手は三國総司だけ?」


「操られている者、自らついて行ってる者、何人かいます。自らついて行った者は強力な能力者ばかりです。だからこそ、自分の力を知らしめたくなり三國総司の考えに賛同したのでしょうが……」


そうか。これからそんな奴らを相手にしていかないといけないのか。


「今回、相手の操る人間を私が止めたことで存在が知られました。これからは能力者同士の戦いになるでしょう」


「……俺はまだこんなんだけど、戦えるのか?」


唯はきっと大丈夫なのだろう。ひとりで過去に来るくらいだしな。


「正直まだわかりません。力の使い方次第では相手のエネルギーが大きくても戦えますが……その技を今の輝さんのエネルギーで使いこなせるかが……。あとは正直体術の勝負ですね」


「待って!俺喧嘩すらろくにしたことないって!」


「私たちももちろん進化させてもらって身体能力はあがりました。でも輝さんが自身を進化させるよりもかなり劣ります。相手も体術のエキスパートばかりではありませんから、鍛えればなんとかなるとは思うんです」


「でも相手の能力は体術だけでどうにかなるようなものなのか?」


「……厳しい能力者もいます。だからどこまで力を使いこなせるかが鍵になりそうです」


結局は能力次第か。どこまでできるようになるのか……。かなり心配だ。


「……今日はもう遅いですし明日にしましょうか?輝さんにとって久しぶりにゆっくりと眠れる夜になるでしょうから、今までの疲労した心と体を休めてください」


「そうだな。久しぶりにゆっくり寝たいしお風呂にも入りたい」


俺はぐっと背伸びをする。


「でももし相手から何かしら襲撃があった時のために気は張っとかないといけないな」


「その点は大丈夫だと思います。私ももちろんですが、輝さんもエネルギーを感じれるようになって大きなエネルギーが近づくと察知できるようになったはずです。一般の人たちは私たちが気にするほどのエネルギーは持ち合わせていないので、操られていたら三國総司のエネルギーも混ざるので区別もつきます」


そうなのか。なんか某アクションアニメのような世界だな。


「それに気配を察したらすぐにかけつけます。輝さんはこの事を一旦頭の隅に置いて体を休めることに専念してください」


「………ありがとう」


その夜、俺は久しぶりにゆっくりとお風呂に入り就寝する事ができた。


よくよく考えたら初めて女性とひとつ屋根の下な事に少し焦りもしたが、幸い一部屋あいていたから壁を挟んでる事ですぐに落ち着いた。


そして次の日から、俺の命をかけた戦いが始まった。

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