第2話救世主との出会い

チュンチュンーーーー


……鳥の声。また“いつもの”朝を迎える。


「………今日はやっぱり4月12日……」


これは昨日……いや、ついさっきも言ったな。


“前回”の俺はトラックに跳ねられて死んだのか。

前回の世界の笹山さんにトラウマを残してしまったな……。


「仕事……いや、やめとこうかな。もういいや……」


今の世界の笹山さんは何も知らないとはいえ、少しばかり罪悪感で会いづらい。


それに……正直精神が限界だ。もう何もする気になれない。


どうせまた死んで……また死ぬ前に戻って。その繰り返しなんだ。


死ぬ寸前の恐怖。俺はこれから先終わることなく繰り返さなければいけないのだろうか。


「………酒でも飲もう」


どうせ死ぬ。会社には行かない。どこかで酒でも買って浴びるように飲もう。やけだ。


俺は財布だけを持ち、鍵もかけずに家を出た。




ーーーーーーーーー


「はぁ………」


家を出た俺は近くの公園のベンチに腰掛けうなだれている。


酒を買いに行くのも面倒になり、かれこれ20分ほどこうしている。


公園の外にはせわしなく仕事への道のりを歩く人たち。学校への道のりを歩く学生たち。


俺は……なんでみんなと違ってしまったのだろうか。


「どうせ死ぬ運命なら……生き長らえずにいっそのこと……」


そう呟くと同時に視界がぼやけ、頬に涙が伝う。


「クソッ……クソォォッッ!!!」


俺は悲しみや恐怖、全てを吐き出すように人目もはばからず叫ぶ。


「うるせぇ!!!」


俺の叫びに被せるように誰かがそう叫ぶ。


声のする方向を向くと、怒りの形相の男がサバイバルナイフのような物をこちらに向け立っていた。


「お前が彼女をッッ……夏帆ちゃんをおおぉぉぉ!!」


そう叫びながらその男はナイフを振りかざしこちらに向け走ってくる。


なぜこの男が笹山さんの名前を叫んで俺を刺しに来たのかはわからない……でも多分勘違いか何かだろう。


俺の死ぬ運命に付き合わされて殺人を犯してしまうのか。1人の人間のこれからの人生を狂わせてしまった。


抵抗はしない。今回は刺されて死ぬのか……痛みなく逝きたいな。


男が目の前にいるのにそんなことを考える俺に呆れる。

俺はフッと、軽く笑う。


「何笑ってんだコノヤロオォォォ!!!」


俺は来るであろう痛みに備え、ギュッと目を閉じ歯を食いしばる。


ボゴッッーーーーー


………………。

…………。

………ん?


いつまで経っても痛みを感じない。刺されたんじゃないのか?


俺はゆっくりと目を開け、目の前の光景を確かめる。


「えっ?」


俺の視界に映ったのは、地面に倒れるナイフ男……そして俺と男の間に仁王立ちで佇む茶髪の女性だった。


「たわいもない。蹴り一発でダウンなんてホントに男か?」


そう言って茶髪の女性はこちらに振り向く。


「大丈夫ですか?……鷹山輝さん」


そう言って俺と目線を合わせるようにしゃがみこむ。


女性の容姿は、茶髪の綺麗なロング。男に放った言葉遣いに似合わずおっとりしてそうなやわらかい容姿の美人だ。


「案外落ち着いているんですね。普通もっと驚くんじゃないですか?そうゆう所は昔から……」


最後の方はあまり聞き取れなかったが、そう言って女性は怪訝そうな顔をする。


「はぁ……これでもかなり驚いているんですけど。なんか…色々混乱しています……」


「ゆっくりでいいですよ、一旦落ち着いてください」


そう言って俺の横にストンと腰掛ける。


「えっと……なんで俺の名前知ってるんですか?」


「ずっと追い求めていたからです」


……好意でなのか?どこかで会ったかな?ある気もするけど、多分初対面の気がするんだが。


「主語が足りなかったですね。私はずっと……あなたが“最初に死んだとき”から追い求めてました」


「なっ!?なんでそのことを!?」


俺が死んでまた生き返ってを繰り返していることを……知っている?


「前回でやっとあなたを見つけることが出来たのですが……ギリギリで間に合わずまた一つ恐怖を……すみません」


「前回?……あっ!死ぬ直前で笹山さんの隣にいた人!?」


どこかで見た覚えがあるとは思っていた。思い出した。


「なにから説明するべきか……と、その前に」


ウーウーーーーー


「先ほど通行人が警察に電話をしている所を見ました。私は“この時代”では 身分がありません。落ち着いた頃また現れます」


「えっ?ちょ、ちょっと!!」


俺が止めるまもなく女性は微笑みながら手を振って……消えた。


そう、一瞬でいなくなってしまったんだ。


「な、なんなんだ……わけがわからない……」


俺が頭の中を整理するのも束の間、すぐに警察が駆けつけてきた。




ーーーーーーーー


「主任!!主任大丈夫ですか!?」


俺が警察署から出てきたところ、外で笹山さんと仮屋部長が会社から駆けつけてくれていた。


あれから俺は事情聴取をされた。わざわざ隠れるほどだ、女性にはなにか事情があったのだろうと思い女性のことは伏せて話した。


早起きして朝ご飯を買いに出た所、ナイフ男に襲われたが運良く返り討ちに出来た……と。


笹山さんの名前が出たことを話したところ、男は笹山さんのストーカーで笹山さんから被害届が出ていて厳重注意を受けていたと言う。


俺の運命に付き合わされたのではなく、本当に悪人だったようだ。


「主任があのストーカー男に襲われたって聞いて……巻き込んじゃって本当にすみません!主任になにかあったら私……」


笹山さんは涙をボロボロ流しながら抱きついてくる。


「笹山だけじゃないぞ。会社を無断欠勤なんて何があったんだと思いきや……連絡が来たときはかなり焦ったよ」


「すみません部長。すぐに連絡もできず……」


「事情が事情だ、気にするな。お前は会社の大事なエースであり大切な仲間なんだ、失うわけにはいかん」


ありがとうございます。と仮屋部長に頭を下げる。


「……おい笹山。お前いつまで抱きついているんだ?たく……そんなことばかりしてるからストーカーに勘違いされたんじゃないか?」


「こんなことばかりしてないですよ!笹山さん、大丈夫だから離れて」


俺は部長のからかう言葉でハッとし、笹山さんを急いで離す。


「あぁ~!…ッ……!」


「うっ!す…すまん……」


やっと離れたと思ったら部長をじっと見ている。部長もなんで謝ってるんだ?


「と、ともかく!鷹山は午後からはゆっくり休め!俺は会社に戻って上に報告しないといけないからこれで失礼するよ」


そう言って、部長はそそくさと帰ってしまう。


「………笹山さんは帰らなくていいの?」


「えっ?」


俺は休みを貰ったけど、笹山さんは仕事に戻らないといけないはずでは……。


「えっと……あ!もうお昼ですよ!巻き込んでごめんなさいの気持ちも込めてお昼ご馳走させてください!」


「お、お昼……?」


俺の脳裏に前回死んだときの光景がフラッシュバックする。


またあんな危険な目にあうかもしれない……今回も笹山さんにあんな光景植え付けるわけには……。


ーーー大丈夫です。なにがあっても私が守りますーーー


「えっ!?」


俺の耳元でそんな声が響く。これはさっきの女性の声……。


俺は辺りを見回す……が、女性はどこにも見当たらない。


「……?どうしました?」


「……いや、なんでもない」


「そうですか?よし!じゃあ行きましょう!」


そう言って笹山さんは俺に腕を回し引っ張る。


「ちょ、ちょっと!俺はまだ行くとは……」


「ストーカーいなくなって最高な気分です!レッツゴー!」


こうなったらもうダメだ……こうゆう周りを巻き込んで一直線なところは彼女らしい。


俺はため息をひとつ吐いて引っ張る力に身をゆだねた。


その数メートル後方で女性が微笑みながらついてきていたと知ることも無く。

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