RULER~ルーラー~
しょうこう
第1話生と死の日々
チュンチュンーーーー
……鳥の声。また“いつもの”朝を迎える。
「………今日はやっぱり4月12日……」
そう呟きながらベッドから降りリビングへと向かう。ソファーの脇に落ちていたリモコンを手に取り、テレビをつける。
そこに映ったのは“毎回同じ”な朝のニュース番組だった。
『ーーようございます。4月12日月曜日。本日も春の気持ちのいい風が吹き「雲一つ無い快晴です』……だろ」
俺はアナウンサーのセリフに被せてまったく同じセリフを言う。
もう“何度目かわからない”ほど毎日のように見ているからな。
俺は再びテレビを消し、仕事に行く準備をするために洗面所へと向かう。
「………しっかり寝てるはずなのにひどい顔だ」
洗面台の鏡に映った俺、鷹山輝(たかやまあきら)はまるで疲れ果てたようにげんなりとした顔つきだ。
ような、ではなく実際疲れてしまっているのだが……心が。精神が。
本当は仕事など集中できないし行く必要も感じない。
だがどこにいても同じなんだ……何かが変わることを信じて行くしかない。
俺は自分の精神に鞭を打ち、そのひどい顔つきを水で洗い流し支度を始めた。
ーーーーーーーーー
「おはようございます鷹山主任」
「……おはようございます笹山さん」
会社に着き自分のデスクに座ると、向かいのデスクの一つ年下の部下である笹山夏帆(ささやまかほ)がいつものように挨拶してくる。
「主任…どうしたんですか?かなり辛そうですよ?大丈夫ですか?」
そう言って俺の方へ歩み寄り顔を覗き込む。
「大丈夫だ。……それより今日の会議資料、忘れたんじゃないか?」
「え?ちゃんと鞄に入れたから大丈夫ですよ?」
突然そう言われたからか、笹山さんはきょとんとした顔をしている。
「取りに帰るのは今じゃないと間に合わないぞ?」
「だから大丈夫ですって!今日の主任はあまり信用してくれないですね」
ムッとした顔つきでそう言う。
「君は優秀だし何も言わずとも大丈夫だと思ってるよ。でも今回ばかりは俺の忠告を聞いた方がいいぞ?」
俺が真剣な顔でそう言うと、怪訝な顔をし自分の鞄を調べ始める。
「……えっ?あれ!?ホントにない……」
そう言い驚いた顔でこちらを見る。
「ちゃんと朝も調べたはずなのに!……なんでわかったんですか?」
「君のとこのペットの犬が隠してるってオチかもな。気をつけていってらっしゃい」
「私犬飼ってること言いましたっけ?……って、呑気に話してる場合じゃない!いってきます!!」
脱兎のごとくオフィスを飛び出した笹山さんに軽く手を振り、俺は自分の仕事にうつった。
ーーーーーーーーー
「本当にありがとうございました!危うく部長のお怒りをくらうところでした!今日のお昼は奢らせてください!」
お昼前、会議も無事終わったようで安堵した表情の笹山さんがそう言ってくる。
「ん~……たいしたことはしてないし、遠慮するよ」
そう言って俺は笹山さんをおいてオフィスを出る。
「えっ!?ちょっと主任なんで断るんですか!待ってください!」
そう言ってその後を笹山さんは追いかけてきた。
「全然たいしたことですよ!すごくすごく助かったんですから!」
「それはわかるさ。でも今日ばかりはこない方がいい気がするんだけどな……君に嫌な光景を見せたくないし」
最後あたりは聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。
「…?よく聞き取れなかったですけど……これでも勇気だして誘ったんだけどな……」
今度は笹山さんの方がか細い声で呟く。
「俺はもう先がない。でも君にはこれからがある。この世界の君はずっとトラウマを抱えることになるのはイヤなんだ」
「ん~……何を言ってるのかさっぱりわからないけど、主任だって若くしてその実力を認められた有望な人材って部長が言ってましたよ。まだ26なのに上役からすごい期待受けてるじゃないですか」
「そうゆうことじゃないんだけどな……まあいいか」
どうせ諦めてはくれないだろう。この前は夜までもったこともあった。どうにか今まであったことを避けてもたせよう。
「どこに行く?……こっちとこっちじゃない方向で」
「やった!!じゃあとっておきの店があるのでそこ行きましょう!……でもなんでその方向はダメなんですか?」
歩きながら不思議そうな顔でそう問いかけてくる。
「まあ……大人には色々あるんだ」
「私とひとつしか変わらないじゃないですか」
そう言って怪訝な顔をする。でもすぐに笑顔に戻る。なんだか楽しそうだ。
だがそれに便乗するほどの余裕が俺にはない。今俺は“俺の知らない未来”を歩いている。
せめて笹山さんだけでも何もないように守らなければいけない。
しかし、幸運なことに何事もなく食事を終えることができた。
オススメの店だけあって、料理はかなりおいしかった。
タンシチューにガーリックトースト、そしてデザートのケーキ、何から何まで。
これが今回の“最後の晩餐”かな?
「結局奢ってもらっちゃって……ありがとうございます」
「いいさ。お金は俺には持ってても意味のない物だ」
「ホントに主任今朝からおかしいですよ?大丈夫ですか?」
そう言って笹山さんは心配そうな顔つきになる。
まあそう思うのも仕方ない。“こうなる前の俺”はこんな意味深発言やネガティブ発言をしたことがなかったしな。
俺は自分に対して皮肉めいたように軽く鼻で笑う。
「あっ!今私を笑いましたね!?」
笹山さんはそれを自分に対してだととらえたみたいだ。
「違う違う。これは自分にっ!?」
俺は弁解するべく笹山さんの方を向くと、大型トラックが歩道であるこちらに向かって走ってくる光景が映る。
しかもすぐそこまで来ている。油断した……。
俺は笹山さんを思いっきり前へと突き飛ばす。
目の前の光景がスローモーションで流れる。
俺はこれで死ぬんだ。でも……多分………。
そして俺の視界の半分をトラックが覆う。
俺が半分の視界で見た最後の光景は、トラックを避けられ地面に倒れる笹山さんと……その隣でこちらを悲しい表情で見つめる茶髪の知らない女性だった。
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