2話 予感
「リリーは【死】を予感した事ある?」
少し大きいが浅めに掘った穴に勇者達を放り込み、埋め直している時だった。
シャベルはやっぱり慣れない。
魔法使った方が早いのに、何でわざわざ手作業でやんなきゃなんねぇんだ……とげんなりしていた時だった。
今や『世界の存続』すら脅かす強大な力を手にして魔王となった、友人の一言。
突然何を言い出すんだ?
素直にそう思った。
【自らの死】なんてものからはほとんど無縁だと言っても良い様な人物が?
死に直面しても恐れず、堂々と正面突破して生き延びてきた様な人物が?
驚いて何も言えない俺を見たソイツは、顔にほんの少しの苦笑を滲ませる。
「ここ最近、感じてる違和感がどうにも拭いきれなくって。
胸騒ぎって言うか……やけに悪い予感がするって言うの?
しかも日を重ねる毎に増してくからさ。
呪いとかそういう魔術の類ならリリーの方が詳しいし、何か知ってないのかなぁって思って」
世間話をするみたいな調子で聞かされた内容は、少しばかり深刻そうで。
魔王の話と同じ、または近い効果をもたらす魔術は無かったか、片っ端から記憶をひっくり返してみる。
俺の記憶力は幼児もビックリするような鳥頭(だと魔王が呆れて言っていた気がする。意味は分からないがバカにされているのだろう)だが、魔術の類は自信がある。種類も呪文も扱い方も、全部暗記しているんじゃないかと自分でも思っている。
だから何かしら当てはまるんじゃないかと思ったんだが……
はてさて。首をかしげる。
「悪夢を見せる呪いとかは有るけど多分そういうのとは違ェんだよな。起きてても感じるんだろ?
……そんな呪い、俺は聞いた事が無い」
「呪いじゃなきゃあるの?」
「近いのだと【感覚予知魔法】ってやつがそうなんじゃねぇか?」
感覚予知魔法。
その名の通り、自らに訪れる罠や脅威を感覚的に予知する、ざっくり言えば勘を強化させる魔法。魔力が強い人だと呪文を唱えずとも使える扱いも発動条件も簡単な魔法でもある為、無意識に発動させていたケースも少なくはない。
「そんな魔法な訳だが……
その顔は納得って感じですかね〜?」
茶化す様に聞けば、相手は微かに笑う。
「お陰様でね。言われてみれば心当たりもあったし」
__でもリリー、その暗記力と知識量、もう少しどっか他に活かしたら?
ニヤリと笑うその顔はいつもの魔王様に戻って安心したが……クッソ腹立つ!
「ふざけんな!他に活かせてたらとっくに天才頭脳の持ち主だ!別に好きでバカになってるんじゃねぇ!」
そう叫んだ直後だった。
耳を劈く大きな爆発音。この音は結界を破って勇者達が城の中へと侵入した時にすぐ分かるように、と俺が仕掛けたものだ。
「……正規ルートの来客は初めてだね。
リリー、戻るよ。折角来てもらったのに部屋にいないんじゃ示しがつかない」
そう言う魔王は、『あの時』と同じ顔をしていた。
魔王の話 メルティ @melty_drop
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