第25話 魔王は必ず還ってくる
「どこにいこうかしら?」
「どこにいきましょうね」
分かれ道で、弁当を広げながらマロロとリオは呟いていた。リオは巫女のドレスを売り払いボロ着で、マロロは一層痩せていた。慰めとは言えないかもしれないが、その姿でも目立つことはない。
「小僧め、死ぬと踏んでいたがな」
マロロの背中の魔王が囁いた。マロロは、飯を喉に詰まらせてせき込み、リオが背を叩く。
「そ、そんなこと言わなくたって……」
「あんたは小心すぎよ、まったく、あの時の格好良さはどこいったの」
魔王に乗り込み、逃げ出した二人は、リオの魔法で応急治療を果たしたあと、出口の見張りを突破して逃げおおせた。奇跡といっていいだろう、満身創痍のマロロでは、とても生き残れるとも思わなかった。翌日の陥落とスロットの死を聞いても、リオにはなんの感慨も湧かなかった。それよりも、マロロの看病が大変だった、泣きわめき、痛みに叫ぶ姿は赤ん坊のようだった。
どうにか回復し、放浪を始めてから今もって、追っ手には遭遇していないが、野盗と戦乱には事欠かない。巫女は、その土地に留まらねば魔法を使えない。リオには落ち着く場所がいるが、生憎今の今まで見つからなかった。その日の食事にも事欠いて、この弁当も野盗を返り討ちにした金で買ったのだ。そのせいでマロロはまた吐いて、動くのに往生した。
「ま、どうにかなるわよ」
リオが弁当の包み紙を捨てながら言う。本来、もう、ともに行動する理由はないが、2人は離れなかった。腰抜けの『武器族もち』と本拠地を失った『巫女』、なんとも、ちぐはぐな組み合わせだった。厳しい暮らしに、終わらない戦乱。取り巻く状況は悲惨極まりない。
「そう、ですよね」
マロロが答えて、立ち上がった。彼らが歴史にその名を刻むには、まだ多くの時間と出会いと、悲しみが待っている。今の彼らは、取るに足りないちっぽけな存在なのだ。
「じゃあ、こっちに行くわよ」
「はい」
「いずこでも、同じよ」
だが、確かに生きている。歩み、食し、希望に向かって進み続けていた。
魔王は必ず還ってくる あいうえお @114514
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