月が光り輝く理由~満月に関する考察~より
寛くろつぐ
月が光り輝く理由~満月に関する考察~
月が光り輝く理由~満月に関する考察~
登場人物
ミチル
カケル
ミカ
シン
舞台中央にミチル。上手にカケルとミカ。
【ミチル】
『昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へきのこを取りに、おばあさんは田んぼへ稲を刈りに行きました。
おじいさんとおばあさんの家に誰もいなくなると、どこからかカラスが現れてこっそり家に忍び込みました。それを見かけたウサギが慌てて家に入り、こう言いました。
「カラスくん、人のものを勝手に盗んじゃ駄目だよ!」
そしたらキツネはこう返しました。
「盗みやしないよ。イタズラするだけさ。どうだい、ウサギくんも一緒に・・・(ミチルは話を続けている)
カケル、ゆっくりとミチルに近づこうとする。気付いたミカが慌てて止める。
【ミカ】 駄目!
【カケル】 放してよ。
【ミカ】 駄目だよ!ミチルに近づくと死んじゃうんだよ!
【カケル】 それがどうしたんだよ。もう、見てられないんだ。一人ぼっちのあいつは。
【ミカ】 でも、死んじゃったらもうミチルのお話が聞けなくなるんだよ!ずっと聞いていようよ!・・・あれ?聞こえなくなった。
【カケル】 ?聞こえるよ。
【ミカ】 うーん・・・とにかく、もう行かないの!
カケル、ミカに引き戻される。ミチル、口パクになる。
【カケル】 あれ、ほんとだ聞こえなくなった。
【ミカ】 ねっ。・・・あれ?やっぱり聞こえる。
【カケル】 いや、でもほんとに聞こえないんだ。さっきまで・・・(ミチルの声が戻って来る)あ、聞こえてきた。
【ミカ】 なんでだろ・・・ま、いいや。・・・こうやってミチルのお話を聞いてるとさ、不思議と元気が出てこない?ミチルはさ、皆に生きててほしいんだよ。だからこうやってお話ししてくれてる。
【カケル】 ・・・確かに、彼女の話は皆を元気にしてくれる。皆が生きるエネルギーをもらってるんだと思う。でも僕は違う。ミチルの声を聞くたびに、近寄りたくなるんだ。あの手を、しっかりと握りしめたくなるんだ。
【ミカ】 それでも、近寄っちゃだめだよ。カケルが死んじゃったら、きっとミチルも悲しむよ?
【カケル】 どうかな。ミチルがあんな状態になってから、どれだけ大きく手を振っても、どれだけ大きい声を出しても、気付いてくれなくなった。きっと僕が死んだって気付かないよ。
【ミカ】 ・・・辛いならさ、別にずっとここにいなくてもいいんだよ?ミチルの声は、どんなに離れても聞こえてくる。私たちがどこにいても、元気を与えてくれるんだから。
【カケル】 声が聞こえてるなら、離れたって一緒だよ。思い出して辛くなる。
【ミカ】 ・・・どうして、カケルはそんななの?なんでミチルのお話を聞いても、元気にならないの?
【カケル】 ・・・なんでだろうね。多分、元気になる方法を知らないんだ。
暗転。ミチル、ハケる。ミカとカケルは中央へ。
明転。裏からミチルの話が聞こえてきている。
【カケル】 行かなきゃ。
ミカ、ハケようとするカケルを引き戻す。
【ミカ】 だから駄目だって!確かに彼女には人を引き付ける魅力があるよ。でも、今までずっと見てきたでしょ?何人もの人がミチルに近づこうとして死んでいったのを!
【カケル】 うん。暫くしたら、蒸発するみたいに消えてった。
【ミカ】 それは多分、ミチルがどんどん人を吸収していってるんだと思う。
【カケル】 そして、どんどん彼女の声は活気に満ちていくんだ。より多くの人を元気にするために。だから僕が行けば、皆のためになるんだ。
ミカ、またしてもハケようとするカケルを引き戻す。
【ミカ】 そんなの唯の口実じゃん!
【カケル】 ・・・そうだよ。口実。言い訳だよ。でも、彼女の一部になれるなら、声になれるなら、どんなにいいかって。だって、ずっと話ばかりしてるんだよ?ただひたすら。顔や声は明るいけど、心はとても寂しいんじゃないかって思うんだ。
【ミカ】 確かに、人を吸収するたびに、ミチルの声は温かくなってくけど、その代わり人からはどんどん離れてる気がする。でも、カケルがミチルに吸収されたら、それこそミチルを寂しくしてる気がするんだけど。
【カケル】 ・・・でも、僕は・・・
【ミカ】 私には、カケルが必要なの。だから、行かないで。
【カケル】 ・・・
ミカ、再びハケようとするカケルを引き戻す。
【ミカ】 もう!
暗転。二人ともハケる。
明転後、シンが泣いている。カケルが歩み寄ってくる。ミチルの話が裏から聞こえている。
【カケル】 どうしたの?
【シン】 お話が、聞こえなくなっちゃったんだ。
【カケル】 ・・・ミチルの、お話?
【シン】 分かんない。知らない。
【カケル】 お父さんかお母さんに教えてもらわなかった?
【シン】 もういない。
【カケル】 そっか・・・
【シン】 でも、ずっと聞こえてたのに、楽しかったのに、消えちゃったんだ。悲しくなっちゃったんだ。
【カケル】 ・・・そっか。
【シン】 ・・・。
【カケル】 ・・・本当に、聞こえないの?
【シン】 うん。段々声が小さくなって、消えちゃったんだ。
【カケル】 ・・・してあげよっか。お話。
【シン】 えっ?
【カケル】 聞きたいんでしょ?
【シン】 うん!おにいちゃん、してくれるの?
【カケル】 うん。・・・途中からで、いいなら。
【シン】 やったー!じゃあ、お願い!
【カケル】 わかった。・・・えっと、・・・(ミチルと合わせて)『蛇の王様は、喜びのあまりジャンプしすぎて王冠を落としてしまいましたが、もう誰に対しても怒りませんでした。そして、落ちた王冠と椋鳥とを見比べて、こう言いました。
「よし、今回の褒美は、その王冠ということにしようではないか。よいであろう、皆の者!」
城中に集まった動物たちは、一斉に大きな拍手を送りました。しかし、その拍手を遮って、椋鳥が言いました。
「私が王となれたのは、皆様の支えがあったからこそです。この王冠を粉々に砕いて、皆様に一かけらずつ与えましょう!そうすれば、全ての方々が王様です!」 それを聞いた皆は、更に大きい拍手を送りました。そしてこの国は、ずっと絶えることなく平和に続きました。』・・・ふぅ。終わり!
シン、拍手を送る。
【シン】 楽しかったー!ありがとー!
【カケル】 (微笑んで)どういたしまして。
ミカ、入ってくる。
【シン】 じゃあねーおにいちゃん!ばいばーい!
シン、ハケる。
【ミカ】 ミチルの声と混ざって、カケルの声が聞こえてきたんだけど、どうしたの?
【カケル】 ・・・てことは、さっきのミチルの話はミカは聞こえてたの?
【ミカ】 うん。
【カケル】 さっきの子は、聞こえてなかったみたいなんだ。
【ミカ】 ・・・どういうこと?
【カケル】 うーん・・・多分だけど、人によって、聞こえる時間帯が違うんじゃないかな。
【ミカ】 ・・・何で?
【カケル】 分かんないけど・・・。ほら前にさ、僕とミカとでは聞こえるタイミング、聞こえないタイミングが違ったよね?そんな感じで、違うんだよ、きっと。
【ミカ】 ふーん。・・・ねぇカケル、笑ってる?
【カケル】 え?
【ミカ】 何か、前より元気そう!
【カケル】 ・・・そうなんだ。実は僕ね、さっきの子にミチルの話をしてあげたんだ。
【ミカ】 してあげる?
【カケル】 聞こえてくる話をそっくりそのまま伝えるんだよ。
【ミカ】 そんなことできるの?
【カケル】 うん。できた。
【ミカ】 それで、あの子も楽しそうだったんだ。
【カケル】 ・・・よし、決めた。
【ミカ】 何?
【カケル】 僕ね、これを仕事にしようと思う。
【ミカ】 どういうこと?
【カケル】 僕がミチルの話が聞こえるときに、聞こえない人たちに伝えてあげるんだ。聞こえなくて悲しんでいる人たちに、生きる希望を、元気を与えてあげるんだ。
【ミカ】 ・・・よく分かんないけど、カケルが生きてくれるのなら、それでいい。
【カケル】 ・・・実を言うと、ミチルに近づきたいって気持ちは変わらないんだけどね。
【ミカ】 ・・・馬鹿。・・・まあ、何度でも引き戻してあげるけどね。・・・ねえ、当然私が聞こえない時にも聞かせてくれるんだよね?
【カケル】 もちろん。
暗転。
明転後、下手にミチル、中央にシンとミカが背中合わせに。シンはミチルを、ミカはカケルを見るような形で座ってる。上手にカケル。
【二人】 『おじいさんとおばあさんが家に戻って来ると、そこにはたくさんのごちそうが並んでいました。今日は二人の結婚記念日だったのです。カラスとウサギは、力を合わせて最大級のイタズラを行ったのです。
おじいさんとおばあさんが持って帰った食材も合わせて、二人と二匹はお腹いっぱい幸せな時間を過ごしましたとさ。めでたしめでたし』
ミカとシン、ひとしきり拍手した後、
【ミカ】 カケルさ、今一番輝いてるよ。
暗転。シンとミカはハケる。
溶暗。中央にミチルとカケル。
【カケル】 ミチルが、僕を輝かせてくれた。ありがとう。
カケル、ミチルの手を握る。倒れる。
【ミチル】 カケル。今まで、ありがとう。
暗転。
これにて終焉。
月が光り輝く理由~満月に関する考察~より 寛くろつぐ @kurotugu
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