廻月~満月に関する考察~より

寛くろつぐ

廻月~満月に関する考察~より

廻月~満月に関する考察~より


キャスト

 女

 男1

 男2

 男3



 男1が壁にもたれかかって寝ている。そして、女がその男に語りかける。


【女】  今宵は満月。そなたの月も同じように最大限に光り輝き、欠けることを忘れ、永遠に空をのぼり続けるであろう。


 女、去る。男1、起きる。


【男1】 あん?・・・月がなんだって?・・・誰もいねぇ。


 男2、銃を持って現れる。


【男2】 見つけたぞ!快楽殺人犯!

【男1】 ちっ!

【男2】 貴様が犯した罪、償ってもらう!


 男2、撃つ。男1、避ける。撃つ。避ける。


【男2】 すばしっこいやつめ!


 撃つ避ける撃つ避ける。・・・末に、男1壁に追いつめられる。


【男1】 くっそ・・・

【男2】 もう逃げられんぞ・・・。最後に、貴様の罪状を腐った頭にしっかりと刻み込んでやる。・・・貴様は、幾度となく人を殺した。ただ、己が楽しむためだけに。そして最後に、俺の妻を殺したんだ。・・・もう分かっただろう?貴様が、死に値するに十分だってことが。・・・何か言い残すことはあるか?

【男1】 ・・・クソッタレ。

【男2】 ・・・死ね!


 男2、引き金に力を込める。

 カチリ。銃声は鳴らない。


【男2】 ・・・何故だ?まだ弾は入っているのに!


 カチリカチリカチリ。カチリ。

 男1、ふと空を見上げる。


【男1】 フフフフフフ。フフハハハハハ。

【男2】 くそっ!何だ?時化っちまったのか?

【男1】 ハハハハハハハ!


 男1、ゆっくりと男2から銃を奪い取る。


【男2】 なっ・・・

【男1】 思い出した!思い出したぜ!

【男2】 ・・・思い出した?

【男1】 『今宵は満月。そなたの月も同じように最大限に光り輝き、欠けることを忘れ、永遠に空をのぼり続けるであろう』・・・ハハハ!満月か!確かにそうだ!

【男2】 おい、やめろ、撃ったって無駄だ、

【男1】 今夜は満月。俺のツキは絶好調。確かにお前は運が良かった。長い間逃亡し続けた俺を見つけられたんだからなぁ。だがもう遅い。ツキは回ってきたんだ。もちろん、俺のほうになあ!


 男1、撃つ。男2、倒れる。

 男3、現れる。


【男3】 ・・・父さん!

【男2】 ・・・逃・・・げろ・・・


 男3、暫しの後に逃げる。と、男1に脚を撃たれる。引きずりつつ、逃げる。

 男1、また撃とうとするが、弾は出ない。


【男1】 弾切れか。・・・まあいい。もう俺のツキは、欠けることを忘れたんだからな。


 暗転


 溶暗


 男2・3、フード付きの服を着ており、フードを被ったままたむろっている。

 男1、見つけて撃つ。楽しそうに楽しそうに。男2・3倒れる。

 倒れた男2・3のポケットから、財布を見つける。中には大金。歓喜。

 女、同じようにフードを被って現れる。

 男1、見つけて撃つ。楽しそうに楽しそうに。女倒れる。

 倒れた女の腕についた時計を外す。自分の腕に付ける。恍惚。


 暗転


 明転後、初めと同じように女と男1。


【女】  今宵は満月。そなたの月は今尚輝いているが、それを奪わんとする輩が現れる。しかし、何も杞憂に捕らわれる必要はない。そなたの望月は、欠けることを知らず、天をのぼり続けるのだ。


 女、消える。男1、起きる。


【男1】 ほーぅ。俺に歯向かおうって奴がいるのか。おもしれぇ。一体どんな奴なんだろうね?


 男3、銃を持って現れる。


【男3】 見つけたぞ!快楽殺人犯!

【男1】 ふーん。こんなひょろっちぃのか。

【男3】 貴様が犯した罪、償ってもらう!


 男3、撃つ。当たらない。撃つ、当たらない。


【男3】 く・・・

【男1】 手が震えてるぜ?お前の銃の腕が下手なのか、俺のツキが良いだけなのか。ハハハ!

【男3】 ・・・月?

【男1】 んー?そういやお前、前にどっかで見たことある気がするんだよなぁ。どーこだったっけかなぁ。

【男3】 ・・・ふざけてるのか。・・・俺は、満月の夜に、貴様に父さんを殺された男だ!

【男1】 ・・・あーあー!思い出した!思い出したぜ!あの時の、あいつか!ハハハ・・・脚はご健在かい?

【男3】 ああ、今でも痛むけどな。貴様を忘れないためにはちょうどよかった。

【男1】 それで、復讐に来たってわけか!満月の夜に!ハハハハ、どんなやつが相手かと思えば、復讐ごっこに現れたヒヨッコか。

【男3】 ごっこなんかじゃない!


 男3、撃つ。・・・当たらない。


【男1】 さあ、もっと撃て。あの時の、お前の親父のように!俺のツキを、望月を奪えるようになあ!


 男1、自ら壁に背を付け、挑発する。


【男3】 死ね!


 男3、撃つ。カチリ。弾は発砲されない。


【男1】 まあ、もっとも、俺のツキは欠けることを知らずに、天を昇り続けるんだけどなあ!ハハハハハハ!

【男3】 くそっ、何故だ!弾はまだ入っているはずなのに!


 カチリカチリ。撃鉄音だけが空に虚しく響く。

 男1、ゆっくりと男3から銃を奪い取る。


【男3】 う・・・嘘だろ・・・

【男1】 いやー、ざーんねーんでーしたー。復讐ゲームもここで終わりー。終点ー。人生の、終点でございまーす。最後に、お前の敗因を足らない頭にしっかりと刻み込んでやろう。お前は・・・ツキが回って来なかっただけさ!俺の満月の前に、ひれ伏すしかなかったんだよ!ヒャハハハハ!・・・さて、何か、言い残すことはあるか?

【男3】 ・・・貴様は、クズだ。

【男1】 ハハ、ハハハハ!良いね!クズ、か!それで最高のツキが得られるなら本望だ!・・・こんな絶好調の俺に立ち向かった哀れな復讐ボーイは、圧倒的ツキの無さに、俺のただの楽しみの一つにしかなりませんでしたとさ!


 男1、撃つ。・・・カチリ。


【男1】 あー?弾は・・・入ってるみてぇだな。(カチカチカチ)時化ってんのか?


 男1、銃を捨てて、自分の懐から銃を取り出す。


【男1】 今度こそ、サヨーナラ。


 カチリ。


【男1】 ああ?どうなってんだ?


 男1、暫く銃をチェック。その間に、男3は空を見上げている。


【男3】 満月だ・・・

【男1】 あ?

【男3】 はは、はははは、あははははははは!

【男1】 何だ?なんかおかしいのか?

【男3】 ・・・『今宵は満月』

【男1】 ・・・!お前、まさか・・・

【男3】 『今宵は満月。そなたは満月を奪い、それを永遠に我がものとするであろう。そなたに、月が、回って来るのだ』

【男1】 そんな・・・馬鹿な・・・


 男3、ゆっくりと地面に落ちた銃を拾う。


【男1】 違う・・・ツキは俺のもんだ・・・こいつなんかに、奪われるはずがない・・・


 男3、ゆっくりと銃を男1に向ける。


【男1】 おい、やめろ、撃ったって無駄だ、

【男3】 今夜は満月。変だと思ったんだよなー!今日はやけに脚の調子が良い。あれだけリハビリしてもうまく動かなかった脚が、脱兎のごとく速く動く!なるほどなー、今朝の夢に出てきた女は真実を語っていたんだ。・・・今夜は満月。俺は、貴様のツキを奪いに来たんだ。もう、お前にツキは回って来ない。永遠に。

【男1】 ・・・おかしい、おかしいぞ!あの女は、俺のツキは欠けることを忘れて、欠けることを知らずに、ずっと空に、天に昇り続けるって言ってたんだぞ!

【男3】 ・・・それはな、ただ単に、お前だけがツキは欠けないと思っているだけで、もうとっくに欠けてるんだよ。欠けることなんて考えやしないんだ。忘れるのも知らないのも当たり前だ。そして、ずっと空にだって?そりゃお前、文字通り昇天するってことさ。お前の魂は肉体を離れ、永遠ともいえる天空を上り続けるんだ。つまり、死ぬんだよ。

【男1】 ・・・やめろ、やめてくれ、・・・撃つな!撃つんじゃない!

【男3】 バイバーイ。


 撃つ。男1、倒れる。


【男3】 ふふふ、ふははハ、フハハハハハハハハ!・・・人を!殺すって!こんなに楽しいことだったのか!ハハハハ、ハハハハハハハハ!


 暗転


 溶暗。男1・2・3が倒れている中、女は立っている。


【女】  今宵は満月。あなたの月も最大限に光り輝き、夜空に美しく昇っていることでしょう。そして、欠けることを知らぬままに朽ちていき、やがて月は影に覆い尽くされてしまうでしょう。月は、廻り続けます。


 暗転。閉幕。

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