ひきぬけん
寛くろつぐ
ひきぬけん
ひきぬけん
登場人物
王子
世話係
村人A・鍛冶屋
村人B・子供
舞台中央に石。剣が突き刺さっている。
それを引き抜こうとしている村人A・B。なかなか抜けません。
王子・世話係、下手から登場。
【王子】 ・・・であるからして、俺様の知名度を高めねばならないのだよ、君。
【世話係】 王子、耳栓していいですか。
【王子】 貴様・・・!
王子、必死に力んでいる村人を見つける。
【王子】 おい、そこの貴様ら、何してる!
【村人A】 あ、バカ王子だ。
【村人B】 逃っげろー!
【王子】 おい、待て!・・・
村人A・B逃げる。
【世話係】 フッ、知名度高いじゃないですか、バカ王子。
【王子】 なっ、貴様までバカ呼ばわりを・・・しっかし、あいつら平気で俺様の領地に入ってきやがって・・・公開処刑にしてくれようか。
【世話係】 ここはあんたの領地じゃありませんよ。王様の領地です。そしてあんたにそんな権限はありません。
【王子】 フン、親父のモノは俺様のモノ、俺様のモノも俺様のモノだ!
沈黙
【王子】 ・・・ところで、あれは、何だろうな?剣?剣のようだなぁ。
【世話係】 王子、滑ったからって話を逸らさないでください。
【王子】 そうか!さっきの連中はこれを盗もうとしてたんだな。許せん・・・
【世話係】 だからあんたのものじゃありません。しかし、石に刺さった剣ですか・・・これは彼の偉大なる王、キング・アーサーが抜いたといわれる剣に似ていますね・・・
【王子】 ん?何だって?
【世話係】 (口調変えて)ある時、剣が刺さっている不思議な石が現れました。その剣には、「この石から剣を抜いた者は王になれる」と書かれており、あらゆる領主や騎士たちが剣を抜こうとしましたが、誰にも抜くことができませんでした。
【王子】 おーい、どうした・・・
【世話係】 しかし!たった15才の少年アーサーが、たまたまその剣を見つけ、何気なく引き抜いてしまった・・・こうして彼は、王として即位したのです!(王子を押し退けて)もしかするとこの剣も、そういった類のものかもしれませんねぇ。
【王子】 貴様ぁ、俺様を無視するな!そしてもう一回俺様にわかるように説明しろ。
【世話係】 (口調戻る)今のが分からなかったんですか?ほんっとバカですね。いいですか?この剣を引き抜けば、王になれるかもしれないってことですよ王子死ねばいいのに。
【王子】 おい、今・・・
【世話係】 試しに抜いてみたらどうですか?地位も名誉も上がるかもしれませんよ。
【王子】 そんなバカな話があるか。剣を抜いただけで王になれるわけがなかろう。
【世話係】 じゃあ私が抜いてみましょうか。これで私が王に・・・
世話係が剣の柄に手をかけかけたところで、王子が遮る。
というか世話係を突き飛ばす。
【王子】 あーっ、待て待て!やっぱり俺様が・・・。(咳払い)まあ、そろそろ手持ちの剣を新調しようと思っていたところだったのだ。
【世話係】 単純バカ王子。
王子、世話係を睨む。引き抜こうとする。抜けない。
頑張る。抜けない。ひたすらに頑張る。全く抜ける気配がない。
世話係、傍から見て笑いをこらえている。世話係、たまらず吹き出す。
【王子】 何だ、貴様!
【世話係】 (少し笑いながら)いえ、何でもありません。どうぞ続けてください。
バカ王子、何はともあれ頑張る。が、やっぱり抜けない。疲れて諦める。
【王子】 くっそー何だこの剣、びくともしねーな。どうすれば・・・そうだ!おい貴様、鍛冶屋を連れてこい。鍛冶屋なら抜き方がわかるはずだ。
【世話係】 ほんとですかねぇ・・・
世話係、携帯を取り出して電話をかける。
【世話係】 あ、もしもし?鍛冶屋のおっちゃんですか?・・・いつもお世話になっております。今、来れますか?バカ王子がうるさいので・・・場所は・・・え?分かるんですか?・・・え?さっき?・・・ハケたから?・・・舞台袖にいるから?・・・すぐ来れる?なるほどさすがです。
世話係、電話を切る。
【王子】 ハケたとか舞台袖だとか、どういうことだ?俺様に分かるように・・・
【世話係】 バカ王子には分からなくていいことです。
鍛冶屋、リュックかついで杖をついてのっそりと登場。
【王子】 ヨボヨボじゃねーか!どう見ても「おっちゃん」じゃなくて「おじいさん」だろ!うーん大丈夫かなぁ俺様心配。
【鍛冶屋】 らいひょーふひゃよ、まらまらわふぁいもんりはまへん!
【王子】 ・・・何て言ったんだ?
【世話係】 『大丈夫じゃよ、まだまだ若いもんには負けん!』ですか?
【鍛冶屋】 ほーひゃ(そうじゃ)。
【王子】 よく分かるな。あれ歯抜けとかいうレベルじゃないぞ。まず歯抜けてねぇし。ん・・・心なしか、さっきの連中のひとりと似てるような・・・
【世話係】 気のせいですよ。お疲れなんじゃないですか?
永久に眠って楽になるのがいいと思います。
【王子】 貴様・・・
【鍛冶屋】 ほんれ、わひゃぁいっはいらにをふればええんやろ?バカ王子。
【世話係】 『そんで、わしゃぁ一体何をすればええんかの?バカ王子』?
【鍛冶屋】 ほのひょーり(そのとーり)。
【王子】 いや何で『バカ王子』だけ普通に発音できてるんだよ。もういい。貴様らに嫌われてるのは良く分かった。しかし俺様が王になればそんなことどうでもいい。おいジジィ・・・
王子、鍛冶屋に殴られる。
【王子】 ってぇ!
【鍛冶屋】 りりぃおばありはうるさんろ。
王子、世話係に殴られる。
【王子】 ってぇ!
【世話係】 『ジジィ呼ばわりは許さんぞ』?
【鍛冶屋】 いぇふ(イエス)。
【王子】 何で貴様まで殴るんだよ!
【世話係】 通訳ですから。
【王子】 拳まで通訳すんな!ちゃんと伝わってるよ!くっそー。まあ、剣さえ抜ければ問題ない。おいジジ・・・じゃなくてじいさん。そこに刺さってる剣が抜けないんだ。鍛冶屋の技術でさっさと抜いてくれ。
【鍛冶屋】 ほうひゅーははるむんやろーお?
沈黙
【王子】 おい、通訳しろよ!
【世話係】 え?ああ、すいません。やはりバカには聞き取れませんか。てっきりもう慣れたかと。
【王子】 バカじゃなくても慣れんわ!
【世話係】 『報酬は弾むんじゃろーの?』
【王子】 あん?俺様は王子だぞ。王子から金取ろうっての(か?!)
【世話係】 (バカの口を塞ぎます)もちろんお払いします。王子は金持ちですから。
【王子】 貴様・・・!
【世話係】 王様になれれば元はいくらでもとれるでしょう?
【王子】 まあ、そうか。よし、払うからやれ。
【鍛冶屋】 らひゃー(らじゃー)。
鍛冶屋、リュックを下して中からドリルっぽいものを取り出し、作業に取り掛か る。
【鍛冶屋】 うぃぃいん!うぃ、ういぃぃぃぃぃいいぃいん!
【王子】 あれ、効果音自分で言ってないか?
【世話係】 気のせいです。
【王子】 何にしても、剣は傷つけるなよ!
【鍛冶屋】 うぃん!(←返事)うぃぃぃぃいいいいがぎご(←何かしくじった感じ)。
【王子】 おい(!)
【世話係】 (若干かぶせ気味)気のせいです。
鍛冶屋、ドリルらしきものをしまい、トンカチのようなものを取り出す。作業再開。
【鍛冶屋】 カーン!カーン!カーン!
【王子】 ・・・何かもう、テキトーにやってないか?
【世話係】 気のせいです。
【鍛冶屋】 カーン!カーン!ボゴッ。
【王子】 あ。
どうやら自分の指を叩いてしまったようだ。
鍛冶屋、指を押えて声にならない悲鳴を上げる。
【世話係】 お、おっちゃん?
【王子】 おい、大丈夫か?じいさん。
鍛冶屋、悔しさにまかせてリュックからダイナマイトに見える何かを取り出し、火をつけようとする。
【王子】 おいおいおいおい、やめろ!剣ごとふっ飛ばす気か!
王子、鍛冶屋からダイナマイトを奪いとる。
【王子】 やっぱり駄目だ。こんなやつに頼んでしまったのが間違いだったんだ。俺がバカだった。
【世話係】 やっと気付きましたか。
鍛冶屋、素手で剣を抜きにかかる。
【王子】 結局それかよ!・・・ん?というか、こいつに抜かせちまったらこいつが王になっちまうじゃねーか!
【世話係】 やっと気付きましたか。
鍛冶屋、頑張るが抜けない。
【王子】 いや、無理か。
【鍛冶屋】 ・・・グキッ!はうっ!
【二人】 あ。
ぎっくり腰。
鍛冶屋、リュックの方に向かう。が、倒れる。
リュックまであと少しなのに、手が届かない。
【世話係】 おっちゃん、まだシップで治してるんですか?
世話係、リュックからシップを取り出し鍛冶屋の腰に貼り付ける。
【世話係】 いいかげん病院行きましょうよ。
【鍛冶屋】 いやりゃぁー!りょういんあ、いやりゃぁーほへ!
鍛冶屋、崩れる。じたばたして腰にとどめを刺してしまったようだ。
【王子】 じいさん・・・
【世話係】 やれやれ。また運ばなくちゃいけないんですか。おっちゃんは世話焼きですねぇ。
【王子】 おい貴様、俺様の世話係だろ。だったらそんなジジ・・・
鍛冶屋、王子をにらみつける。
【王子】 じいさんのことなんかほっといて、この剣の抜き方を考えることに専念しろ。
【世話係】 何たる酷い王子。人間のクズですね。クズ王子。
【王子】 何だと!
子供、走って来る。剣を抜いてそのまま王子に斬りかかる。
【子供】 わーーい。あ、剣だ。よいしょ。えいっ
【王子】 ギャッ
王子、倒れる。子供、そのまま走ってハケる。
世話係、子供がはけた方向にGJ。
終幕
ひきぬけん 寛くろつぐ @kurotugu
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