おしまいに。
今回『エッセイ・実話・実用作品コンテスト』に応募するにあたり、私は自分の憤りや怒りを吐き出すことを選んだ。
読み手が明るい気持ちになりえない話は、当然だが、ウケが悪い。コンテストで人々のウケ、あるいは評価を狙うなら、明るく、かつ面白い話を書けばいい。ためになる体験談や実話…そういったものが自分の中になかったわけではない。
しかし、私はそうできなかった。
今切実に訴えたいこと……。それが頭を離れなかったからだ。
ずっと胸にしまい込んできた思いはふとした瞬間に頭をもたげ、蛇の形を取り、細長い下をちらちらさせながら、私にこう囁く。
『よくここまで口をつぐんできた。だが、そろそろいいんじゃないか。言葉にした方がいい。その強い思いが、言葉が、暴力に変わる前に』
私は手のかからない大人しい子供を強いられ、その型に押し込まれ、無理矢理形を整えられた。
日本の教育はただでさえ個性を摘み取る。そこでさらに家庭でも個性を押さえつけられた。私は私でありながらどこへ行っても私を表現することができず、ただただ自分を偽って生きてきた。
子供の特権は、大人になって得るものがまだないこと。そして、それらに縛られないことであると思う。
そして、それを保障するのは親の役目であると私は思っている。
それがなぜか、ということを自らの人生、過去をゆっくりと振り返りながら、文章に、言葉にし、読み物にする。それは涙や胸を焦がす思いを禁じ得ない、自分にとっても愉快とは言い難い感覚だった。
それでもこうして形にできたことはよかったのだと思っている。
私は言葉や行動で自らを訴えることはできなかったが、こうして言葉や文章で、自分の思いを伝える術を得た。誰に教わったわけでもないが、伝えたいことを伝える手段が全くないわけではなかった。それはある種、私の幸運だったのだろう。
正直なところを言うと、『親』について、『子供』について、これ以上書いても同じことの繰り返しで、怨み歌にしかならない。
書き始めてからコンテストの応募規定が『5万字以上』だと気付いたので、そんなにたくさん語ることはできないだろうな、と思いつつ書き進めていたが、やはり、そんなに長く語ることはできなかった。
あるいは表題などをガラリと変えてしまえばいいのかもしれないが、ここまで書き進めてきたのだ。無粋な真似はやめて、以上、ということにしてこの話を終わることにしよう。
今から『親』になるかもしれないあなた。あるいは、『親』になったあなた。
あなたがこの文章を目にし、最後まで読んでくれたのなら、お願いがある。
どうか、あなたが育てることになる、あるいは育てている『子供』を、不幸にしないでほしい。
私は自殺しなかった。その勇気と機会がなかったから。
しかし、私の体験だけでも、自殺は充分考えられる可能性だった。
子供に無残な死を遂げさせるようなことがないように。親になったら、精一杯、鬱陶しいと思われるくらいに、子供を愛してあげてほしい。
できれば、お金も時間もあることが親にも子供にも望ましいが、昨今の日本の状況では贅沢な条件だろう。どちらかしかない、あるいは両方ないという人もいるだろうと思う。
だからせめて、子供のことを愛してあげてほしいのだ。
あなたが後悔しないように。
子供が『生まれてこなければよかった』と一人泣くことのないように。
愛がすべてを解決するなんて甘いことはない。けれど、愛があればたいていのことは乗り越えられるというのは、事実であると思う。
私は今、愛してくれる人が隣にいる日常を送っている。
私は今、どうにかこうにか、自殺する前に、生きていてもいいかなと思う環境に身をおくことができた。
しかし、振り返るだけで涙が出てくる過去は、消えることはない。なくなることはない。
不幸に慣れてしまった私が幸福に慣れるには、不幸だった日々以上の時間がかかるだろう。
それでも、愛してくれる人がいる。だから、生きていこうと思っている。
二人で幸せになることが、今の目標だ。
やはり、そこに『子供』はいない。家計的にも厳しいと思うし、私は『親』になりたくない。子供を幸せに育てる自信もない。
二人で生きて、二人で死ねたら、それが一番いい。
愛された実感がないこと。子供でいられなかったこと。
それがどれだけ不幸なことか。そして、そんな子供が増えないことが、どんなにいいか。その一片でも伝わったのなら幸いである。
『親』といういきもの アリス・アザレア @aliceazalea
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