エピローグ
風のない猫の爪のように細い月の夜。
真っ暗闇の河原を蛍が一面中飛び交っている。
俺は一人で蛍を見に来ていた。
夏の宵 幽けき月の 光のもとに
集う蛍の あはれかな
今週末が見頃ですよ
昨日、管理人の柏木さんからの葉書が届いた。
あれから一カ月。
あの肝試しの夜、友人三人はやはり崖から転落して亡くなっていた。地縛霊になった俺の妹が殺したことは誰にも話していない。
淋しさに耐えかねて誰かを求めていた妹、乙葉。
乙葉は完全な白骨死体になって発見された。崖の下の天然の岩の割れ目の奥深く。小さく蹲るような恰好をしていたそうだ。おそらく自分から潜りこんだのだろう。
直接の死因は頭部強打のようだが、多分即死ではなく追かけられる恐怖から、奥へ奥へと逃げ込んだ。───俺が迎えに来るのを待って。
涙が頬を伝うのを拭いもせず俺は空を仰いだ。
飛び交う蛍。
満天の星。
もう乙葉が誰かを呼びこむことはないだろう。
両親と同じ墓で安らかに眠ってくれることを祈る。
幽けき月の光のもとで 楠秋生 @yunikon
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