第20話 嗚呼、異世界終わりなき物語

「よっと」


 底に焔魔法の紋章が刻み込まれた穴に、俺はゴミを放り込む。トラップ型の魔法だ、何かが上に乗ると反応してそれを燃やす、焼却炉に利用してるわけだ。別の魔法で許可がないと入れないとはいえ、万が一を思うとぞっとするぜ。まさかあいつら死体処理とかに……深くは考えないでおこう。

 ちょいと休もうと座り込むと、コンドルが2羽降りてくる。余った『ブルーナッツ』を放ってやると、ついばみ始めた。ここに居つくらしい、それもいいよなある意味すげえ安全だ。そういや盗賊のところにいたゴブリンも何匹か住み着いてるらしい、悪さをしない限りは放っておいていいとのお達しだ。まあ、いつものことだ。

 ……アインが死んでから、まだ1日も経ってないのに。

 織姫に死を告げられて、かれこれ30分泣き喚いた俺は、それからケロッとしちまった。庭の隅に穴を掘って、墓石を立てていつもの雑用に勤しんでる。おかしいだろ? 俺もそう思う。悲しいんだ、悔しいんだ。でも、なんでかこうなっちまう、こうしてると不思議と気分が軽くなる。

 ああ、逃げだよ逃げ。日常に逃げて、誤魔化そうとしてるんだ。回復魔法が使えたら、もっと性能の良い回復薬をもってたら、俺があのクソ村人に反応できてたら、いくらでも考える。けど、あの時には戻れない。


「すまねえ」


 なんて軽い言葉だ。こんな謝罪の言葉をいくら重ねても、何にもならねえ。なのに、これしかできねえ。こんなことしかできねえ。


「ちくしょう‼」


 叫んだ俺に驚いて、コンドルが飛び立ち塔の一つに止まった。


「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」


 殴った。地面を何度も何度も殴った。すごいだろ? 小さいけどクレーターができてる。完全防御&変形する鎧もある。そうさ、十分特別な力を俺は持ってるんだ。


「くそおおおおおお!」


 なのにどうして、アインは助けられないんだ? あいつが無事なら……こんなのいらねえ、そういう展開でいいじゃねえか。


「くそお……」

「大吉……」


 織姫の声だ。俺は慌てて立ち上がり、涙をぬぐう。目が赤いのは誤魔化せないが、それでもましだ。いつもの従者の態度で接しろ。


「すいません、すぐ戻ります」

「待って」


 織姫が、歩き出そうとした俺の前に立って、じっと目を見る。やめろよおい、いつも自信満々傲岸不遜がお前のニュートラルだろ。そんな顔で見ないでくれ。


「あの子は、誰なの?」


 そっか、詳しく話してなかったんだな。こいつにしてみりゃ、いきなり俺が背負って現れた子供なんだよな。


「俺らと同じ、あっちから『マキュラール』に来た奴の子孫です」

「……そのせいで、あんなことに?」

「……まあ、そうです。お嬢様、あいつら助けるの、続けてください。俺、なんでもしますから」

「……ええ」

「ありがとうございます」


 悔しいけど、俺じゃ何もできねえ。今まで通り、アインと同じ境遇の奴もそれ以外の奴も、こいつらに保護してもらわねえといけねえ。情けねえけど仕方ねえさ、今はそうでも、いつかは下剋上するんだ。そう、いつかは……いつかは……そうすりゃ……。泣くなって、俺の目。やめろよ。


「大吉……」


 泣くもんか、笑われちまう。あいつが、アインがこんなの見たらよお。俺は格好良くて強い兄貴で師匠で……。


「お、織姫……」

「うん」

「お、俺……絶対、絶対アインを生き返らせる」

「うんうん」

「ほ、本当だぞ、そして世界一すごい男になって……あいつはNO2だ。だ、大出世だ。お、お前らよりずっとすごいんだぞ」

「そう」

 

 後悔はもう十分やった。あとは、立ち上がるしかねえ。

 下剋上と、クソ村の……じゃねえ、『マキュラール』の腐った偏見の撲滅、そしてアインを生き返らせる。それが今俺がすべきことだ。

 だから、泣くことなんてない。最後はハッピーエンドだ。だから、止まれよ。止まってくれ。笑う処だろここは。

 嗚呼、涙なんかくそくらえ。

 



 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嗚呼、栄光の白帝学園生徒会よくそくらえ‼ あいうえお @114514

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ