第2話

さて、渇望していた素人女とのどこまでも個人的な交友の日。風呂嫌いの貫太郎も、この日ばかりはと銭湯を奮発し、身体の隅々まで洗いつくすと所有している洋服の中で一番新しいと思われるシャツと時代遅れのケミカルウォッシュのハイウエストジーンズを穿き女の指定した場所に向かった。約束の時間きっかりに着いたつもりだったが、そこに女の姿はまだ無かった。仕方なしに、ハイライトを取り出す。時折、派手なルージュを引いた厚化粧の化け物やセカンドバッグを引っ提げたガタイの良い男とすれ違う事から、ここが夜の街であることは明白だった。お礼だと言って、こんなところに呼び出すのだから、きっと覚悟があるんだろうと貫太郎は内心ドギマギしながら女の来るのを待った。一本、ハイライトを吸い終わるところで女がやってきた。遅れて来た事にちっとも悪びれるそぶりも見せず会釈だけして「こっち」と薄暗い路地を指さしてさっさと歩きだしてしまった。本当ならば女の脇腹を蹴り飛ばして、倒れた女にまたがり頬に平手打ちを二、三発繰り出して無抵抗になった女を犯しまくってやりたいところだったが、この後の女との甘味な交わりの為だと必死に抑え、女の後を黙ってついて行った。しばらくすると、あるビルの前で女は立ち止まり、貫太郎を中へ招き入れた。


「なんだい?ここ、薄暗くって気味が悪いや。あとなんか臭うね」


「ここ、私ん家なの」


「こんな繁華街の真ん中に住んでんのかい?物騒じゃないかしら・・・」


 通された薄暗い室内に入るなり、女は私にキスをした。舌をねじ込む激しいものでざらりとした女の舌の感触が心地よく、それだけで昇天してしまいそう。負けじと応戦し、そのまま成し崩しに女のスカートを引きずり下ろすと、艶めかしい太ももに挟まれた黒のショーツが見え、一気に雄々しい股間の疼きが爆発してしまいそうだった。平生、女のショーツはもっぱら黒が興奮する質に出来ている貫太郎も、このいきなりのサプライズには一回で飽き足らず、二回戦、三回戦と粘ってしまった。最初は遠慮がちに喘ぎ声をあげていた女も流石に慣れてきたのか、合間に「ちょっと休憩」なぞと抜かしてトイレに行ったり水を飲んだりずいぶん勝手気ままにこちらを惑わせてくる。そのこなれた感じから、やはり彼女も処女ではなかったと落胆してしまったが、この際それはどうでも良かった。貫太郎は久しぶりに素人女とロハで気の済むまで発射できた心地よさを噛み締めていた。


「しかし、なんだって君はあんなところで一人寝そべっていたんだい?」


「死のうとしてたの。でも上手くいかなくて、水の中で息を止めるのって難しいのね」


「殺生な。バカも休み休み言えよ。僕は君に生きててもらわなくちゃ困るんだからね」


「生まれ変わりたいの」


「一体何にさ?顔が気に食わないんなら整形のひとつやふたつ、最近の技術ならどうですぐ済むし、それに僕は君の素朴な顔、嫌いじゃないよ」


「あなたには分からないわ」


 そこまで話すと女は俯き、此方が次の言葉を投げかけても生返事をするのみになってしまった。罰が悪るくなり、いつまでもだらだらとこの場に留まっても仕方ないので貫太郎は早々と支度を整えて、ひとまず今日は帰路につき、また後日女と逢瀬を交わすつもりでいた。


「そうだ。君の名前を教えておくれよ」


「乙姫よ」


「ふざけちゃいけねぇや。真の名前を教えてくれなくちゃ」


「ううん。ここじゃそう呼ばれてるの。これお土産。帰るまで絶対に開けちゃダメよ」


 扉を閉める女の顔が今にも泣き出しそうだった。

女の言いつけを破り、貰った箱の中身を見ると、女が身に着けていた黒のショーツが入っていた。普通の女なら、到底こんな芸当は致すまい。いくら黒のショーツが好きな貫太郎にしてみても、これはちとやりすぎである。胸騒ぎがし、女と歩いてきた薄暗い通りの反対側の道に出やると、確かに先ほどまで自分が居たであろう女の部屋があるビルには「ヘルス竜宮城」の文字がギラギラと輝いていた。貫太郎は今更ながら、日に何十人もの男と寝ているであろう公衆便所と、三度も生でしてしまった失態に精気を失った。

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浦島貫太郎 チョトマテクダサイ @cyotomatekudasai

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